1 / 1
じゃんけん
しおりを挟む
じゃんけん
人間は暇だとロクなことを考えないらしい。
多分、俺もそんなくだらない人間の一人で、だから、アイツにあんなことを言ってしまったんだと思う。
それは、二人きりの部室内でのいつもの時間の出来事だった。
アイツが真面目に宿題を終わらせていて、俺がスマホでゲームをしているだけのどうしようもない時間。
どうしようもないけれど、俺には大切な時間。
絶対に失くしたくないいつもの日常。
時々、くだらない話をしたり、しなかったり。
何も話さない時間が続いても、気詰まりにならない。
そんな相手は、今までアイツだけだった。
「なあ、じゃんけんしようぜ。」
俺の気まぐれでくだらない提案に、アイツがめんどくさそうな反応をする。
「はあ?」
「ひまだし、いいだろ?」
俺はアイツの反応も織り込み済みなので、引き下がることはしない。
そんな俺の態度を見越して、アイツは呆れてため息を吐いた。
「……他にやることないのかよ……。」
「何だよ、いいだろ?」
こんなことでめげない俺。アイツがつれないなら、いっそ更に攻めていくだけだ。
そう興が乗ってきて、俺は一歩踏み出すことにした。
「でさ、」
口を開きながら、ぐっとアイツににじり寄る。
「負けたら、キスさせてくれよ。」
冗談めかしてはいたが、紛れもない本音を混ぜてみる。
だが、退路を断つことは出来なかった。
もしも、これで二人の関係が拗れたら……。
そんなこと、俺には耐えられなかった。
内心ビビりながら、表面上は余裕綽々でにやにやと笑ってみる。
アイツの反応如何によっては、すぐにでも撤退して悪い冗談にできるように……。
「はっ?」
アイツは、想った通り驚いて困惑していた。
だが、俺の提案に引いていないようだった。
まだ、冗談で通じそうだと踏んだ俺は、もう少しだけ近づいてみる。
「いいだろ?罰ゲームだよ。」
言い訳を用意し、余裕があるように見せるために持っていたお菓子を口に入れる。
本当はアイツの反応が気になって心臓が飛び出てしまいそうだが、そんなことはおくびにも出さない。
少しだけ時間をかけた後、アイツは小さな声で呟いた。
「……嫌だよ。」
俺は分かっていたこととはいえ、その反応に少しだけがっかりした。
だが、アイツの言葉はそこでは終わらなかった。
「……罰ゲームで、キスなんて……。」
聞いた直後は、アイツの言葉の意味が全く分からなかった。
だが、時間が経つにつれ、徐々に言葉が脳に浸透していき意味が理解できるようになる。
嫌なのは、罰ゲーム?
だったら、キスは?
……俺が相手なのは?
言葉の意味が理解できると、今度は脳内に数々の疑問が湧きあがる。
答えを求めて、アイツの顔を覗き込むと、アイツの顔が赤く染まっていた。
その反応を見て、俺の顔も赤く染まっていく。
夕暮れの部室で、男二人が顔を赤く染めて沈黙する。
アホらしさ、この上ない。
何か口に出さなければ……。
漂う甘酸っぱいようなしょっぱいような空気に耐えられず、俺は言葉を探す。
「……そうだな。」
「……そうだよ。」
同意する二人の声は少し震えていた。
何だ、びびって損した。
俺は心の中に巣くう小心者の俺に思わず笑いたくなった。
そして、もう一歩。
今度は茶化すのではなく、冗談でもなく、アイツの心に歩み寄る。
「罰ゲームじゃなくて、ごほうびだ。よし!勝ったら、キスな?」
どっちが勝ったらとか、そんなどうでもいいルールは決めていない。
「え?はぁっ!?」
アイツは戸惑いと驚きの声を上げながらも、赤い顔でこちらを振り返った。
ぐっと、アイツに近づき、逃がさないように手を取る。
今度はしっかりと笑う。
少しだけ獲物を狙う表情になっていたかもしれない。
アイツは明らかに怯んでいた。
だが、俺の手を振り払うことも、逃げることもしなかった。
俺は大きな声で宣言する。
「じゃーんけん……。」
結果はもう決まっている。
人間は暇だとロクなことを考えないらしい。
多分、俺もそんなくだらない人間の一人で、だから、アイツにあんなことを言ってしまったんだと思う。
それは、二人きりの部室内でのいつもの時間の出来事だった。
アイツが真面目に宿題を終わらせていて、俺がスマホでゲームをしているだけのどうしようもない時間。
どうしようもないけれど、俺には大切な時間。
絶対に失くしたくないいつもの日常。
時々、くだらない話をしたり、しなかったり。
何も話さない時間が続いても、気詰まりにならない。
そんな相手は、今までアイツだけだった。
「なあ、じゃんけんしようぜ。」
俺の気まぐれでくだらない提案に、アイツがめんどくさそうな反応をする。
「はあ?」
「ひまだし、いいだろ?」
俺はアイツの反応も織り込み済みなので、引き下がることはしない。
そんな俺の態度を見越して、アイツは呆れてため息を吐いた。
「……他にやることないのかよ……。」
「何だよ、いいだろ?」
こんなことでめげない俺。アイツがつれないなら、いっそ更に攻めていくだけだ。
そう興が乗ってきて、俺は一歩踏み出すことにした。
「でさ、」
口を開きながら、ぐっとアイツににじり寄る。
「負けたら、キスさせてくれよ。」
冗談めかしてはいたが、紛れもない本音を混ぜてみる。
だが、退路を断つことは出来なかった。
もしも、これで二人の関係が拗れたら……。
そんなこと、俺には耐えられなかった。
内心ビビりながら、表面上は余裕綽々でにやにやと笑ってみる。
アイツの反応如何によっては、すぐにでも撤退して悪い冗談にできるように……。
「はっ?」
アイツは、想った通り驚いて困惑していた。
だが、俺の提案に引いていないようだった。
まだ、冗談で通じそうだと踏んだ俺は、もう少しだけ近づいてみる。
「いいだろ?罰ゲームだよ。」
言い訳を用意し、余裕があるように見せるために持っていたお菓子を口に入れる。
本当はアイツの反応が気になって心臓が飛び出てしまいそうだが、そんなことはおくびにも出さない。
少しだけ時間をかけた後、アイツは小さな声で呟いた。
「……嫌だよ。」
俺は分かっていたこととはいえ、その反応に少しだけがっかりした。
だが、アイツの言葉はそこでは終わらなかった。
「……罰ゲームで、キスなんて……。」
聞いた直後は、アイツの言葉の意味が全く分からなかった。
だが、時間が経つにつれ、徐々に言葉が脳に浸透していき意味が理解できるようになる。
嫌なのは、罰ゲーム?
だったら、キスは?
……俺が相手なのは?
言葉の意味が理解できると、今度は脳内に数々の疑問が湧きあがる。
答えを求めて、アイツの顔を覗き込むと、アイツの顔が赤く染まっていた。
その反応を見て、俺の顔も赤く染まっていく。
夕暮れの部室で、男二人が顔を赤く染めて沈黙する。
アホらしさ、この上ない。
何か口に出さなければ……。
漂う甘酸っぱいようなしょっぱいような空気に耐えられず、俺は言葉を探す。
「……そうだな。」
「……そうだよ。」
同意する二人の声は少し震えていた。
何だ、びびって損した。
俺は心の中に巣くう小心者の俺に思わず笑いたくなった。
そして、もう一歩。
今度は茶化すのではなく、冗談でもなく、アイツの心に歩み寄る。
「罰ゲームじゃなくて、ごほうびだ。よし!勝ったら、キスな?」
どっちが勝ったらとか、そんなどうでもいいルールは決めていない。
「え?はぁっ!?」
アイツは戸惑いと驚きの声を上げながらも、赤い顔でこちらを振り返った。
ぐっと、アイツに近づき、逃がさないように手を取る。
今度はしっかりと笑う。
少しだけ獲物を狙う表情になっていたかもしれない。
アイツは明らかに怯んでいた。
だが、俺の手を振り払うことも、逃げることもしなかった。
俺は大きな声で宣言する。
「じゃーんけん……。」
結果はもう決まっている。
6
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
保育士だっておしっこするもん!
こじらせた処女
BL
男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。
保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。
しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。
園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。
しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。
ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる