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焦燥の章

お前がそれを言う?

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 デリカシーないとか言われたって、お前がそれを言う?って感じた。
 だってこいつ、芙美とつるんで俺をデブらせてモデルやめさせようというのを手伝ったりハゲ薬の実験に俺を利用してたりしたんだぞ。そんな奴がデリカシーとか、どういうことだよ?

 とは思うものの、それについては敢えて口にしなかった。それはまた別の問題だしな。相田も、『やれやれ』って感じで頭を掻きながらも、

「ま、梁川くんがデリカシーないのは芙美も分かってるしね。分かってて好きなんだから、私がとやかく言うことじゃないか」

 そう言って、

「私は自分でも惚れっぽい性格だと思うよ。相手に脈がないって思ったらすぐ冷めるしさ。でも、同時に、っていうのは、偏見だよ。そこは否定させてもらう。同時に何人もの男の子が好きになってたのは、小学校の頃まで」

 って、同時に好きになってたこともあったのかよ!?

 と思ったのも喉まで出かけてなんとか飲み込んで、話に耳を傾ける。

「でもその上で、小学校の頃の話をさせてもらうんだったら、なんて言うか、私が『イイ♡』と感じる部分を、それぞれちょっとずつ持ってたからかな」

「ちょっとずつ……?」

「うん。それを全部一人の男の子が持っててくれたら、それを全部持ってるのがいてくれたら、私は一人だけを好きになれたんだよね。でもさ、小学生の男の子って、ヤッパ、ガキじゃん? いいなって思うところあっても別の面じゃイマイチに感じたりしてさ、だから一人に絞れなかったんだよね」

「……そういうもんなのか…?」

「他のコのことは知らないよ。私がそうだったってだけ。だからもし、芙美が梁川くん以外に誰かのことをもし『いいな』って思ってるんだったら、それは、梁川くんにないものがその人にはあるってことじゃないの?」

「ななな…っ! 俺は別に芙美のことを言ってんじゃ……!」

 そうだ、俺は別に芙美のこととして聞いたわけじゃない。なのに、なんでこいつ、ピンポイントに芙美の話してんだよ!? そしたら相田は、すっごい悪そうな顔をして、

「あんたがあたしに好きだのなんだので訊いてくる内容が芙美絡み以外なわけないじゃん。バレッバレなんだよ! このイケメンのフリしたコミュ障が!」

 勝ち誇ったような態度で腕を組んで胸を張ってた。

「ぐ……っ!」

 言い返してやろうと思ったのに、何も言葉にならない。完全に見透かされてる。くそお……!

 自分でもどうしていいか分かんなくて拳を握りしめるしかできなくて、そんな俺に相田はまた言ったんだ。

「でもさ、私がさっき言った通りでさ、芙美があんた以外の誰かに『いいな』って思ってることがあっても、それはたぶん、テレビの向こうのアイドルとかを『いいな』って思ってるのと同じ程度の話だと思うよ」

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