ＹＯＵ ＢＥＣＡＭＥ ＳＯ…

焦燥の章

ひょっとしてみんなに迷惑掻けてた…？

　そうして、いつもは時間ギリギリにスタジオに入る俺が早々に来たってことで、他に予定もなかったからもうそのまま撮影に入ってた。しかも、スタイリストの人も、

「いつもより余裕あるから楽～♡」

　って嬉しそうに言うんだ。

『俺……ひょっとしてみんなに迷惑掻けてた…？』

　いやいや、でもスケジュール通り、ちょっと遅れたりもするけど……でも二分とか三分くらいだったら、そんなに迷惑掛けてないよな……！？　ほとんど時間通りだよな……！？

　そんなことを思う。思うけど、

『今度からは、もう少し早めに来よう……』

　とも思った。こうして、撮影も順調に終えて、

「はい！　お疲れさまでした～！」

　カメラマンさんが声を上げると、さらに、

「梁川くん、おかげで今日は早く仕事を終えられるよ。今日は娘の誕生日なんだ。いっつも遅く帰るから怒られるんだけど、今日こそは怒られずに済みそうだ」

　とかなんとか。

　……ますます罪悪感。だけど、娘さんの誕生日に遅く帰ってたのって、俺、関係ないよな。まだモデル始めて半年過ぎたところだし、去年の誕生日には、俺、まだモデルやってなかったし。

　だから、正直、カメラマンさんの言い草にちょっとモヤッとしたりもしつつ、

「涼介ちゃん、次からもできたら早めに来るようにしてね～♡」

　聖護院センセイにも言われて、

「努力します……」

　とは応えといた。もっとも、それを守れる自信ないけど……何しろ、芙美に近寄る男共を見張んなきゃいけないし。いくら芙美が他の男なんて興味なさそうにしてても、

『そうだよ。氷山ひやまのことみたいなのもあるかもしれないし……！』

　思い出してしまって、なんか、すっきりしない。

『芙美、もう家に帰ってるかな……』

　あいつの顔を思い浮かべながら、チャリで家に帰る。以前はバスを使ってたんだけど、モデルの仕事始めてから、なんか、俺の顔を見てひそひそ話してる女が増えた気がして、ちょっと嫌だったんだ。

　でも、しばらく走ってると、

「あ～、君、君…！」

　急に呼び止められてハッとなった。見たら、バイク二台に警官が二人、路肩に立ってて。

「何ですか……？」

『職質か？』と思いながら止まると、警官は、

「自転車、ちゃんとライト点けなきゃダメだよ」

　って言われてそこで俺も、

「あ……っ！」

　と思った。芙美のことばっか考えてて、ライト点けんの忘れてた。俺のチャリ、タイヤに発電機押し付けてライト点けるのが嫌で、ホムセンで買った電池式のライト付けてんだけど、スイッチ入れ忘れてたんだ。

　で、無灯火のまま走ってて、バイクでパトロールに出てた警官が、俺を追い越した時にライト点いてないのに気付いて呼び止めたみたいだな。