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虚構の章
涼くんには涼くんの人生が
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鈴木の口から『ヤガミ技研のバスケ部に行くことはもう決まってんだ!』とか自信満々に断言されて、俺は呆気に取られてしまった。こいつはどうしてこんなに前向きでいられるんだろう?
人生なんて何が起こるか分かんないのに。怪我とか病気とかでバスケを続けられなくなったりするかもしれないし、なんか最近じゃ、企業のクラブ活動みたいなのも厳しくなってきてるから、ヤガミ技研でさえそういうのから撤退するみたいなことだって、ないとは言えないと思うのに……
まあでも、そんなことをここで口にするのは野暮ってもんなんだろうな。そんなこと言ったら相田にまた『デリカシーがない!』とか言われそうだ。
「そっか。頑張れよ」
俺が何とかそうやって無難な言葉を口にすると、芙美も、
「マコちんがいるから大丈夫だよ! 心配ないない!!」
そんなことを口にしながら俺の背中をバンバンと叩いた。って、なんで俺? ここは相田を励ますとこじゃないのか?
なんてことも思いつつ、部活に向かう鈴木と相田を見送った。と言っても、相田は今でも水泳部のマネージャーだから、途中で鈴木とは別れたけどな。その別れ際にお互いにガッツポーズをとる二人の様子は、なるほど恋人同士と言うより悪友って印象だった。
でも、なんだかちょっとうらやましい。
けど、今はそれどころじゃない。
「とにかく家に帰るか」
「うん!」
芙美とそう言葉を交わして校門を出ると、正門とは別の職員用駐車場の門の前に黒塗りの自動車が止まってて、そこに北条が乗るのが見えた。スーツ姿のサラリーマンらしいのが何人も頭を下げてる。
さては、父親から任された会社とやらに向かうところかな。
別にどうでもいいけど……
帰り道にも、芙美と話し合う。
「川崎先生はああ言うけど、俺、薬学部に行って何ができんのか、ぜんっぜん想像つかないんだ……それだけははっきり言っておきたい。そういうとこちゃんとしないと、芙美にも迷惑かかりそうだし」
すると芙美も、
「うん…私も、涼くんと一緒にいたいからってちょっと考えなしだった。涼くんには涼くんの人生があるもんね」
そう言ってくれる。ここで、
『どうして私と一緒に薬学部に行くって言ってくれないの!?』
みたいに言わないのがこいつなんだよな。俺を振り回すクセに、勝手に薬学部に行くことを決めたクセに、変なところで律儀なんだ。しかも、
「ま! 一緒に薬学部に行けなくたってどうせ家から通うんだもんね! 家に帰ったらいくらでも一緒にいられるし!」
ニカって笑って、また俺の背中をバンバン叩いたのだった。
人生なんて何が起こるか分かんないのに。怪我とか病気とかでバスケを続けられなくなったりするかもしれないし、なんか最近じゃ、企業のクラブ活動みたいなのも厳しくなってきてるから、ヤガミ技研でさえそういうのから撤退するみたいなことだって、ないとは言えないと思うのに……
まあでも、そんなことをここで口にするのは野暮ってもんなんだろうな。そんなこと言ったら相田にまた『デリカシーがない!』とか言われそうだ。
「そっか。頑張れよ」
俺が何とかそうやって無難な言葉を口にすると、芙美も、
「マコちんがいるから大丈夫だよ! 心配ないない!!」
そんなことを口にしながら俺の背中をバンバンと叩いた。って、なんで俺? ここは相田を励ますとこじゃないのか?
なんてことも思いつつ、部活に向かう鈴木と相田を見送った。と言っても、相田は今でも水泳部のマネージャーだから、途中で鈴木とは別れたけどな。その別れ際にお互いにガッツポーズをとる二人の様子は、なるほど恋人同士と言うより悪友って印象だった。
でも、なんだかちょっとうらやましい。
けど、今はそれどころじゃない。
「とにかく家に帰るか」
「うん!」
芙美とそう言葉を交わして校門を出ると、正門とは別の職員用駐車場の門の前に黒塗りの自動車が止まってて、そこに北条が乗るのが見えた。スーツ姿のサラリーマンらしいのが何人も頭を下げてる。
さては、父親から任された会社とやらに向かうところかな。
別にどうでもいいけど……
帰り道にも、芙美と話し合う。
「川崎先生はああ言うけど、俺、薬学部に行って何ができんのか、ぜんっぜん想像つかないんだ……それだけははっきり言っておきたい。そういうとこちゃんとしないと、芙美にも迷惑かかりそうだし」
すると芙美も、
「うん…私も、涼くんと一緒にいたいからってちょっと考えなしだった。涼くんには涼くんの人生があるもんね」
そう言ってくれる。ここで、
『どうして私と一緒に薬学部に行くって言ってくれないの!?』
みたいに言わないのがこいつなんだよな。俺を振り回すクセに、勝手に薬学部に行くことを決めたクセに、変なところで律儀なんだ。しかも、
「ま! 一緒に薬学部に行けなくたってどうせ家から通うんだもんね! 家に帰ったらいくらでも一緒にいられるし!」
ニカって笑って、また俺の背中をバンバン叩いたのだった。
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