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虚構の章

これにてドロン

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『一足先に社会人として実績を積ませてもらうことになったよ』

 北条がそんなことを言ってきたけど、俺達には、

「は……?」

 ってだけの話だった。

「お前が会社を任されたとか、そんなの俺には全然どうでもいい話だ。自慢話ならお前の取り巻きの前でやってくれ」

 素直な印象が口から出てくる。なのに北条は、

「どうでもいい話じゃないと思うけどね? だって君が僕には一生勝てないって話だからね」

 とか、ますます訳の分からないことを。

「ああそうかい。お前に勝てなくたって俺は別にいいよ。俺が勝ちたい相手はお前じゃないし」

 俺はもう北条の相手をしてることも馬鹿らしくなって、そう言って芙美の手を引っ張って歩き出そうとした。

 なのに北条は、

「分かってないなあ。こんな簡単なことも分からない君に、特別にもう一度言ってあげるよ。君は彼女には相応しくないって意味だよ」

 って。

『君は彼女には相応しくないって意味だよ』

 こいつは厭味ったらしくそう言うけど、こいつがそういう意味で言ってるだろうってことは俺にだって分かってる。分かった上で『興味ない』って言ってんだ。こいつにはそれが分かってない。

 いい加減、キレそうになった時、

「はいはい! 北条くん! 分かったから! 授業始まるよ。ってことで、私達はこれにてドロンさせていただきます!」

 芙美が明るい声で。

 てか、『これにてドロン』とか、いつの時代だよ! 今時、オッサンでもそんなの使わないんじゃないのか? ネタで使うことはあるかもだけど、それさえ古いぞ。

 だけど、芙美のその言葉に、険悪な雰囲気さえ一瞬でグダって、

「バイなら~!」

 とか、これまた古い捨て台詞を残して、芙美が俺を引っ張って教室へと急いだ。

 そして、

「北条くんみたいなタイプは、真面目に相手したらダメだって。サムいギャグで煙に巻くくらいでちょうどいいんだよ♡」

 笑顔で俺に振り返る。

 ……まったく……敵わないな……

 自分は薬学部に進むつもりなのに、一緒のキャンパスに通うには俺が医学部か薬学部に合格するしかないってこともちゃんと考えてないかと思えば、こんな時には変に頭が回る。

 利口なのか抜けてるのか、分かんないよな、芙美って。

 だけど、そんな芙美が俺は好きなんだ。他人の好みとか知ったことじゃない。

 ああでも、北条も芙美を狙ってるのか……だけどあいつの場合は、ホントに芙美が好きなのか、怪しいただ見た目が好みってだけで、芙美のこういうところ、ちゃんと見てない気がする。

 そんな奴に芙美を渡すわけにはいかないな。

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