YOU BECAME SO…

せんのあすむ

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虚構の章

言うこと聞かない相手を

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「お疲れさまでした~♡」

 初日からハードな仕事をこなしたはずなのに、藤宮ふじのみやさんはすごく活き活きした様子だった。

「タフですね~、舞美まみさん」

 さすがに芙美も圧倒されてる。すると藤宮さんは、

「まあね~、うち、八人兄弟で私が一番上だから。言うこと聞かない相手を捌くコツとスタミナだけは身に付いたかな~」

 って。

「え!?」

「八人!?」

 俺と芙美は思わず声を上げてしまって。さすがに今の時代、八人兄弟はかなり多いと思う。あのコミュニケーション能力も、七人もの弟や妹達をまとめ上げるために鍛えられた感じか。

 なんか納得。

 藤宮さん目当ての客が閉店時間になっても居座らないように早々に姿を消して、帰るように仕向けたと。すごいな。

「繁盛するのはありがたいけど、まさかここまでとはね。メイド喫茶とかが増えた理由がよく分かったよ」

 マスターも苦笑い。しかも、

「正直、みんな安いブレンドを注文するから客単価はそれほどでもないし、忙しい割には利益は出てなかった。メイド喫茶でメイドに『おいしくな~れ♡』とか『もえもえキュン♡』とかやらせるのも客に注文させて客単価を上げるためなんだってのが実感できた。本音ではメイド喫茶みたいなのとか<虚飾>だと思ってバカにしてたけど、やっぱり考えられてるんだな」

 と、感心したみたいにも言う。

 なるほど……

 俺もなんか新しい世界を見せられた気がした。

 俺には、何ができるんだろう……? 聖護院センセイやモデル事務所の社長は、俺にちゃんと<価値>があるとして期待してくれてる。なのに俺は、ただ何も考えずに言われるままに服を着てポーズをとってただけだ。

『俺にできること……か……』

 勉強が得意ってわけでもない。スポーツが得意ってわけでもない。ダンスが得意ってわけでもない。歌が歌えるわけでもない。ホントにただたまたま見た目がよかったってだけだ。中身なんか何もない。

 なんだ…俺自身がただの<虚飾>じゃんか……

 だけど芙美はそんな俺を<王子様>と言ってくれる。一緒に大学に通いたいと言ってくれる。

 見た目しかない俺にできること……

 なんてことを思ってると、帰り支度を済ませて俺や芙美と一緒にフォルテを出た藤宮さんが、

「二人は付き合ってるんでしょ?」

 いきなりそんなことを聞いてきた。

「え…? あ、はい……!」

 俺は思わず正直に答えてしまった。そんな俺に、藤宮さんは、

「あはは♡ アイドルってわけじゃないけど人気商売でそういうとこ正直すぎるのはどうかなって思うけど、そこがきっと涼くんのいいところなんだろうね♡」

 ちょっと小悪魔っぽく笑ってたのだった。

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