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第二部
第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!⑬『依頼探し』
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十三
たくさんの紙の中から、沢崎直は自分の身の丈に合った依頼を一生懸命探していた。
掲示板はあまりにもアナログな設備で、こういう時はスマホやパソコンで一瞬の内に検索できた元の世界を懐かしく思い出す。
(単発のバイトとか、サイトですぐに探せたのに……。)
果たして冒険者の依頼の中に、単発バイトのようなものはあるのだろうか?
討伐や護衛などという全く経験のない依頼は片っ端から無視して、自分にも出来そうな平和的で牧歌的で生活感のある内容が書いてある紙を必死に探す。
あまりにも熱心に依頼の紙を沢崎直が見つめているので、隣の冒険者が横目でちらちらと気にしていたが、そんなことが気にならないほど沢崎直は依頼探しに躍起になっていた。
(怖くなくて……、痛くなくて……、辛くなくて……、頑張れそうで……。)
功名や報酬など、他の冒険者が気にするものは全く気にならない。沢崎直が気にしているのは依頼内容だけだ。自分が異世界初心者であることは分かっているし、実力がないことは痛いほど理解しているので、そんな自分でも少しでも役に立てるような依頼を目を血眼にして探しているのだ。
強いモンスターの討伐や達成が難しいものなどの相応の実力が要求される依頼は、実に目立つところに掲げられているので、そんな場所に視線を向ける必要などない。沢崎直が探しているのは、普通の人が気にしないような些細な依頼なので、それを見逃さないように乱雑に並べられた紙の隙間を中心にして依頼の確認をしていた。
「アルバート様。何か目ぼしいものはございましたか?」
「……まだ、見つかりません。」
後ろからヴィルに尋ねられ、沢崎直は依頼内容を次々に確認しながら正直に答える。
ヴィルは少しでも主人の役に立つため、背後から助言をするために口を開く。
「こちらの隅の方に、ランクの低い依頼がまとめられております。こちらはいかがですか?」
「ランク?」
ヴィルの言葉に、沢崎直は依頼を確認するのを一時中断して振り返って尋ねた。
ヴィルは微笑みを浮かべて、沢崎直の疑問に答える。
「はい。依頼にはランクがありまして、冒険者ランクに応じて相応しい依頼が選べるようになっております。」
(確か、受付のお姉さんもそう言ってたけど……。)
「こちらをご覧ください。依頼の紙のこの辺りに、この依頼のランクが書いてあります。これを参考にするとよろしいのではないでしょうか?」
ヴィルが指さした先には、確かに依頼のランクが書かれていた。
「本当だ……。」
依頼の内容だけに意識を向けすぎて、他の情報が目に入っていなかったらしい。
沢崎直はヴィルの説明でその事実に気付かされた。早速、反省して、ヴィルの説明通りに一番低いFランクと書かれている紙が多く張られている場所に視線を移す。
すると、そこには沢崎直にも何とかこなせそうな内容の依頼が並んでいた。
「……あっ。」
ようやく希望の兆しが見えて、険しさを増していた沢崎直の顔にも笑顔が浮かぶ。
どれだけ簡単な依頼であっても、出来ることがあるというのはいいことだ。その上、依頼というのは誰かの頼みごとであるから、それをこなすということは誰かの役に立つということである。そう考えると、沢崎直のちっぽけな存在にも何かしらの意味があるような気がして、ボキボキに折れた自信を少しだけ取り戻すことが出来そうだった。
Fランクの依頼を中心に依頼内容を確認する沢崎直。
(……採集依頼。……薬草かぁ。他には……、キノコ?鉱石?……魔物退治は、弱いヤツ相手でも怖いからやめよう……。)
モンスターの退治依頼はもちろん素通りして、安全そうなもので、その上、この辺りの地理にあまり詳しくないので、近場で済みそうなもので、更に、この異世界にもまだ不慣れなので、出来るだけ分かりやすい物を選別する沢崎直。
そんなへっぴり腰で臆病上等の沢崎直の背後では、つわもの達が更なるつわものの噂をしていた。
「S級のモンスターなんて、遭遇するのだって奇跡だぞ?その上、退治は無理だろ?」
「強い奴には強い奴にしか分からない匂いみたいなもんがあるんだろ?」
「そういえば、聞いたか?あの『剣鬼』が、この街に帰って来たらしいぞ。」
「ギルドに来たのか?」
「いや、そんな話は聞いてないが……。街には帰って来たっていうもっぱらの噂だ。何でも、見かけた奴がいるらしい。」
(……剣鬼?)
何だか物騒な響きに、沢崎直は後ろのつわもの達の会話に耳を傾けた。
「何だと?あの『剣鬼ゲオルグ』を?」
(……げおるぐ?)
突然会話に出てきた聞き慣れたような響きに、沢崎直はびくっと反応してしまった。
たくさんの紙の中から、沢崎直は自分の身の丈に合った依頼を一生懸命探していた。
掲示板はあまりにもアナログな設備で、こういう時はスマホやパソコンで一瞬の内に検索できた元の世界を懐かしく思い出す。
(単発のバイトとか、サイトですぐに探せたのに……。)
果たして冒険者の依頼の中に、単発バイトのようなものはあるのだろうか?
討伐や護衛などという全く経験のない依頼は片っ端から無視して、自分にも出来そうな平和的で牧歌的で生活感のある内容が書いてある紙を必死に探す。
あまりにも熱心に依頼の紙を沢崎直が見つめているので、隣の冒険者が横目でちらちらと気にしていたが、そんなことが気にならないほど沢崎直は依頼探しに躍起になっていた。
(怖くなくて……、痛くなくて……、辛くなくて……、頑張れそうで……。)
功名や報酬など、他の冒険者が気にするものは全く気にならない。沢崎直が気にしているのは依頼内容だけだ。自分が異世界初心者であることは分かっているし、実力がないことは痛いほど理解しているので、そんな自分でも少しでも役に立てるような依頼を目を血眼にして探しているのだ。
強いモンスターの討伐や達成が難しいものなどの相応の実力が要求される依頼は、実に目立つところに掲げられているので、そんな場所に視線を向ける必要などない。沢崎直が探しているのは、普通の人が気にしないような些細な依頼なので、それを見逃さないように乱雑に並べられた紙の隙間を中心にして依頼の確認をしていた。
「アルバート様。何か目ぼしいものはございましたか?」
「……まだ、見つかりません。」
後ろからヴィルに尋ねられ、沢崎直は依頼内容を次々に確認しながら正直に答える。
ヴィルは少しでも主人の役に立つため、背後から助言をするために口を開く。
「こちらの隅の方に、ランクの低い依頼がまとめられております。こちらはいかがですか?」
「ランク?」
ヴィルの言葉に、沢崎直は依頼を確認するのを一時中断して振り返って尋ねた。
ヴィルは微笑みを浮かべて、沢崎直の疑問に答える。
「はい。依頼にはランクがありまして、冒険者ランクに応じて相応しい依頼が選べるようになっております。」
(確か、受付のお姉さんもそう言ってたけど……。)
「こちらをご覧ください。依頼の紙のこの辺りに、この依頼のランクが書いてあります。これを参考にするとよろしいのではないでしょうか?」
ヴィルが指さした先には、確かに依頼のランクが書かれていた。
「本当だ……。」
依頼の内容だけに意識を向けすぎて、他の情報が目に入っていなかったらしい。
沢崎直はヴィルの説明でその事実に気付かされた。早速、反省して、ヴィルの説明通りに一番低いFランクと書かれている紙が多く張られている場所に視線を移す。
すると、そこには沢崎直にも何とかこなせそうな内容の依頼が並んでいた。
「……あっ。」
ようやく希望の兆しが見えて、険しさを増していた沢崎直の顔にも笑顔が浮かぶ。
どれだけ簡単な依頼であっても、出来ることがあるというのはいいことだ。その上、依頼というのは誰かの頼みごとであるから、それをこなすということは誰かの役に立つということである。そう考えると、沢崎直のちっぽけな存在にも何かしらの意味があるような気がして、ボキボキに折れた自信を少しだけ取り戻すことが出来そうだった。
Fランクの依頼を中心に依頼内容を確認する沢崎直。
(……採集依頼。……薬草かぁ。他には……、キノコ?鉱石?……魔物退治は、弱いヤツ相手でも怖いからやめよう……。)
モンスターの退治依頼はもちろん素通りして、安全そうなもので、その上、この辺りの地理にあまり詳しくないので、近場で済みそうなもので、更に、この異世界にもまだ不慣れなので、出来るだけ分かりやすい物を選別する沢崎直。
そんなへっぴり腰で臆病上等の沢崎直の背後では、つわもの達が更なるつわものの噂をしていた。
「S級のモンスターなんて、遭遇するのだって奇跡だぞ?その上、退治は無理だろ?」
「強い奴には強い奴にしか分からない匂いみたいなもんがあるんだろ?」
「そういえば、聞いたか?あの『剣鬼』が、この街に帰って来たらしいぞ。」
「ギルドに来たのか?」
「いや、そんな話は聞いてないが……。街には帰って来たっていうもっぱらの噂だ。何でも、見かけた奴がいるらしい。」
(……剣鬼?)
何だか物騒な響きに、沢崎直は後ろのつわもの達の会話に耳を傾けた。
「何だと?あの『剣鬼ゲオルグ』を?」
(……げおるぐ?)
突然会話に出てきた聞き慣れたような響きに、沢崎直はびくっと反応してしまった。
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