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第二部
第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!㉖『ギルド再訪』
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二十六
帰りの道は順調に進んでいき、沢崎直は午後の昼下がりには街に着くことが出来た。
少し緊張があるせいで身体が強張ることはあるけれど、乗馬はおおむね順調で移動手段として問題はなさそうだ。これからも精進は必要だし、人馬一体となるのはさすがに無理だろうが、それでも近場への移動であればこれからも手段として選択肢の一つに入れてもいいかもしれない。
冒険者ギルドへとまっすぐ進み、昨日とは違い、気負わずに躊躇することなく入り口の扉を開ける。
何たって沢崎直は依頼の完了の報告に来た冒険者なのだ。
その依頼がたとえFランクの大したことのない内容でも、沢崎直が昨日今日冒険者を始めたひよっこであってもである。
扉を開けてギルドの中に入ると、今日も昨日と同じくらいの賑わいを見せていた。
(……やっぱり大盛況だな、ここ。)
雑多な人々が集まり、生命力に満ちている場所である。
だが、生命力に満ちているのはいいことばかりではない。生命力に溢れすぎた者たちだってたくさんいる。そういう者は、あまりお行儀がいいとは言えないこともある。特に、この場所は腕を試して、実力を競い強さを求める者たちが集まってくる。そのため、賑やかというよりはもはや騒がしかった。その上、粗野である。
おっかなそうな人たちが、自らの力を誇示して威嚇しているかのように振舞っているのは、気の弱い上に実力が不確かな沢崎直にとっては、酷く居心地が悪かった。
身体を縮こまらせながら、誰かの邪魔にならないように静かにおとなしく列に並ぶ。
こういう場所で妙な因縁をつけられないためには、存在感を消して目立たないように大人しく過ごすに限る。モブ女時代に身に着けた処世スキルは、こういう場できちんと役立ってくれた。ただ、先程ギルドの扉を潜るまで何とか身に着けていたなけなしの自信は、縮こまっているうちに萎んでしまった。
依頼完了の報告のために並んでいる列で気配を消し、存在感を消し、じっと自分の番が来るのを待つ。
少しずつ前の人がはけて行き、もうじきに沢崎直の番が回って来そうなところまでやって来る。
前の前の人が依頼の報酬を受け取り、列から離れていく。
(……これでようやく、初仕事の完了だ。)
表面上は目立たないようにしながら、それでも心の中で沢崎直はもうじきやって来る初仕事成功の瞬間を夢見て、胸を高鳴らせていた。
だが、そんな沢崎直の希望は眼前で見事に打ち砕かれる。
沢崎直の前に並んでいた男は、自らの番が来た途端、職員のお姉さんに絡みだしたのだ。
「だから、違うって言ってんだろ!」
何故、自分よりも明らかに非力なお姉さんにまで大声で威嚇しなければならないのか?
大きな声を近くで出されて、沢崎直はただでさえか弱い心臓が縮み上がっていた。
「そう言われましても……。」
しかし、ギルド職員のお姉さんはさすがである。こういうことは時々あって多少慣れているのか、冷静に営業スマイルで対応し続けていた。
(……怖くないのかな?)
内心はどう思っているのかは分からないが、お姉さんの表情は変わらない。
そっと、お姉さんの顔色を窺いながら、沢崎直は嵐が早く去るように心の中で懸命に祈った。
帰りの道は順調に進んでいき、沢崎直は午後の昼下がりには街に着くことが出来た。
少し緊張があるせいで身体が強張ることはあるけれど、乗馬はおおむね順調で移動手段として問題はなさそうだ。これからも精進は必要だし、人馬一体となるのはさすがに無理だろうが、それでも近場への移動であればこれからも手段として選択肢の一つに入れてもいいかもしれない。
冒険者ギルドへとまっすぐ進み、昨日とは違い、気負わずに躊躇することなく入り口の扉を開ける。
何たって沢崎直は依頼の完了の報告に来た冒険者なのだ。
その依頼がたとえFランクの大したことのない内容でも、沢崎直が昨日今日冒険者を始めたひよっこであってもである。
扉を開けてギルドの中に入ると、今日も昨日と同じくらいの賑わいを見せていた。
(……やっぱり大盛況だな、ここ。)
雑多な人々が集まり、生命力に満ちている場所である。
だが、生命力に満ちているのはいいことばかりではない。生命力に溢れすぎた者たちだってたくさんいる。そういう者は、あまりお行儀がいいとは言えないこともある。特に、この場所は腕を試して、実力を競い強さを求める者たちが集まってくる。そのため、賑やかというよりはもはや騒がしかった。その上、粗野である。
おっかなそうな人たちが、自らの力を誇示して威嚇しているかのように振舞っているのは、気の弱い上に実力が不確かな沢崎直にとっては、酷く居心地が悪かった。
身体を縮こまらせながら、誰かの邪魔にならないように静かにおとなしく列に並ぶ。
こういう場所で妙な因縁をつけられないためには、存在感を消して目立たないように大人しく過ごすに限る。モブ女時代に身に着けた処世スキルは、こういう場できちんと役立ってくれた。ただ、先程ギルドの扉を潜るまで何とか身に着けていたなけなしの自信は、縮こまっているうちに萎んでしまった。
依頼完了の報告のために並んでいる列で気配を消し、存在感を消し、じっと自分の番が来るのを待つ。
少しずつ前の人がはけて行き、もうじきに沢崎直の番が回って来そうなところまでやって来る。
前の前の人が依頼の報酬を受け取り、列から離れていく。
(……これでようやく、初仕事の完了だ。)
表面上は目立たないようにしながら、それでも心の中で沢崎直はもうじきやって来る初仕事成功の瞬間を夢見て、胸を高鳴らせていた。
だが、そんな沢崎直の希望は眼前で見事に打ち砕かれる。
沢崎直の前に並んでいた男は、自らの番が来た途端、職員のお姉さんに絡みだしたのだ。
「だから、違うって言ってんだろ!」
何故、自分よりも明らかに非力なお姉さんにまで大声で威嚇しなければならないのか?
大きな声を近くで出されて、沢崎直はただでさえか弱い心臓が縮み上がっていた。
「そう言われましても……。」
しかし、ギルド職員のお姉さんはさすがである。こういうことは時々あって多少慣れているのか、冷静に営業スマイルで対応し続けていた。
(……怖くないのかな?)
内心はどう思っているのかは分からないが、お姉さんの表情は変わらない。
そっと、お姉さんの顔色を窺いながら、沢崎直は嵐が早く去るように心の中で懸命に祈った。
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ガチャ好きすぎて書いてしまった。
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