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第二部

第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!㉒『推しとピクニック』

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      二十二

 気持ちのいい風が吹く草原で、ヴィルと二人で昼食を摂る。
 肺いっぱいに吸い込んだ空気は、茂る草木の生命力に満ちていた。
 午前中いっぱい薬草探しの労働で身体を動かした後の昼食は、いつもよりも更に美味しく感じた。
(はぁ。労働っていいな……。)
 今日、沢崎直が採取した薬草が誰かの手に渡り、いつか誰かの傷を癒す。そうして廻りまわっていく社会の一員に少しでもなれている気がして、沢崎直の気分は上々であった。
 それでなくても、推しと気持ちのいいピクニックを楽しめているのだ。昨日感じた情けなくてどうしようもない気持ちも、この爽やかな草原の風が吹き飛ばしてくれたようだ。
「アルバート様。」
 満足そうにしている沢崎直に微笑みを向けて、ヴィルが食後のお茶を用意してくれる。
「ありがとうございます。」
 お礼を言って笑顔でお茶を受け取る沢崎直。
 二人でのんびりと過ごす時間は、沢崎直の心に充足感と幸福感をもたらす。
 薬草探しが思いのほか順調だったので、こののんびりした昼食の時間はご褒美のようなものだった。後は、今日採取した薬草を持って冒険者ギルドに行って報告を済ませば、本日の予定は完了である。それは、沢崎直の冒険者としての第一歩が順風満帆に踏み出せたということに他ならない。
 遠足は家に帰るまでが遠足だということは学生時代に口酸っぱく言われていたので、沢崎直もまだ気を抜いてはならないことは分かっている。ただ、今日という日が順調に進んでいっているのは、とても気分が良かった。
 お茶もすっかり堪能し、さすがにそろそろのんびりばかりもしていられないと、沢崎直は名残惜しさを感じながらも、口を開く。
「ヴィル。そろそろ帰りましょうか。冒険者ギルドにも寄らなければいけませんし。」
「そうですね。」
 沢崎直の言葉で、ヴィルは迅速に立ち上がる。
「では、俺は片づけをしてきます。」
「じゃあ、私は先にジョナサンたちの所に行ってますね。」
 池のほとりで水を飲んだり草を食べたりして、馬のジョナサンは今頃休んでいるはずだ。帰り道もしっかりとお世話になるので、先に行ってご機嫌取りをしたり仲良くしたりしておきたい。
 そう沢崎直は思って、ヴィルとその場で分かれてジョナサンたちが待つ池のほとりへと向けて歩き始めたのだった。
 足取りも軽く池へと向かう沢崎直。
 薬草採りも上手く出来たし、ヴィルと過ごせたのも、ジョナサンにうまく乗れるようになったのも、沢崎直の足取りを軽くさせている。いつの間にか、沢崎直はスキップするくらいの弾んだ足取りで進み始めていた。
「ジョナサーン!」
 小さくジョナサンの姿が見えてきたところで、沢崎直は遠くのジョナサンに弾む声で呼びかける。
 ジョナサンも沢崎直に返事を返してくれる。
 
 ヒヒーン

 そのまま手を振ってジョナサンに走り寄ろうとした沢崎直だが、すぐに何かがおかしいことに気付く。
 ジョナサンが沢崎直に返事を返した次の瞬間、ヴィルの乗って来た馬が嘶いた。
「!!」
 それは、あまりに切迫した声音で、沢崎直には馬の悲鳴のようにも聞こえた。

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