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焦燥の章

なんでそんな表情するんだよ

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『芙美が川崎先生みたいな感じだったら、万事解決なんだけどな……』

 そんなことを考えながら教室に戻ると、

「涼くん、ホントにホントに大丈夫?」

 芙美が縋るような目でそう聞いてきた。まったく、モデル辞めさせるためにデブらせようとしたりハゲ薬の実験台にしようとしたり、たいがいヒドイことしてくるくせに、なんでそんな表情かおするんだよ……!

 なんてことも思ってしまう。

「ああ、大丈夫だ。ホントに大丈夫だから」

 俺が何とか笑顔でそう言うと、

「はいはい、お熱いことで」

 相田が呆れたように肩をすくめてる。でもそこで、

「お~い、お前ら~、チャイム鳴ってるぞ~!」

 次の教科担任が入ってきた。そうだよな。普通はこの感じだよな。教師って。氷山ひやまみたいなのが珍しいんだ。

 ただ、明らかに氷山ひやまの時よりも、教室に緊張感がない。他の奴らの動きもダラダラしてる。氷山ひやまの時はホントに五秒ほどでちゃんと席に着いたのに、三十秒ほどかかってた。

 こっちの教科担任の方が、生徒には人気がある。面白くて生徒に理解があって親身になってくれて、何より課題が少ない。でも、俺は、あんまり授業が分かりやすいとは思わないんだ。よく話は脱線してまとまりがないし、肝心な部分がぶつ切りになって、話が頭に入ってこない。悪い先生じゃないんだけど、悪い先生じゃないだけって言うか……

 それは嘘偽りがない。実際、元々成績がいい奴はそのまま成績がいいのに対して、すごく成績が上がったという話は聞かない。氷山ひやまと違って。

 どっちが生徒にとってのいい先生なのかな……

 そして、俺と氷山ひやま、どっちが芙美にとっていい相手なのかな……



 昼休憩。俺はまた、芙美と一緒に弁当を食うことになってる。でもその前に、またトイレに。

 すると今度は、

「やあ、モデル君、ずいぶんと冴えない表情かおしてるね。どうしたんだい?」

 気障ったらしくて厭味ったらしい口調。俺にとっては、この学校ガッコでたぶん一番不快な奴、北条拓馬ほうじょうたくま

「彼女もどうして君みたいな、モデルやるくらいしか能のないのと関わってるのか、不思議だよ。彼女ならもっと素晴らしい相手を見付けられるはずなのにさ。僕ような」

 よくもまあ恥ずかしげもなくそんなこと言えるもんだなと思う。確かに見た目の点でも俺には負けてないだろうし、その上、家が裕福でおまけに将来は親父の後を継いで社長になるのが約束されてるような奴だ。俺なんかよりはずっと恵まれてると思う。

 でも、俺はこいつには敵わなくても、氷山ひやまは間違いなくこいつより上だと思う。

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