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第二部
第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!㊲『初めての冒険の終わり』
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三十七
ヴィルは涼しい顔で布袋からぶちまけた硬貨を数えて確認する。
沢崎直と違い、ヴィルは硬貨の量に怖気づいてはいなかった。それどころか、あれほどの量を手際よく迅速に二回数え終えると、すぐに布袋にもう一度仕舞い込んだ。
「確認できました、アルバート様。大丈夫です。」
「……はい。」
沢崎直は疲労を感じていた。
(そういうことじゃなかったんだけど……。)
まあ、結局は確認した方が良かったし、沢崎直が確認するよりも格段に速い作業だったので、何の文句もあるわけがないのだが……。
「では、またお越しくださいね。」
「……お世話になりました。」
ぐったりした沢崎直は、お姉さんに頭を下げてギルドを後にするのだった。
また、などと社交辞令を言われたが、ちょっとしばらくの間はギルドに近寄りたくなかった。初めての大冒険はあまりに濃い内容になり、お腹いっぱいを通り越してちょっと食傷気味である。
その上、想定外の報酬も手に入り、使いどころも分からない。
更に、沢崎直のお気に入りの場所にはモンスターの出現情報もある。
本当は地味にコツコツと薬草採取をして、いつの日にか自信と勇気と実力が今よりも備わった時に、もう少しだけ背伸びしてもう少しだけ難しい依頼を受けたりしてみようなどと心の中で密かに計画していたが、そういうモノは全て崩れ去った。
今後のことを改めて考え直さなくては、沢崎直は疲労感の残る頭で切に感じていた。
現実は沢崎直に厳しく、モブ女のゆっくりとした歩みに合わせてはくれないようだ。
「アルバート様。これからどうしますか?」
ギルドで少し時間がかかったこともあり、街は夕刻になり始めていた。
すっかりと赤さを増した太陽を見つめ、沢崎直は今日という密度の濃い一日を振り返った。
(……何か、イロイロあったな……。)
午前中の薬草採取の時間など、もはや遠い過去のように感じられ、沢崎直は今日一日で何歳か年を取ったような気さえしていた。
賑やかで忙しない街を眺め、ふぅっと息を吐き出す。
(……ニートの引きこもり状態からは脱出したけど……。何か、よく分かんなかったな。)
冒険者としての第一歩に、沢崎直はそんな感想を持った。
モブ女の領分では、ついていけない事態の連続であったからだ。
今日はそれでも何とかこなせたが、今後もこんなことの連続では身がもたない。もちろん、初日である今日が大変だっただけで、今後は凪の日々が続く可能性もあるが、それは未来の話で予知能力のない沢崎直に分かるはずもない。
(……冒険はたまにでいいや。)
沢崎直はそう結論付けた。
そうでなくても、沢崎直は異世界初心者でしなくてはならないことが山積みなのである。このまま本格的に冒険者を始めたら、身体がいくつあっても足りなくなるに違いない。それこそ、先日再会したハンプシャー伯爵令嬢が言っていた『見聞を広げるため』で十分である。要は、『無職』でなければいいのだ。
(ゆっくりがいいよ、何事も。無理は禁物だもん。)
赤くなって沈んでいく夕日を見ながら、沢崎直はそう心に決めていた。
「帰りましょうか?ヴィル。」
沢崎直がそう言うと、ヴィルは微笑んで頷く。
「はい。」
そろそろジョナサンも待ちくたびれている頃だろう。
沢崎直は帰路に着くことにした。
(さて、気を引き締めないと。)
遠足は、家に帰るまでが遠足である。
想定外のラッキーの後なので、変に浮かれて何か起きてはいけない。足元を掬われないように気を付けるに越したことはない。
そんなモブ女的思考で、沢崎直はまた一歩踏み出すのだった。
ヴィルは涼しい顔で布袋からぶちまけた硬貨を数えて確認する。
沢崎直と違い、ヴィルは硬貨の量に怖気づいてはいなかった。それどころか、あれほどの量を手際よく迅速に二回数え終えると、すぐに布袋にもう一度仕舞い込んだ。
「確認できました、アルバート様。大丈夫です。」
「……はい。」
沢崎直は疲労を感じていた。
(そういうことじゃなかったんだけど……。)
まあ、結局は確認した方が良かったし、沢崎直が確認するよりも格段に速い作業だったので、何の文句もあるわけがないのだが……。
「では、またお越しくださいね。」
「……お世話になりました。」
ぐったりした沢崎直は、お姉さんに頭を下げてギルドを後にするのだった。
また、などと社交辞令を言われたが、ちょっとしばらくの間はギルドに近寄りたくなかった。初めての大冒険はあまりに濃い内容になり、お腹いっぱいを通り越してちょっと食傷気味である。
その上、想定外の報酬も手に入り、使いどころも分からない。
更に、沢崎直のお気に入りの場所にはモンスターの出現情報もある。
本当は地味にコツコツと薬草採取をして、いつの日にか自信と勇気と実力が今よりも備わった時に、もう少しだけ背伸びしてもう少しだけ難しい依頼を受けたりしてみようなどと心の中で密かに計画していたが、そういうモノは全て崩れ去った。
今後のことを改めて考え直さなくては、沢崎直は疲労感の残る頭で切に感じていた。
現実は沢崎直に厳しく、モブ女のゆっくりとした歩みに合わせてはくれないようだ。
「アルバート様。これからどうしますか?」
ギルドで少し時間がかかったこともあり、街は夕刻になり始めていた。
すっかりと赤さを増した太陽を見つめ、沢崎直は今日という密度の濃い一日を振り返った。
(……何か、イロイロあったな……。)
午前中の薬草採取の時間など、もはや遠い過去のように感じられ、沢崎直は今日一日で何歳か年を取ったような気さえしていた。
賑やかで忙しない街を眺め、ふぅっと息を吐き出す。
(……ニートの引きこもり状態からは脱出したけど……。何か、よく分かんなかったな。)
冒険者としての第一歩に、沢崎直はそんな感想を持った。
モブ女の領分では、ついていけない事態の連続であったからだ。
今日はそれでも何とかこなせたが、今後もこんなことの連続では身がもたない。もちろん、初日である今日が大変だっただけで、今後は凪の日々が続く可能性もあるが、それは未来の話で予知能力のない沢崎直に分かるはずもない。
(……冒険はたまにでいいや。)
沢崎直はそう結論付けた。
そうでなくても、沢崎直は異世界初心者でしなくてはならないことが山積みなのである。このまま本格的に冒険者を始めたら、身体がいくつあっても足りなくなるに違いない。それこそ、先日再会したハンプシャー伯爵令嬢が言っていた『見聞を広げるため』で十分である。要は、『無職』でなければいいのだ。
(ゆっくりがいいよ、何事も。無理は禁物だもん。)
赤くなって沈んでいく夕日を見ながら、沢崎直はそう心に決めていた。
「帰りましょうか?ヴィル。」
沢崎直がそう言うと、ヴィルは微笑んで頷く。
「はい。」
そろそろジョナサンも待ちくたびれている頃だろう。
沢崎直は帰路に着くことにした。
(さて、気を引き締めないと。)
遠足は、家に帰るまでが遠足である。
想定外のラッキーの後なので、変に浮かれて何か起きてはいけない。足元を掬われないように気を付けるに越したことはない。
そんなモブ女的思考で、沢崎直はまた一歩踏み出すのだった。
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