転生したらついてましたァァァァァ!!!

夢追子

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第二部

第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!㉑『異世界の事情』

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      二十一

 沢崎直は午前中いっぱいの昼御飯までの時間を使って、薬草探しに勤しんでいた。
 ヴィルに時折薬草の確認をする以外は、言葉少なに薬草採取に夢中になる。
 草の種類を見分けながら、緑の中を進んで身体を動かしていると、頭の中には様々な事柄が浮かんでは消えていく。
(……そういえば、昨日、伯爵家のお嬢さんにスゴイアピールされたな……。)
 そんな浮かんでは消えていく事柄の中で、沢崎直の脳内に引っかかったのは先日冒険者ギルドで偶然再会したハンプシャー伯爵令嬢のことだった。
 彼女はあの後も、依頼を受けるために受付に並んだ沢崎直を追いかけてきて、自分がいかな考えを持って冒険者として研鑽を積んでいるかや、剣を習ったりして自分磨きに努めているかを語り続けた。
 沢崎直は話半分で聞きながら、スゴイ努力家なんだなぁと大した感慨もなく思っただけだ。
(……あんなにアピールされても、一応婚約者がいるし、中身女だし、あんまり意味ないんだけど……。)
 それに、彼女が話している内容はこの封建的な異世界では異質で少数派の意見なのだろうが、沢崎直にとっては特段驚くようなものではない。この異世界で特に貴族の女性はどうやら結婚する以外の選択肢がよほどの場合を除いて用意されていないようだが、沢崎直が生きていた世界では結婚しない者もそれほど少なくなかった。適齢期というモノも出産年齢を考えればないことはないが、子供を持たない選択肢も存在していたので、幅があった。まあ晩婚・少子化が社会全体の問題ではあったのだが……。
(この世界で、女性として生きてくのって大変そうだな……。)
 女性が自らの人生の主役として自己実現するなどあり得なさそうだし、女性であることがあまり得になるとは思えない。そんな息苦しくて雁字搦めの社会通念を感じ、沢崎直は他人事としてこの世界の女性の大変さを思った。
(……まあ、私は今、成人男性のアルバート氏の身体に入ってるんだから、男として生きるんだよね、これからも……。)
 アルバート氏の身体を間借りしている以上、あまり勝手は許されないだろう。だからといって、完全に男として割り切っていくのは到底無理だ。この異世界に転生してから何とか誤魔化してやって来ているが、いつボロが出てもおかしくないし、無理が祟って限界がいつ訪れたって不思議ではない。
(……結局、師匠に聞かれた時も思ったけど……、女なんだよね、私。)
 身体は男のアルバート。心は女の沢崎直。
 現在の状況に沢崎直は非常にアンバランスさを感じていた。
 だからといって、真実を皆にカミングアウト出来るような状況が訪れるなどという希望はさすがに持っていない。現実はそこまで沢崎直に優しくはないだろう。もしも、優しいのだったら、今頃、女性としてたくさんのチート能力を有して転生しているだろうし、立ちはだかり続ける問題に頭を悩ませなくても良かったに違いない。
(結局、ままならないのが人生ってヤツか……。)
 つらつらと考え事をしながらも、器用に薬草を収集していく沢崎直。
 気が付くと、両手いっぱいの薬草を抱えていた。
「そろそろ昼食にしますか?」
 ヴィルが太陽の傾きで時間を察知して沢崎直に尋ねてくる。
 沢崎直はふぅーっと息を吐き、軽く汗ばんだ額を手の甲で拭いながら頷いた。
「はい、そうしましょう。」
「では、準備してまいります。」
 ヴィルは沢崎直から薬草を受け取り、昼食の準備をするため去っていく。
 沢崎直は緑が一面に広がる草原を振り返る。
(……マリア嬢にもままならないことがあるのかな?)
 ふと思い出したのは、淡々として隙のない婚約者の怜悧な美貌である。
 あのマリア嬢ですら、この異世界で思うままに生きられないという不自由さを感じているのだろうか?
(……何で、あんなにアルバート氏と結婚したいのかな?)
 アルバート氏が婚約を解消したいと言っても頑として受け入れる姿勢を見せなかったマリア嬢。引く手数多の彼女があそこまでこだわるほど、アルバート氏との結婚は彼女にとって利のあるものなのだろうか?
(……案外、御しやすそうでカカア天下向きの人材だからとか、そんな単純なことだったり?)
 どうしたって、貴族令嬢として結婚をしなくてはいけないのだったら、出来るだけ自分の人生に有利に働く人材を選びたかったのだろうか?
(まぁ、本人に聞かないと真実なんて分からないか……。)
 昼食の準備が出来たと呼ぶヴィルの声が聞こえてくる。
 沢崎直は考え事をその辺で切り上げて、ヴィルの元へと向かうのだった。
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