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虚構の章

なのに俺は……

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「それじゃ、私はこっちだから」

 藤宮さんは次の交差点で、曲がろうとした。そこで俺は、

「もしよかったら家まで送りましょうか?」

 って声を掛ける。時間はまだ九時前だけど、小学生にも見える彼女を一人でってのは不安だったし。だけど藤宮さんは、

「ああ、それなら大丈夫、そこのラーメン屋の裏だから」

 と指差した。確かに、曲がって少し行ったところにまだ営業中のラーメン屋があって、しかも街灯がしっかりあって割と明るい場所だった。それなら大丈夫かと思って、

「そうですか。じゃあ、お疲れさまでした」

「お疲れ様です」

「はい、お疲れ様~♡」

 笑顔で手を振って自転車で走り去る彼女を、芙美と一緒に見送る。そして、ラーメン屋の手前で止まって自転車を降り、門を開けてその中に入っていく藤宮さんを見届けてから、

「行こうか?」

「うん」

 と、芙美を先にして家に向かって自転車を走らせる。

 Bluetoothでお互いのスマホを繋いでスピーカーモードにして、トランシーバーアプリでいつでも話せるようにはしてる(パケット節約のために)けど、走ってる間はあんまり話さない。前を走る芙美を見てるだけで何だか安心できるから。

 そうして家に帰ると、

「今日はいろいろ話したいし、涼くんの家で晩ゴハンにしよ♡」

 芙美が自分の家の門を開けて自転車ごと中に入りながら笑顔で言った。

「うん、ありがとう」

 俺も笑顔で返す。

 俺の両親は今日も仕事で遅い。家は真っ暗だ。

「ただいま~。涼くんちで晩ゴハンにするね♡」

「ハイハ~イ♡」

 おばさんとのやり取りが、ガレージの奥に自転車を止めてる俺の耳にも届いてきた。すっかり当たり前になったやり取りで、おばさんも明るい感じで応えてくれてる。

 おばさんは、俺にとっては<もう一人の母親>みたいな存在だ。仕事で帰りの遅いことも多い俺の両親に代わって面倒も見てもらってた。でも、俺の両親と仲がいいくらいだから、芙美んとこのおばさんも親父さんも、かなり変わった人なんだよな。

 完全に芙美を俺とくっつけるつもりらしいし。

 信用されてるのはいいんだけど、正直、そこまで信用されてることにプレッシャーも感じないわけじゃなかった。こんな中身のない俺でいいのかな?って思ってしまう。

 藤宮さんみたいに、初めて会ったばかりなのにすっごく生活力みたいなのを感じるような人が羨ましい。芙美も、藤宮さんほどじゃないけどしっかりしてるとは思う。

 なのに俺は……

 この期に及んで進路をどうするかも決められてない……

 そりゃ、氷山ひやまに『芙美を任せて大丈夫か?』って心配されて当然だよな。





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