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第二部

第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!⑮『予期せぬ再会』

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      十五

 掲示板に張られた数多の依頼の紙の中から、初めての依頼に相応しい一枚へと手を伸ばす沢崎直。
 紙へと手が届く瞬間、その手は誰かの手と重なった。
「えっ?」
 突然、横から伸びてきた手に驚いて、沢崎直は小さな声を上げる。
「へっ?」
 その声に反応して、手の持ち主も小さな声を上げた。
 掲示板に張られた依頼の紙に手を重ねたまま、二人の人物は顔を見合わせる。
 何度も瞬きをして、沢崎直は相手の顔を驚きと共に見つめた。
 相手も沢崎直の顔を見た途端、はっと息を吸い込んだ。
 しばらく二人は手を重ね合わせたまま、見つめ合う。
 沢崎直が見つめ合った相手は妙齢で育ちのよさそうなお嬢さんだった。
「あ、あのー。」
 先に動いたのは沢崎直だ。
 重なったままの手をどうしていいか分からずに、とりあえず失礼のないように相手に声を掛けた。
 次に動いたのは、そのお嬢さんの背後に控えていた人物だ。
「コホンっ。」
 咳払いをして、控えめに何かを伝えるために意思表示してくる。
 沢崎直は咳払いの音で、背後の人物へと振り返った。
 今度はお嬢さんではなく、背後の人物を見つめる。
 背後の人物は、壮年の男性であった。きっちりと整えられた格好に、控えめでありながら隙のない完璧な所作。
(……あれ?どこかで……。)
 既視感を感じて、沢崎直は自らの記憶を探った。異世界にやって来てからまだあまり時間は経っていないが、ここ最近の記憶の中に答えがあるような気がした。
 ただ沢崎直が記憶を探っている間も、二人の若い男女の手は掲示板の紙の上で重なったままだ。沢崎直の手が下にあり、その上にお嬢さんの手が重ねられているため、失礼のないようにしようとすれば、沢崎直にはお嬢さんが手を離してくれるのを待つしかない。そうでなくては、失礼を承知で手を今の状態から引っこ抜かなくてはならないのだ。
 そういう事情があるとはいえ、どうやら壮年の男性は今の状態が酷く気に入らないようで、じっと刺すような視線で重なった二人の手を穴が開くほど見つめていた。
 その視線の強さや、先程の反応などで、沢崎直の記憶が刺激される。
(……あっ、思い出した。)
 過去の記憶に思い当たるものを発見し、沢崎直はとりあえず挨拶をするために微笑みを浮かべた。
「あ、あのー。その節はお世話になりました。あっ、あの、手を……。」
 こういう時、スマートで失礼にならない言葉の掛け方など沢崎直は知らない。なので、ひどく遠慮しながら、相手の気分を害さないように精一杯申し出てみた。
 その沢崎直の言葉で、お嬢さんは初めて今の状態に気づいたようで、弾かれたように重ねられていた手を引いて頬を染めた。
「す、すみません。」
「いえ、こちらこそ。えっと、く、ハンプシャー伯爵令嬢。」
 まさかこんな場所で偶然再会するとは思わなかったが、彼女はクリスティーン・ハンプシャー伯爵令嬢。異世界転生初日に、森の中で沢崎直が出会った貴族のご令嬢であった。
 あの日以来会ってもいないし、あの日は色々あり過ぎて有耶無耶のまま別れたので知人と呼べるほどの仲でもないご令嬢相手に、沢崎直は何と呼びかけたものかと少し迷ったが、ファーストネームで呼ぶほど仲良しではないし、そんなふうにスマートに呼べるほど距離を縮めることも出来ない。なので結局、距離感を十分に取ってファミリーネームで呼ぶことにした。
 もちろん、適切な距離を取れば壮年の男性従者は、沢崎直に厳しい視線を向けないでくれる。いくら、こちらが記憶喪失で正体不明のどこの馬の骨ではなく、辺境伯家の三男坊だという身分が分かったところで、婚姻前の若い男女であることに変わりはない。お嬢様の外聞を気にするならば、適切な距離があってしかるべきである。
 だが、頬を染めてこちらを熱い視線で見つめるお嬢さんの方は、何となく距離を詰める気が満々のようだった。
「そんな。クリスティーンとお呼びください。」
 一歩詰められそうになり、慌てて一歩下がる沢崎直。
 それでも逃げられなさそうな気配を感じ、更にもう一歩下がると、沢崎直はそこに控えていたヴィルの横に並んだ。
(……アルバート氏より、ヴィル様の方が絶対イケメンだから!)
 これが更なるイケメンでイケメンの魅力を緩和させるという沢崎直(アルバート)にしか使えない必殺の奥義であった。
 
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