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第二部
第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!⑪『弊害』
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十一
(やっぱり、私が入ってるせいかな……?)
受付のお姉さんに渡された書類を記入しながら、沢崎直は考えていた。
考えていたのは受付のお姉さんがヴィルを見た時の反応と、自分を見た時の反応のあまりの違いについてである。
もちろん、沢崎直の最推しであり、尊き神として崇め奉っている超絶イケメン従者・ヴィル様を頬染めて声を上擦らせて女性が熱い視線で見つめるのは当然のことであり、それは今に始まったことではない。そんな女性たちの熱い思いのこもった視線を涼しげに受け流し、微笑んでいるヴィル様もいつも通りだ。だから、沢崎直が問題にしているのはそこではない。
そこではなく、その前の沢崎直を見つめる女性の視線についてである。
少なくとも、アルバート氏というのは由緒正しき辺境伯家の三男坊という素晴らしい肩書きを持つ貴族の御令息だ。育ちの良さを感じさせる品の良い佇まいもあり、生来のイケメンである外見的な魅力も併せて、女性が熱視線を向ける対象であることに間違いはない。
だが、最近はどうだろう?
残念イケメンと化したアルバート(in沢崎直)に、熱視線を向ける女性などいただろうか?
少なくとも、たった今、受付のお姉さんは沢崎直のことを熱視線で見つめてはいなかった。
もちろん、沢崎直とて女性の視線を独り占めするようなイケメンとして異世界に君臨したいわけではない。それどころか、向けられる好意にお応えできない以上、無用なトラブルを避けるためにも罪のない女性のハートを奪うようなことは極力避けた方がいいに決まっている。だから、熱視線を向けられないのはある意味では問題ないことではあるのだが、別方向から見ると、これは問題だらけなことなのである。
何故なら、今は沢崎直が間借りしている状態だからこれでいいのだが、間借り状態が何らかの終焉を迎え、アルバート氏が元の身体を取り戻した時、果たしてこの問題は解決するのか?もしも、解決しなければ、アルバート氏は自分の与り知らぬところで『モテ男のイケメン』という称号を剥奪されたことになるのではないのか?
いつの日か異世界に帰還を果たしたアルバート氏が、急に周囲の反応が違うことに違和感を覚えたりしないのか?
そんなことが沢崎直は気になって、自分のせいでアルバート氏がモテなくなっていたらと思うと申し訳ない気持ちになっていた。
(……貴族でイケメンとして生まれてきた余裕のあるアルバート氏なら、モテとかに必死になったりしないかもしれないけど……。)
モテ要素を必死にかき集めていた昔の同級生の悲しみを思い出すと、楽観視するわけにはいかない問題のような気が沢崎直にはしていた。
書類を書き終わりヴィルに確認してもらう。
「あ、あのー、ヴィル。これで間違っていませんか?」
記憶喪失の設定であり、アルバート氏でない以上、間違えがあってはならないので、詳しい人にチェックしてもらうのは当たり前だと沢崎直は思っていた。
ヴィルは書類を覗き込むと、微笑んで頷いてくれる。
「大丈夫ですよ、アルバート様。」
ヴィルにお墨付きを貰えたので、沢崎直は考え事を棚上げして書類を受付に提出することにした。
「お願いします。」
「はい。かしこまりました。」
沢崎直の背後のヴィルをちらちらと気にしながらも、お姉さんは受付の仕事をこなしてくれる。
何だかモブ女だった時のことを思い出すくらい透明な存在として扱われている気がして、沢崎直はどうしたらいいか困ってしまった。こればっかりは、同じくモテ男の師匠に相談しても解決しそうにない問題だ。
(師匠も、女性の視線とか集めまくって生きてきたタイプだろうし……。)
ここまで来ると、異世界転生初日に伯爵令嬢のクリスティーンさんに熱い視線で見つめられたことすら遠い日の出来事のような気がしてくる。
(……このままでいいのかな?)
イケメンの作法などと思った日のことを懐かしいくらいに遠くに思い出し、どんどんイケメンから遠ざかって行っているような自分の未来に一抹の不安を感じてしまう沢崎直であった。
(やっぱり、私が入ってるせいかな……?)
受付のお姉さんに渡された書類を記入しながら、沢崎直は考えていた。
考えていたのは受付のお姉さんがヴィルを見た時の反応と、自分を見た時の反応のあまりの違いについてである。
もちろん、沢崎直の最推しであり、尊き神として崇め奉っている超絶イケメン従者・ヴィル様を頬染めて声を上擦らせて女性が熱い視線で見つめるのは当然のことであり、それは今に始まったことではない。そんな女性たちの熱い思いのこもった視線を涼しげに受け流し、微笑んでいるヴィル様もいつも通りだ。だから、沢崎直が問題にしているのはそこではない。
そこではなく、その前の沢崎直を見つめる女性の視線についてである。
少なくとも、アルバート氏というのは由緒正しき辺境伯家の三男坊という素晴らしい肩書きを持つ貴族の御令息だ。育ちの良さを感じさせる品の良い佇まいもあり、生来のイケメンである外見的な魅力も併せて、女性が熱視線を向ける対象であることに間違いはない。
だが、最近はどうだろう?
残念イケメンと化したアルバート(in沢崎直)に、熱視線を向ける女性などいただろうか?
少なくとも、たった今、受付のお姉さんは沢崎直のことを熱視線で見つめてはいなかった。
もちろん、沢崎直とて女性の視線を独り占めするようなイケメンとして異世界に君臨したいわけではない。それどころか、向けられる好意にお応えできない以上、無用なトラブルを避けるためにも罪のない女性のハートを奪うようなことは極力避けた方がいいに決まっている。だから、熱視線を向けられないのはある意味では問題ないことではあるのだが、別方向から見ると、これは問題だらけなことなのである。
何故なら、今は沢崎直が間借りしている状態だからこれでいいのだが、間借り状態が何らかの終焉を迎え、アルバート氏が元の身体を取り戻した時、果たしてこの問題は解決するのか?もしも、解決しなければ、アルバート氏は自分の与り知らぬところで『モテ男のイケメン』という称号を剥奪されたことになるのではないのか?
いつの日か異世界に帰還を果たしたアルバート氏が、急に周囲の反応が違うことに違和感を覚えたりしないのか?
そんなことが沢崎直は気になって、自分のせいでアルバート氏がモテなくなっていたらと思うと申し訳ない気持ちになっていた。
(……貴族でイケメンとして生まれてきた余裕のあるアルバート氏なら、モテとかに必死になったりしないかもしれないけど……。)
モテ要素を必死にかき集めていた昔の同級生の悲しみを思い出すと、楽観視するわけにはいかない問題のような気が沢崎直にはしていた。
書類を書き終わりヴィルに確認してもらう。
「あ、あのー、ヴィル。これで間違っていませんか?」
記憶喪失の設定であり、アルバート氏でない以上、間違えがあってはならないので、詳しい人にチェックしてもらうのは当たり前だと沢崎直は思っていた。
ヴィルは書類を覗き込むと、微笑んで頷いてくれる。
「大丈夫ですよ、アルバート様。」
ヴィルにお墨付きを貰えたので、沢崎直は考え事を棚上げして書類を受付に提出することにした。
「お願いします。」
「はい。かしこまりました。」
沢崎直の背後のヴィルをちらちらと気にしながらも、お姉さんは受付の仕事をこなしてくれる。
何だかモブ女だった時のことを思い出すくらい透明な存在として扱われている気がして、沢崎直はどうしたらいいか困ってしまった。こればっかりは、同じくモテ男の師匠に相談しても解決しそうにない問題だ。
(師匠も、女性の視線とか集めまくって生きてきたタイプだろうし……。)
ここまで来ると、異世界転生初日に伯爵令嬢のクリスティーンさんに熱い視線で見つめられたことすら遠い日の出来事のような気がしてくる。
(……このままでいいのかな?)
イケメンの作法などと思った日のことを懐かしいくらいに遠くに思い出し、どんどんイケメンから遠ざかって行っているような自分の未来に一抹の不安を感じてしまう沢崎直であった。
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