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第二部
第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!㊱『小心者のモブ女』
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三十六
「もしかしたら、誰かが落としたモノかも知れないですし……。」
「魔石は落し物としてカウントされないと思いますよ。」
「でも、通りすがりの誰かが倒して魔石が落ちたのに気付かなくて……、とか。」
「確かに、そういうことはありますが、採取物は取得された方の物であることが原則となりますので。」
謙虚なんだか違うんだかよく分からない沢崎直の主張に、お姉さんは笑顔で説明を繰り返すだけだった。
もう拾った時点で、こうなることは決定らしい。
それが冒険者のルールだと言われれば、沢崎直にはどうしていいか分からない。モンスターを倒したわけでもなく、ただ落ちている魔石を拾っただけでそんなにたくさんの金額で買い取られては、困惑を通り越して恐怖を感じてしまうだけだ。
しかしこれ以上、ゴネてもどうしようもないのだろう。
沢崎直は新米冒険者には過ぎた金額を前に途方に暮れていた。
そんな沢崎直の態度に、お姉さんは微笑みを深くする。
「普通は、ありもしない所有権すら主張するんですよ。拾ったのは貴方なのに、そんなに欲がなくてどうするんですか?」
確かに血気盛んな冒険者は、まだ見ぬお宝とか求めそうだ。
だが、結局沢崎直はモブ女なのである。
過ぎたる幸運は身を滅ぼしかねないことを知っているし、求めているのは身の丈に合った幸せなのだ。
そうは言っても、人様をこれ以上困らせるのも沢崎直には出来ない。
職員のお姉さんの仕事の邪魔になってはいけないので、おとなしく引き下がることにした。
「……分かりました。あの、じゃあ、最初の金額で十分です。」
しょぼんとして、お姉さんに告げる。
お姉さんはついに笑い出した。
「ふふふ。すごくラッキーなことなのに、何で落ち込んでるんですか?モンスターも倒してないのに、魔石が拾えるなんてこと、なかなかあり得ないですよ?」
「……そうですよね?」
落ち込んだまま、お姉さんに愛想笑いをして同意する。
望外のラッキーをラッキーとして素直に受け取れないのが悲しきモブ女の性であった。
「では、こちらの書類にサインをお願いします。」
書類を差し出され、沢崎直は思わずヴィルを振り返る。
よく考えたら、署名をするなどという社会的活動は異世界に来てから初めてで、はたして沢崎直がアルバート氏を騙ってサインなどしていいものかと不安になったのだ。
ヴィルは穏やかに微笑んで、口を開いた。
「お名前を書くだけで十分ですよ。」
そう言われては、名前を書かないわけにはいかない。
だが、こういう時、本当は沢崎直と書きたかった。
「こちらにお願いします。」
そうお姉さんに指し示され、ペンを渡されては引くに引けない。
沢崎直はあまり書き慣れていない自分の物であって自分の物ではない名前を、書類にサインすることになった。
「………。」
「はい。大丈夫です。」
これからもアルバート氏として生きていく以上、アルバートとサインすることは増えていくのだろう。それは、沢崎直にとっては少し気が重かった。
「では、こちらを。」
お姉さんは先程持って来た布袋を沢崎直の前に差し出す。
「中をご確認ください。」
そういえば、金属音がしたなと沢崎直は少し前のことを思い出した。
そして、お姉さんの指示通りその布袋の中を確認してみる。
中には、沢崎直が見たこともないほどの硬貨が詰まっていた。
(……か、確認って言っても……。)
沢崎直は眼前の布袋の中の硬貨の山に完全に怖気づいた。
助けを求めてヴィルを振り返る。
ヴィルは微笑んで頷くと、そっと前に出て布袋を手に取った。
(そ、そうだよ。もう、持って帰ろう。……そんな大金、ヴィルさんに持ってもらった方が安心だし。何より、私じゃ落っことしかねない。)
ヴィルに預けたことで、恐慌を来す寸前で沢崎直は立ち止まった。
そのまま立ち上がろうとして、沢崎直はヴィルを促そうとする。
だが、それは叶わなかった。
「!!!!」
ジャラジャラジャラ
盛大な音を立てて、机の上に硬貨はぶちまけられた。
(………嘘でしょォォォォォォォォォォォォ!!!)
沢崎直は心の中で思わず絶叫していた。
「もしかしたら、誰かが落としたモノかも知れないですし……。」
「魔石は落し物としてカウントされないと思いますよ。」
「でも、通りすがりの誰かが倒して魔石が落ちたのに気付かなくて……、とか。」
「確かに、そういうことはありますが、採取物は取得された方の物であることが原則となりますので。」
謙虚なんだか違うんだかよく分からない沢崎直の主張に、お姉さんは笑顔で説明を繰り返すだけだった。
もう拾った時点で、こうなることは決定らしい。
それが冒険者のルールだと言われれば、沢崎直にはどうしていいか分からない。モンスターを倒したわけでもなく、ただ落ちている魔石を拾っただけでそんなにたくさんの金額で買い取られては、困惑を通り越して恐怖を感じてしまうだけだ。
しかしこれ以上、ゴネてもどうしようもないのだろう。
沢崎直は新米冒険者には過ぎた金額を前に途方に暮れていた。
そんな沢崎直の態度に、お姉さんは微笑みを深くする。
「普通は、ありもしない所有権すら主張するんですよ。拾ったのは貴方なのに、そんなに欲がなくてどうするんですか?」
確かに血気盛んな冒険者は、まだ見ぬお宝とか求めそうだ。
だが、結局沢崎直はモブ女なのである。
過ぎたる幸運は身を滅ぼしかねないことを知っているし、求めているのは身の丈に合った幸せなのだ。
そうは言っても、人様をこれ以上困らせるのも沢崎直には出来ない。
職員のお姉さんの仕事の邪魔になってはいけないので、おとなしく引き下がることにした。
「……分かりました。あの、じゃあ、最初の金額で十分です。」
しょぼんとして、お姉さんに告げる。
お姉さんはついに笑い出した。
「ふふふ。すごくラッキーなことなのに、何で落ち込んでるんですか?モンスターも倒してないのに、魔石が拾えるなんてこと、なかなかあり得ないですよ?」
「……そうですよね?」
落ち込んだまま、お姉さんに愛想笑いをして同意する。
望外のラッキーをラッキーとして素直に受け取れないのが悲しきモブ女の性であった。
「では、こちらの書類にサインをお願いします。」
書類を差し出され、沢崎直は思わずヴィルを振り返る。
よく考えたら、署名をするなどという社会的活動は異世界に来てから初めてで、はたして沢崎直がアルバート氏を騙ってサインなどしていいものかと不安になったのだ。
ヴィルは穏やかに微笑んで、口を開いた。
「お名前を書くだけで十分ですよ。」
そう言われては、名前を書かないわけにはいかない。
だが、こういう時、本当は沢崎直と書きたかった。
「こちらにお願いします。」
そうお姉さんに指し示され、ペンを渡されては引くに引けない。
沢崎直はあまり書き慣れていない自分の物であって自分の物ではない名前を、書類にサインすることになった。
「………。」
「はい。大丈夫です。」
これからもアルバート氏として生きていく以上、アルバートとサインすることは増えていくのだろう。それは、沢崎直にとっては少し気が重かった。
「では、こちらを。」
お姉さんは先程持って来た布袋を沢崎直の前に差し出す。
「中をご確認ください。」
そういえば、金属音がしたなと沢崎直は少し前のことを思い出した。
そして、お姉さんの指示通りその布袋の中を確認してみる。
中には、沢崎直が見たこともないほどの硬貨が詰まっていた。
(……か、確認って言っても……。)
沢崎直は眼前の布袋の中の硬貨の山に完全に怖気づいた。
助けを求めてヴィルを振り返る。
ヴィルは微笑んで頷くと、そっと前に出て布袋を手に取った。
(そ、そうだよ。もう、持って帰ろう。……そんな大金、ヴィルさんに持ってもらった方が安心だし。何より、私じゃ落っことしかねない。)
ヴィルに預けたことで、恐慌を来す寸前で沢崎直は立ち止まった。
そのまま立ち上がろうとして、沢崎直はヴィルを促そうとする。
だが、それは叶わなかった。
「!!!!」
ジャラジャラジャラ
盛大な音を立てて、机の上に硬貨はぶちまけられた。
(………嘘でしょォォォォォォォォォォォォ!!!)
沢崎直は心の中で思わず絶叫していた。
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