185 / 187
第二部
第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!㊴『灯籠祭り』
しおりを挟む
三十九
屋台を覗き、賑わう街をすり抜け、はしゃぐ。
祭りというのは、たとえ異世界であっても心躍るものだと沢崎直は実感していた。
ヴィルもいつもよりも笑顔が輝いている気がして、沢崎直は更に嬉しくなった。
(ま、眩しすぎる。ヴィル様ぁ。)
推しの眩しい笑顔に心の全てを持って行かれないように、必死に踏みとどまる沢崎直。
ただ、必死に努力しても、騒がしい心臓が鳴りやむことはなかった。
屋台が並んでいる通りを抜けると、そこには広場がある。
広場では祭りのメインイベントである灯籠を飛ばすために、たくさんの人々が集っていた。
それぞれに灯籠を持ち、各々の心に持つ願いを書き連ねている。
沢崎直も広場の一員になるべく、ヴィルに尋ねる。
「灯籠はどこにありますか?」
「あちらで売っております。」
ヴィルが指し示した方角には確かに灯籠を売る屋台があった。
沢崎直は灯籠を手に入れるべく、そちらを目指す。
「ヴィル。一緒に灯籠を飛ばしましょう。」
少し小走りに先を行き、振り返ってヴィルを手招きする。
ヴィルも笑顔で追って来てくれる。
沢崎直は楽しくて仕方がなかった。
「二つください。」
「はいよ。」
屋台で灯籠を二つ手に入れ、片方をヴィルに渡す。灯籠の代金は、先程の初めての依頼の報酬から支払った。
「ここにお願い事を書くんですか?」
「はい。」
ヴィルに尋ねながら確認し、沢崎直は灯籠に託す願い事を考える。
(……うーん。あんまり変なことは書けないし……。かといって、せっかくだからちょっと実用的じゃないことがいいよね?)
多分、この灯籠に託すのは神様にお願いするようなことなのだろう。日頃の自分の努力だけでは如何ともしがたいようで、高望みし過ぎないこと。
そう沢崎直は感じて、お正月に初詣で神様にお願いするくらいの気持ちで願いを考え始めた。
「………。」
そうなると、どれだけ考えても沢崎直の心に浮かぶのは、一つのことだけだ。
(……やっぱり、願うことは一個だけだよ……。)
だから、沢崎直は灯籠に願いを書き始めた。
『出来るだけヴィルの傍にいられますように。』
本当はずっとと書きたかったが、それは欲張り過ぎな気もした。あくまでも沢崎直はアルバート氏の身体に間借りしているだけのモブ女なのだ。いつかアルバート氏が帰還することもあるだろうし、そんな時まで占拠は出来ないだろう。
こんなことを書いたのを見られては恥ずかしいので、沢崎直はこそこそと隠れて書いた。
そして、見えないように裏返すと、ヴィルに尋ねる。
「ヴィルは書けましたか?」
「はい。」
ヴィルは笑顔で頷く。
こそこそしている沢崎直とは違い、ヴィルは堂々と灯籠の願いを宣言するかのように天に晒していた。
ヴィルの灯籠にはヴィルらしいキレイで流麗な字で『アルバート様にお仕えし続けられますように。』と書かれていた。
「ヴィル……。」
その願いに、沢崎直の心がチクリと痛んだ。
その痛みは、アルバート氏の身体を間借りしている罪悪感と、そこまでヴィルに慕われているアルバート氏への嫉妬も混じったものだった。
だから、すぐに沢崎直は頭を切り替えた。
少しでも推しの傍にいられるだけで幸せなのだ。これ以上を望んではいけない。
そう自分にしっかりと言い聞かせ、笑顔を浮かべる。
「飛ばしましょう。」
広場では既に日も落ち、薄闇の支配が始まった空に灯籠が舞い上がり始めていた。
そんな幻想的な光景の中で、沢崎直もヴィルと一緒に灯籠に火を灯す。
灯籠を掲げて、そっと手を離すと、灯籠は空に向かって舞い上がり始めた。
沢崎直はそんな灯籠を見つめながら、このまま時間が止まればいいのにと叶いもしない願いを何かに祈り始めていて、すぐにその考えを打ち消した。
せっかく今、灯籠に願ったばかりだというのに、その願いではないことを願っては、叶うものも叶わなさそうだ。
(……出来るだけ。)
なので沢崎直は灯籠に託したささやかで切実な願いを、心の中で繰り返すことにしていた。
屋台を覗き、賑わう街をすり抜け、はしゃぐ。
祭りというのは、たとえ異世界であっても心躍るものだと沢崎直は実感していた。
ヴィルもいつもよりも笑顔が輝いている気がして、沢崎直は更に嬉しくなった。
(ま、眩しすぎる。ヴィル様ぁ。)
推しの眩しい笑顔に心の全てを持って行かれないように、必死に踏みとどまる沢崎直。
ただ、必死に努力しても、騒がしい心臓が鳴りやむことはなかった。
屋台が並んでいる通りを抜けると、そこには広場がある。
広場では祭りのメインイベントである灯籠を飛ばすために、たくさんの人々が集っていた。
それぞれに灯籠を持ち、各々の心に持つ願いを書き連ねている。
沢崎直も広場の一員になるべく、ヴィルに尋ねる。
「灯籠はどこにありますか?」
「あちらで売っております。」
ヴィルが指し示した方角には確かに灯籠を売る屋台があった。
沢崎直は灯籠を手に入れるべく、そちらを目指す。
「ヴィル。一緒に灯籠を飛ばしましょう。」
少し小走りに先を行き、振り返ってヴィルを手招きする。
ヴィルも笑顔で追って来てくれる。
沢崎直は楽しくて仕方がなかった。
「二つください。」
「はいよ。」
屋台で灯籠を二つ手に入れ、片方をヴィルに渡す。灯籠の代金は、先程の初めての依頼の報酬から支払った。
「ここにお願い事を書くんですか?」
「はい。」
ヴィルに尋ねながら確認し、沢崎直は灯籠に託す願い事を考える。
(……うーん。あんまり変なことは書けないし……。かといって、せっかくだからちょっと実用的じゃないことがいいよね?)
多分、この灯籠に託すのは神様にお願いするようなことなのだろう。日頃の自分の努力だけでは如何ともしがたいようで、高望みし過ぎないこと。
そう沢崎直は感じて、お正月に初詣で神様にお願いするくらいの気持ちで願いを考え始めた。
「………。」
そうなると、どれだけ考えても沢崎直の心に浮かぶのは、一つのことだけだ。
(……やっぱり、願うことは一個だけだよ……。)
だから、沢崎直は灯籠に願いを書き始めた。
『出来るだけヴィルの傍にいられますように。』
本当はずっとと書きたかったが、それは欲張り過ぎな気もした。あくまでも沢崎直はアルバート氏の身体に間借りしているだけのモブ女なのだ。いつかアルバート氏が帰還することもあるだろうし、そんな時まで占拠は出来ないだろう。
こんなことを書いたのを見られては恥ずかしいので、沢崎直はこそこそと隠れて書いた。
そして、見えないように裏返すと、ヴィルに尋ねる。
「ヴィルは書けましたか?」
「はい。」
ヴィルは笑顔で頷く。
こそこそしている沢崎直とは違い、ヴィルは堂々と灯籠の願いを宣言するかのように天に晒していた。
ヴィルの灯籠にはヴィルらしいキレイで流麗な字で『アルバート様にお仕えし続けられますように。』と書かれていた。
「ヴィル……。」
その願いに、沢崎直の心がチクリと痛んだ。
その痛みは、アルバート氏の身体を間借りしている罪悪感と、そこまでヴィルに慕われているアルバート氏への嫉妬も混じったものだった。
だから、すぐに沢崎直は頭を切り替えた。
少しでも推しの傍にいられるだけで幸せなのだ。これ以上を望んではいけない。
そう自分にしっかりと言い聞かせ、笑顔を浮かべる。
「飛ばしましょう。」
広場では既に日も落ち、薄闇の支配が始まった空に灯籠が舞い上がり始めていた。
そんな幻想的な光景の中で、沢崎直もヴィルと一緒に灯籠に火を灯す。
灯籠を掲げて、そっと手を離すと、灯籠は空に向かって舞い上がり始めた。
沢崎直はそんな灯籠を見つめながら、このまま時間が止まればいいのにと叶いもしない願いを何かに祈り始めていて、すぐにその考えを打ち消した。
せっかく今、灯籠に願ったばかりだというのに、その願いではないことを願っては、叶うものも叶わなさそうだ。
(……出来るだけ。)
なので沢崎直は灯籠に託したささやかで切実な願いを、心の中で繰り返すことにしていた。
31
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
辺境の最強魔導師 ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~
日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。
アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。
その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
脱獄賢者~魔法を封じられた懲役1000年の賢者は体を鍛えて拳で全てを制圧する~
榊与一
ファンタジー
大賢者ガルガーノは勇者と共に魔王軍へと立ち向かい、遂には魔王を異世界へと放逐する事に成功する。
王都へと凱旋した勇者パーティーは民衆に大歓声の元迎えられ、そしてそこで何故かガルガーノは人類の裏切り者として捕らえられてしまう。
その罪状は魔王を召喚し、人類を脅かしたという言いがかり以外何物でもない物だった。
何が起こったのか、自分の状況が理解できず茫然とするガルガーノ。
そんな中、次々とパーティーメンバーの口から語られる身に覚えのない悪逆の数々。
そして婚約者であったはずの王女ラキアの口から発せられた信じられない言葉。
余りの出来事に放心していると、気づけば牢獄の中。
足には神封石という魔法を封じる枷を付けられ。
告げられた刑期は1000年。
事実上死ぬまで牢獄に居ろと告げられた彼は、自分を裏切り陥れた国と、そして勇者パーティーに復讐を誓う。
「ふざけんな……ふっざけんなふざけんなぁ!!俺はここから抜け出して見せる!必ず!必ず後悔させてやるぞ!」
こうして始まる。
かつて大賢者と呼ばれた男の、復讐のための筋トレ生活が――
※この物語は冤罪で投獄され、魔法を封じらた大賢者が自分を嵌めた勇者達に復讐する物語です。
戦争で敗れた魔族や奴隷達を集めて国を興したりもします。
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。
window
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。
そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。
しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。
不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。
「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」
リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。
幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。
平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。
【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。
大森 樹
恋愛
【短編】
公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。
「アメリア様、ご無事ですか!」
真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。
助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。
穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで……
あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。
★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる