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第二部
第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!㊴『灯籠祭り』
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三十九
屋台を覗き、賑わう街をすり抜け、はしゃぐ。
祭りというのは、たとえ異世界であっても心躍るものだと沢崎直は実感していた。
ヴィルもいつもよりも笑顔が輝いている気がして、沢崎直は更に嬉しくなった。
(ま、眩しすぎる。ヴィル様ぁ。)
推しの眩しい笑顔に心の全てを持って行かれないように、必死に踏みとどまる沢崎直。
ただ、必死に努力しても、騒がしい心臓が鳴りやむことはなかった。
屋台が並んでいる通りを抜けると、そこには広場がある。
広場では祭りのメインイベントである灯籠を飛ばすために、たくさんの人々が集っていた。
それぞれに灯籠を持ち、各々の心に持つ願いを書き連ねている。
沢崎直も広場の一員になるべく、ヴィルに尋ねる。
「灯籠はどこにありますか?」
「あちらで売っております。」
ヴィルが指し示した方角には確かに灯籠を売る屋台があった。
沢崎直は灯籠を手に入れるべく、そちらを目指す。
「ヴィル。一緒に灯籠を飛ばしましょう。」
少し小走りに先を行き、振り返ってヴィルを手招きする。
ヴィルも笑顔で追って来てくれる。
沢崎直は楽しくて仕方がなかった。
「二つください。」
「はいよ。」
屋台で灯籠を二つ手に入れ、片方をヴィルに渡す。灯籠の代金は、先程の初めての依頼の報酬から支払った。
「ここにお願い事を書くんですか?」
「はい。」
ヴィルに尋ねながら確認し、沢崎直は灯籠に託す願い事を考える。
(……うーん。あんまり変なことは書けないし……。かといって、せっかくだからちょっと実用的じゃないことがいいよね?)
多分、この灯籠に託すのは神様にお願いするようなことなのだろう。日頃の自分の努力だけでは如何ともしがたいようで、高望みし過ぎないこと。
そう沢崎直は感じて、お正月に初詣で神様にお願いするくらいの気持ちで願いを考え始めた。
「………。」
そうなると、どれだけ考えても沢崎直の心に浮かぶのは、一つのことだけだ。
(……やっぱり、願うことは一個だけだよ……。)
だから、沢崎直は灯籠に願いを書き始めた。
『出来るだけヴィルの傍にいられますように。』
本当はずっとと書きたかったが、それは欲張り過ぎな気もした。あくまでも沢崎直はアルバート氏の身体に間借りしているだけのモブ女なのだ。いつかアルバート氏が帰還することもあるだろうし、そんな時まで占拠は出来ないだろう。
こんなことを書いたのを見られては恥ずかしいので、沢崎直はこそこそと隠れて書いた。
そして、見えないように裏返すと、ヴィルに尋ねる。
「ヴィルは書けましたか?」
「はい。」
ヴィルは笑顔で頷く。
こそこそしている沢崎直とは違い、ヴィルは堂々と灯籠の願いを宣言するかのように天に晒していた。
ヴィルの灯籠にはヴィルらしいキレイで流麗な字で『アルバート様にお仕えし続けられますように。』と書かれていた。
「ヴィル……。」
その願いに、沢崎直の心がチクリと痛んだ。
その痛みは、アルバート氏の身体を間借りしている罪悪感と、そこまでヴィルに慕われているアルバート氏への嫉妬も混じったものだった。
だから、すぐに沢崎直は頭を切り替えた。
少しでも推しの傍にいられるだけで幸せなのだ。これ以上を望んではいけない。
そう自分にしっかりと言い聞かせ、笑顔を浮かべる。
「飛ばしましょう。」
広場では既に日も落ち、薄闇の支配が始まった空に灯籠が舞い上がり始めていた。
そんな幻想的な光景の中で、沢崎直もヴィルと一緒に灯籠に火を灯す。
灯籠を掲げて、そっと手を離すと、灯籠は空に向かって舞い上がり始めた。
沢崎直はそんな灯籠を見つめながら、このまま時間が止まればいいのにと叶いもしない願いを何かに祈り始めていて、すぐにその考えを打ち消した。
せっかく今、灯籠に願ったばかりだというのに、その願いではないことを願っては、叶うものも叶わなさそうだ。
(……出来るだけ。)
なので沢崎直は灯籠に託したささやかで切実な願いを、心の中で繰り返すことにしていた。
屋台を覗き、賑わう街をすり抜け、はしゃぐ。
祭りというのは、たとえ異世界であっても心躍るものだと沢崎直は実感していた。
ヴィルもいつもよりも笑顔が輝いている気がして、沢崎直は更に嬉しくなった。
(ま、眩しすぎる。ヴィル様ぁ。)
推しの眩しい笑顔に心の全てを持って行かれないように、必死に踏みとどまる沢崎直。
ただ、必死に努力しても、騒がしい心臓が鳴りやむことはなかった。
屋台が並んでいる通りを抜けると、そこには広場がある。
広場では祭りのメインイベントである灯籠を飛ばすために、たくさんの人々が集っていた。
それぞれに灯籠を持ち、各々の心に持つ願いを書き連ねている。
沢崎直も広場の一員になるべく、ヴィルに尋ねる。
「灯籠はどこにありますか?」
「あちらで売っております。」
ヴィルが指し示した方角には確かに灯籠を売る屋台があった。
沢崎直は灯籠を手に入れるべく、そちらを目指す。
「ヴィル。一緒に灯籠を飛ばしましょう。」
少し小走りに先を行き、振り返ってヴィルを手招きする。
ヴィルも笑顔で追って来てくれる。
沢崎直は楽しくて仕方がなかった。
「二つください。」
「はいよ。」
屋台で灯籠を二つ手に入れ、片方をヴィルに渡す。灯籠の代金は、先程の初めての依頼の報酬から支払った。
「ここにお願い事を書くんですか?」
「はい。」
ヴィルに尋ねながら確認し、沢崎直は灯籠に託す願い事を考える。
(……うーん。あんまり変なことは書けないし……。かといって、せっかくだからちょっと実用的じゃないことがいいよね?)
多分、この灯籠に託すのは神様にお願いするようなことなのだろう。日頃の自分の努力だけでは如何ともしがたいようで、高望みし過ぎないこと。
そう沢崎直は感じて、お正月に初詣で神様にお願いするくらいの気持ちで願いを考え始めた。
「………。」
そうなると、どれだけ考えても沢崎直の心に浮かぶのは、一つのことだけだ。
(……やっぱり、願うことは一個だけだよ……。)
だから、沢崎直は灯籠に願いを書き始めた。
『出来るだけヴィルの傍にいられますように。』
本当はずっとと書きたかったが、それは欲張り過ぎな気もした。あくまでも沢崎直はアルバート氏の身体に間借りしているだけのモブ女なのだ。いつかアルバート氏が帰還することもあるだろうし、そんな時まで占拠は出来ないだろう。
こんなことを書いたのを見られては恥ずかしいので、沢崎直はこそこそと隠れて書いた。
そして、見えないように裏返すと、ヴィルに尋ねる。
「ヴィルは書けましたか?」
「はい。」
ヴィルは笑顔で頷く。
こそこそしている沢崎直とは違い、ヴィルは堂々と灯籠の願いを宣言するかのように天に晒していた。
ヴィルの灯籠にはヴィルらしいキレイで流麗な字で『アルバート様にお仕えし続けられますように。』と書かれていた。
「ヴィル……。」
その願いに、沢崎直の心がチクリと痛んだ。
その痛みは、アルバート氏の身体を間借りしている罪悪感と、そこまでヴィルに慕われているアルバート氏への嫉妬も混じったものだった。
だから、すぐに沢崎直は頭を切り替えた。
少しでも推しの傍にいられるだけで幸せなのだ。これ以上を望んではいけない。
そう自分にしっかりと言い聞かせ、笑顔を浮かべる。
「飛ばしましょう。」
広場では既に日も落ち、薄闇の支配が始まった空に灯籠が舞い上がり始めていた。
そんな幻想的な光景の中で、沢崎直もヴィルと一緒に灯籠に火を灯す。
灯籠を掲げて、そっと手を離すと、灯籠は空に向かって舞い上がり始めた。
沢崎直はそんな灯籠を見つめながら、このまま時間が止まればいいのにと叶いもしない願いを何かに祈り始めていて、すぐにその考えを打ち消した。
せっかく今、灯籠に願ったばかりだというのに、その願いではないことを願っては、叶うものも叶わなさそうだ。
(……出来るだけ。)
なので沢崎直は灯籠に託したささやかで切実な願いを、心の中で繰り返すことにしていた。
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