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飛躍の章

それを受け入れた時に幸せが

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 藤宮さんのお母さん、里香さんは、店の制服(よくそのサイズ用意してあったな……)に着替えると、これまではほとんど使われてなかった、正直、マスター自身の賄いを作るくらいにしか使われてなかったキッチンで、料理を作り始めた。

「はい、オムライス、いっちょ上がり♡」

 そう言ってカウンターに置かれたオムライスは、ふわっふわのとろっとろな感じで、めちゃくちゃ美味そうだった。それを、

「は~い♡」

 藤宮さん(お母さんももちろん藤宮さんだからややこしいし次からは『舞美まみさん』って呼ぶことにしよう)が受け取って客席に運んでいった。それを見た他の客が、

「あ! こっちもオムライスお願いします!」

「こっちも!」

 って、美味そうなそれにつられたか、次々と注文が入って、しかも、

「はい、どうぞ♡」

 舞美さんがオムライスにケチャップでハートマークを描いてみせたり。

『マジでメイド喫茶じゃん……』

 店内で繰り広げられるそれに、俺はそう思わずにいられなかった。

『芙美の奴、このノリについていけるのかな……』

 と思ったら、

「は~い♡ ご注文のモカでぇす♡」

 とか、これまたどっから声出してんだ?って声で接客してて。

『なんだこれ……地獄か……?』

 って思ってしまった。正直、以前の雰囲気が割と好きだったのに、俺の好きだったフォルテはもう、そこにはなかった。

「生き残るためには、変化が必要ってことなんだろうね……」

 マスターはそんなことを呟きながら遠い目を……無理もないか。マスター自身、こういう店を目指してたわけじゃないはずだし……

「人生って、思うに任せませんね……」

 思わずそう口にした俺に、マスターも、

「そうだよ。梁川くん。人生というのは妥協と諦めの連続なんだ……それを受け入れた時に幸せが訪れたりもするもんだよ……」

 だって。

「はあ……」

 実際、軽食メニューを充実させたことで、客単価は跳ね上がったらしい、でも、マスター自慢のコーヒーはそれに埋もれてしまって、加えてマスターのコーヒーを飲みたいから来てる常連客はカウンター席に追いやられてしまって……

 なんかもう、よく分からない。金を稼ぐのも大事だとは思うんだけど、でも、金ってそもそもなんのためにあるんだ……?

 そんな風にも思ってしまう。



 なんてこともありながら撮影に向かうと、スタジオに社長が来てて、

「涼くん! これ、トールのチャンネルに出演する際の台本! トールにも渡して、基本はこれで。でも、トールのチャンネルだからアドリブはトールにお任せってことで……!」

 とか、ファイルケースを渡されたのだった。

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