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焦燥の章

俺、ちょくちょくそういう感じじゃん

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『私と同じ大学行くんだから、試験勉強本格的に始めなきゃって』

 え…? いつそんな話してた? いや、確かに、何となく、本当に何となくだけど『芙美と一緒の大学行くんだろうな~』とは思ってたけど、具体的にそんな話をした覚えないぞ?

 あ……でも、もしかしたら……昼休みとかで昼寝しようとしてた時に、半分眠った状態で何となく受け答えしてた可能性は、あるかもしれない。てか、俺、ちょくちょくそういう感じじゃん……!

 間違いね~! それだ! またやらかしちまったのか……!

「お…おう、ありがとな……」

 参考書がぎっしり詰まった紙袋を受け取りながら、俺はなんとかそう言った。

 でもその時、俺があんまりはっきりしない態度だったからか、芙美は、

「んもう! なにその頼りない態度! せっかくゆうくん、じゃなかった先生に付き合ってもらって参考書を見繕ってもらったのに……! おかげでバイトも休んじゃったよ」

 って、少し不満顔。でも、バイト休むことになったのはそれはお前が勝手に……

 ……ん? 『ゆうくん』……? 今、『ゆうくん』って言ったよな? それを『先生』って言い換えた? 先生…? 確か、氷山ひやまのフルネームは、氷山ひやま優史郎ゆうしろう……だったっけ……?

 芙美、氷山ひやまのことを『ゆうくん』って呼んでる……?

「でさ、とにかく晩御飯の用意するから、食べたら一緒に勉強だよ! 私も勉強はそんなに得意ってほどじゃないから、涼くんとじゃなきゃやる気でないし!」

「あ、ああ、分かった……」

 芙美の剣幕に圧倒されてそれ以上何も言えなくて参考書を持って自分の部屋に戻って、ドスンとかいかにも重そうな音させながら机の上に置いた参考書の入った紙袋を見ながら、俺はまた頭の中がぐるぐるしてた。

『ゆうくん』……『ゆうくん』……? 氷山ひやまが『ゆうくん』……?

 教師のことをそんな風に呼ぶ女子だっていねーわけじゃねーんだろうけど、それにしたっておかしくないか……? 相手はあの、<鬼畜眼鏡>にして<氷結魔人>にして<死の氷山デスアイスバーグ>の氷山ひやまだぞ……?

 ほとんど無意識にベッドに座って、そんな風に考えてしまう。

 勉強とか言われたって、全然、そんな気分になれない。

「涼介~、ご飯だよ~」

 芙美と一緒に(実際にはほとんど芙美にやらせてるらしいけど)晩メシを作ったオフクロに呼ばれてダイニングに行くと、美味そうな料理が並んでた。

「じゃ~ん! 今日はシャケのマリネをメインに、海産物で攻めてみました~♡」

 満面の笑顔で芙美がそう言って、でも俺は何とも言えない気分で晩メシにしたのだった。

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