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焦燥の章

いつになく笑顔に

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『芙美があんた以外の誰かに『いいな』って思ってることがあっても、それはたぶん、テレビの向こうのアイドルとかを『いいな』って思ってるのと同じ程度の話だと思うよ』

 相田は、『やれやれ』って感じだけど、でもどこか優しい感じの目で俺を見て、そう言った。

 正直、あんまり褒められた性格してない気もするこいつだけど、根は悪い奴じゃないんだって感じる。根は悪い奴じゃ、な。

「そういうもんなのか……?」

 俺はそうとしか応えられず、相田を見る。すると、

「ま、それも一般論だけどさ! 本人のことは結局は本人にしか分かんないって♡ あはははは!」

 色気の欠片もない笑い方をするこいつに、

『確かにそうだな……』

 俺もそんな風に思うしかなかった。だから芙美が氷山ひやまに惚れてるのかどうかなんて、芙美にしか分からないんだ。

 いや、でも……

「でもお前、芙美が俺のことを好きだってのは、見てるだけでも分かるんだよな?」

 ふと頭によぎったことを口にする。すると相田も、ハッとした様子で、

「いいとこ気付くじゃん。そうだよ。芙美は、あんたに対してはものすごく分かりやすいんだ。あんたのことを好きだって気持ちを隠す気もないって言うかさ。だからその芙美が、『好きかどうか周りが見て一発で分からない』ってことは、少なくともあんたへの気持ちに比べれば全然本気じゃないってことだと私も思ったよ。だから、本人に隠す気もないってなってきたら、その時に心配すればいいんじゃないかな」

 そう言った。言われて、俺も、

「確かに…! うん、そうだよな! ありがとう、相田!」

 なんだかすっきりした気がして、嬉しくて、自分がいつになく笑顔になってるのを自分でも自覚させられるくらいになって、

「サンキュー!」

 すごく軽くなった感じの手を振ってその場を後にした。その時、俺を見る間の目が、どこか寂しそうだったことにはまったく気付かずに。

「あ~あ……かなわないな……」

 そんな風に相田が呟いたことを知ったのも、何年も後だったんだ。



 でも、この時はそれこそそんなことどうでもよくて。

 俺は、気分が楽になって、そのまま撮影に向かってた。らびっとはっちに行ってもどうせ芙美はいないしな。

「あら、涼介ちゃん。今日はまたズイブンと早いのねえ。いつもはギリギリどころか遅刻気味ぐらいなのに」

 スタジオに入ると、撮影の準備をしてるスタッフを見てた聖護院センセイが俺を見て驚いたように声を上げた。すると、スタッフ達も同じように「え?」って顔をで俺を見たんだ。

 俺、そんな風に見られてたんだな……

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