ＹＯＵ ＢＥＣＡＭＥ ＳＯ…

第二幕

男だってそう感じることが

『イケメンの着替えシーン、大好物です♡』

　そんなことを言って出て行ってくれない緑川さんに俺が困ってると、

「……！」

　千裕さんがすごい表情で緑川さんを睨み付けてるのに気が付いた。

『マズい……！　このまま千裕さんがキレたりしたら……！』

　俺がそう思った時、

「先生！　いい加減にしてください！！　締め切りは明日なんですよ！？　さっさと仕事してください！！」

　ゲーム会社のスタッフの女性が駆け付けてくれて、二人がかりで緑川さんを連行していってくれた。

「涼く～ん！！」

　緑川さんの声がどんどん遠ざかっていく様子に、俺もホッとする。千裕さんも腰が抜けたみたいに椅子に座ってた。

　やれやれ。もしあのまま居座られていたら、千裕さんがキレなくても俺としてはすごく嫌な気分だったから、セクハラは成立したと思う。でも、俺の立場ではそれを言い出しにくいのは分かるんだ。セクハラとかって、そういう部分が難しいんだろうな。しかも男の俺が女性にセクハラされたって、

『むしろ良かったじゃん』

　的なことを言われるのも多そうだ。でも、嫌なものは嫌なんだよ。これが芙美だったら、『出てけよ！』とか言いながらでも許せただろうけど、今日初めて会った見ず知らずの女性になんて、嬉しくないよ。男だってそう感じることがあるって、なんで分からないんだろうな。

　とにかく、『嫌なものは嫌』って言えない空気って、毒だと感じた。俺は、自分はそうならないようにしなくちゃって思う。

　そういうことも含めて、ゲーム会社の人が緑川さんを連れてってくれて本当に助かった。俺が、

『出てってください！』

　とか強く言ってそれに逆ギレされたりしたら、きっと社長にまで迷惑が及ぶ。今後の俺のモデルとしての仕事にも影響するかもしれない。

　もしキレてたのが千裕さんだったとしても、彼女の事務所が迷惑を被るだろうし、その責任を取らされて千裕さんがモデルを辞めさせられることだってあったかもしれないよな。

　ああ、本当に根が深い問題だと思う。こういうのは。高校生の俺だってこれくらい考えてるのに、なんで大人がそれを分からないのかが本当に分からない。大人ってそんなんでいいのか？

　こういうのも必死になって正当化しようとしてくるのもいるんだろうけど、そんなだから、

『生き難い世の中だ』

　って感じるのにな。なんでセクハラとかする方を優遇して、嫌な世の中ってのをわざわざ作ろうとするのかが俺にはマジ理解不能だよ。

　緑川さんも、たぶん、悪い人じゃないんだろうけどさ。でも、大人ならわきまえてほしいよな。