YOU BECAME SO…

せんのあすむ

文字の大きさ
上 下
38 / 195
虚構の章

マジヤバくね?

しおりを挟む
 徹が自分の家に帰ったあと、俺はベッドに横になって思い出してた。

 二年になったばかりの頃は、芙美が俺のことを好きだという確証はなかった。同時に俺自身も、芙美のことを好きだという実感はあまりなかった。

 なのに、芙美が<地獄のハイカロリー弁当>をはじめとしたハイカロリー攻撃を俺に仕掛けてたのは、俺をデブらせて他の女から見向きもされないようにして独り占めするためだったのが分かって、モデルのバイトも辞めさせようとしてたのはさすがにやりすぎだと感じて反発してしまったけど、でもそれだけ俺のことが好きなんだって確信できて、俺も、芙美のことが好きなんだって自覚できて、そういう意味じゃあれも悪いことばっかりじゃなかったと思う。

 ハゲ薬の実験のことも……あれはいくらなんでも意味が分からないけど、それも俺がハゲても困らないように今のうちから手を打ってくれて……?

 まあそこは深く考えないようにしよう……少なくとも俺がハゲたって芙美は俺のことを好きでいてくれるらしいし。

 氷山ひやまとの件については、氷山ひやまと会ったことがあるのを俺自身が忘れてたっていうのも含めて完全にただの一人相撲だった。まあ、面識があるって言っても小さかった頃のことだし、そこは忘れてても仕方ないかもだけど。

『オレ、やだぜ? ねーちゃんの旦那さんがブラック企業で社畜やってるとかさ』

 徹の言葉も耳に痛い。正直なところ、俺自身に将来に対する明確なビジョンってものがないのがすごくきつく感じる。

『俺、どうなりたいのかな……』

 改めてそんなことを思うけど、考えたこともなかった。小さい頃には、漠然と、『漫画家になりたい』とか『ゲームを作る人になりたい』とか思ってたのをうっすら覚えてる。でも、全然、真剣な夢とか希望とかじゃなかった。なんとなく、

『楽しそうだしお金も儲けられそうだし』

 みたいなイメージを持ってただけなんだと思う。それからは、

『普通に大学まで行って普通に会社に勤めて普通に結婚して』

 みたいに、それこそふわっとしたものでしかなかったと思う。

 今だって、モデルの仕事はやってても、別に世界的に活躍できるモデルになりたいとかいうのもなかった。てか、人前に出るのは苦手だ。

 何より、あんな虚構だけの世界に行きたいとも思わない。

 だけど……

 だけど、何の具体的な努力もせずに『普通に大学まで行って普通に会社に勤めて普通に結婚して』って考えてることも、結局は虚構じゃないのか……?

 芙美は、薬剤師になるために国立大学に行くって言ってる。

 大学受験まではあともう一年半程度。

 あれ? これ、マジヤバくね?

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

処理中です...