上 下
17 / 195
追憶の章

印象が残ってた

しおりを挟む
 今はさすがにそれほどじゃなくなったけど、小さい頃の俺は血とか乱暴な雰囲気とかが苦手で、特に血を見れば気を失ってしまうこともあるほどだった。

 だからこの時も、自分の頭から滴っているのが汗じゃなくて血だってことに気付いて気を失ってしまったんだと思う。アドレナリンだか何だかが出てて痛みに気が付かなかったんだろう。

 傷そのものも、出血の割には大したことなくて、今でも生え際に微かに傷跡が残ってるくらいでしかなかった。

 でもそんなことはどうでも良くて、俺はこの時、血を見ただけで情けなくのびてしまった自分が恥ずかしくて嫌で、だから記憶に蓋をしてしまったんだろうな。そのせいで思い出せなかったんだ。

 けど、今ならもう大丈夫だ。恥ずかしいのは確かでも、あの時、芙美を守ることができたのは確かなんだから。

 昼寝から覚めた俺に芙美が抱き付いて泣いてたことがあったのをうっすらと覚えてるが、たぶん、それがこの後だったんだろうな。確か泣き止んだ芙美と一緒にタコヤキ味のスナックを食べた覚えもあるし。何故か頭がズキズキと痛んでた覚えもある。きっとその痛みと芙美が泣いてたっていうのが印象に残ってたんだろう。もしかするとそれが、『芙美を泣かせたことがある』という記憶として残ってたのか…?

 そしてその後、役所が本格的にカラスを追い払う対策を始めたこともあって、カラスはほとんど見られなくなった。思えば俺が怪我をしたことで、腰の重い役所としても問題が大きくなるのを恐れて対策したってことか。

 被害が出てからじゃないと動かないってのはいつの世も同じなのかもしれない。

 あと、その何日か後に、近所の公園で俺が珍しく芙美と遊んでると作業服を着た大人が何人も来て、

「ごめんね、今から作業するから今日はもう公園使えないんだ」

 って言われて「ぶーぶー」と不満そうな芙美と一緒に公園を出た。だけど何をするのかが気になって少し離れたところで見てたら、公園の中の木に梯子を掛けて上って、枝のところから鳥の巣みたいのを持ってそれをゴミ袋に入れてたりしたのが分かったな。

 それもなんだかやけに印象が残ってたのか覚えてる。そうか、あれはきっとカラスの巣だったんだ。カラスもヒナを育てるために食べ物を必要としてたんだろうって思った。

 あんなことがあったのに俺がやたらとカラスを嫌ったり怖がったりしなかったのは、その光景を見たからっていうのもあるのかもな。

 これで、芙美がどうして俺のことをあんなに好きでいてくれてるのかが分かった気がする。

 ……その割には、結構ヒドイことをしてくる気もするが……

 まあ、それはいいか。



to be continued…
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...