156 / 187
第二部
第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!⑩『いざ冒険者ギルド』
しおりを挟む
十
「し、失礼します。」
おどおどとこそこそしながら、扉をそっと開けて中を覗きこむようにしながら小さな挨拶をする。
沢崎直は目的の冒険者ギルドへとやって来ていた。
扉を開けるまでもかなりの時間を逡巡に要していたので、その間に何人かがギルド内へと入っていった。ギルドの前の道で勇気が出せずに右往左往している沢崎直はさぞ不審に映ったに違いない。ギルドに入っていく何人かは横目で沢崎直をじっと観察していた。
そんな主人の傍にそっと影のように控えた優秀な従者のヴィルは、挙動不審な主人を決して急かすことはせず、ただじっと傍に控えて後ろについていた。
そっと扉の中を確認した後、隙間から滑りこむようにしてギルド内へと入る沢崎直。
ギルド内は活気に溢れ賑やかで、静かにやって来た闖入者のような沢崎直にわざわざ意識を向けるものなどいなかった。
(……スゴイいっぱい人がいる……。)
沢崎直には馴染みがないが、冒険者ギルドというのは、この異世界においてどうやら大繁盛するような人気スポットであるらしかった。
それぞれがそれぞれの目的でやって来ては去っていく。
人の往来が激しく、いちいち個人を識別するようなことにはならないほど、ギルド内に入ってしまえば有象無象として室内の一員に数えられてしまう。入るかどうかギルドの前で迷っていた不審さ以外は目立つことなど沢崎直にはなかった。それでなくても、どうやら室内を観察してみるに冒険者という人種は個性が際立つ人が多いようだ。それぞれの装備や服装も自由な職種のためか、それとも目立ちたがりの功名心に長けた者が多いのかは謎だが、色遣いもセンスも独特の人たちが大勢ひしめいていた。
(……何かスゴイ人がいっぱいいる……。)
そんな個性爆発の者たちの中で沢崎直はただの貴族のお坊ちゃんなので、すぐに埋没して存在感を失くしてしまう。唯一、イケメンという武器がありはするのだが、この場所ではあまり役に立たなさそうだし、アピールにもならなさそうだ。
沢崎直の傍に控える従者のヴィルは気配を消しているので、基本的には主従連れだって誰にも気にされてないが、時折、ヴィルの見事な気配の消し方や隙のない挙措を気にするような腕の立つ者がそっと視線を送るようなことがあった。しかし、ヴィルはそんな視線すらも涼しげな美貌で全て受け流していた。
ギルドの入り口の隅でキョロキョロと沢崎直がしていると、そっとヴィルが後ろから助言をくれる。
「アルバート様。どうやら受付はあちらのようですよ。」
ヴィルが指し示す方向には、確かに受付という文字が書かれた看板が下げられていた。
「は、はい。」
少し緊張しながら、人波をかき分け、沢崎直は勇気を振り絞って受付へと足を進める。
ヴィルはそんな主人の後ろに付いて進む。
「いらっしゃいませ。」
受付と書かれたカウンターでは、お姉さんが笑顔を浮かべていた。
お姉さんの優しそうな笑顔に勇気づけられ、沢崎直は緊張しながらも口を開く。
「あ、あのー。」
「はい、どのようなご用件ですか?」
「ぼ、冒険者というのは、どうしたらなれますか?」
「初めての方ですか?」
「は、はい。」
慣れた様子のやり取りで、受付のお姉さんが話を進めてくれる。
沢崎直は少しだけ胸を撫で下ろした。どうやら、冒険者というのは人気の商売らしく、様々なシステムがしっかりと構築されているらしい。初心者は用意されたレールに乗ればいいようで、この調子ならば複雑で難しいことはなさそうだ。
「では、冒険者登録ですね?かしこまりました。」
そう言うと、お姉さんは受付のカウンターの下から、書類を取り出した。
「まずは、こちらにご記入をお願いします。」
そして、そこで初めて沢崎直の背後に控えた従者のヴィルの存在に気付き、目をしばたいた。
「えっと、そちらの方もですか?」
受付の仕事中であるので、お姉さんは明らかなアプローチをしなかったが、沢崎直の背後の超絶イケメンを見て頬を染めた上、声が少し高くなった。目線にも気持ちが籠っていた。
「……俺は、どうしましょうか?」
もちろんヴィルはそんな視線も感情も全て涼しく受け流し、目の前の主人に質問を向けた。
「し、失礼します。」
おどおどとこそこそしながら、扉をそっと開けて中を覗きこむようにしながら小さな挨拶をする。
沢崎直は目的の冒険者ギルドへとやって来ていた。
扉を開けるまでもかなりの時間を逡巡に要していたので、その間に何人かがギルド内へと入っていった。ギルドの前の道で勇気が出せずに右往左往している沢崎直はさぞ不審に映ったに違いない。ギルドに入っていく何人かは横目で沢崎直をじっと観察していた。
そんな主人の傍にそっと影のように控えた優秀な従者のヴィルは、挙動不審な主人を決して急かすことはせず、ただじっと傍に控えて後ろについていた。
そっと扉の中を確認した後、隙間から滑りこむようにしてギルド内へと入る沢崎直。
ギルド内は活気に溢れ賑やかで、静かにやって来た闖入者のような沢崎直にわざわざ意識を向けるものなどいなかった。
(……スゴイいっぱい人がいる……。)
沢崎直には馴染みがないが、冒険者ギルドというのは、この異世界においてどうやら大繁盛するような人気スポットであるらしかった。
それぞれがそれぞれの目的でやって来ては去っていく。
人の往来が激しく、いちいち個人を識別するようなことにはならないほど、ギルド内に入ってしまえば有象無象として室内の一員に数えられてしまう。入るかどうかギルドの前で迷っていた不審さ以外は目立つことなど沢崎直にはなかった。それでなくても、どうやら室内を観察してみるに冒険者という人種は個性が際立つ人が多いようだ。それぞれの装備や服装も自由な職種のためか、それとも目立ちたがりの功名心に長けた者が多いのかは謎だが、色遣いもセンスも独特の人たちが大勢ひしめいていた。
(……何かスゴイ人がいっぱいいる……。)
そんな個性爆発の者たちの中で沢崎直はただの貴族のお坊ちゃんなので、すぐに埋没して存在感を失くしてしまう。唯一、イケメンという武器がありはするのだが、この場所ではあまり役に立たなさそうだし、アピールにもならなさそうだ。
沢崎直の傍に控える従者のヴィルは気配を消しているので、基本的には主従連れだって誰にも気にされてないが、時折、ヴィルの見事な気配の消し方や隙のない挙措を気にするような腕の立つ者がそっと視線を送るようなことがあった。しかし、ヴィルはそんな視線すらも涼しげな美貌で全て受け流していた。
ギルドの入り口の隅でキョロキョロと沢崎直がしていると、そっとヴィルが後ろから助言をくれる。
「アルバート様。どうやら受付はあちらのようですよ。」
ヴィルが指し示す方向には、確かに受付という文字が書かれた看板が下げられていた。
「は、はい。」
少し緊張しながら、人波をかき分け、沢崎直は勇気を振り絞って受付へと足を進める。
ヴィルはそんな主人の後ろに付いて進む。
「いらっしゃいませ。」
受付と書かれたカウンターでは、お姉さんが笑顔を浮かべていた。
お姉さんの優しそうな笑顔に勇気づけられ、沢崎直は緊張しながらも口を開く。
「あ、あのー。」
「はい、どのようなご用件ですか?」
「ぼ、冒険者というのは、どうしたらなれますか?」
「初めての方ですか?」
「は、はい。」
慣れた様子のやり取りで、受付のお姉さんが話を進めてくれる。
沢崎直は少しだけ胸を撫で下ろした。どうやら、冒険者というのは人気の商売らしく、様々なシステムがしっかりと構築されているらしい。初心者は用意されたレールに乗ればいいようで、この調子ならば複雑で難しいことはなさそうだ。
「では、冒険者登録ですね?かしこまりました。」
そう言うと、お姉さんは受付のカウンターの下から、書類を取り出した。
「まずは、こちらにご記入をお願いします。」
そして、そこで初めて沢崎直の背後に控えた従者のヴィルの存在に気付き、目をしばたいた。
「えっと、そちらの方もですか?」
受付の仕事中であるので、お姉さんは明らかなアプローチをしなかったが、沢崎直の背後の超絶イケメンを見て頬を染めた上、声が少し高くなった。目線にも気持ちが籠っていた。
「……俺は、どうしましょうか?」
もちろんヴィルはそんな視線も感情も全て涼しく受け流し、目の前の主人に質問を向けた。
31
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~
たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!!
猫刄 紅羽
年齢:18
性別:男
身長:146cm
容姿:幼女
声変わり:まだ
利き手:左
死因:神のミス
神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。
しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。
更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!?
そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか...
的な感じです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
冒険者パーティから追放された俺、万物創生スキルをもらい、楽園でスローライフを送る
咲阿ましろ
ファンタジー
とある出来事をきっかけに仲間から戦力外通告を突きつけられ、パーティを追放された冒険者カイル。
だが、以前に善行を施した神様から『万物創生』のスキルをもらい、人生が一変する。
それは、便利な家具から大規模な土木工事、果てはモンスター退治用のチート武器までなんでも作ることができるスキルだった。
世界から見捨てられた『呪われた村』にたどり着いたカイルは、スキルを使って、美味しい料理や便利な道具、インフラ整備からモンスター撃退などを次々とこなす。
快適な楽園となっていく村で、カイルのスローライフが幕を開ける──。
●表紙画像は、ツギクル様のイラストプレゼント企画で阿倍野ちゃこ先生が描いてくださったヒロインのノエルです。大きな画像は1章4「呪われた村1」の末尾に載せてあります。(c)Tugikuru Corp. ※転載等はご遠慮ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ハズレ職の<召喚士>がS級万能職に化けました~世界で唯一【召喚スポット】をサーチ可能になった俺、次々と召喚契約して一瞬で成り上がる~
ヒツキノドカ
ファンタジー
全ての冒険者は職業を持ち、その職業によって強さが決まる。
その中でも<召喚士>はハズレ職と蔑まれていた。
召喚の契約を行うには『召喚スポット』を探し当てる必要があるが、召喚スポットはあまりに発見が困難。
そのためほとんどの召喚士は召喚獣の一匹すら持っていない。
そんな召喚士のロイは依頼さえ受けさせてもらえず、冒険者ギルドの雑用としてこき使われる毎日を過ごしていた。
しかし、ある日を境にロイの人生は一変する。
ギルドに命じられたどぶさらいの途中で、ロイは偶然一つの召喚スポットを見つけたのだ。
そこで手に入ったのは――規格外のサーチ能力を持つ最強クラスの召喚武装、『導ノ剣』。
この『導ノ剣』はあらゆるものを見つけ出せる。
たとえそれまでどんな手段でも探知できないとされていた召喚スポットさえも。
ロイは『導ノ剣』の規格外なサーチ能力によって発見困難な召喚スポットをサクサク見つけ、強力な召喚獣や召喚武装と契約し、急激に成長していく。
これは底辺と蔑まれた『召喚士』が、圧倒的な成長速度で成り上がっていく痛快な物語。
▽
いつも閲覧、感想等ありがとうございます! 執筆のモチベーションになっています!
※2021.4.24追記 更新は毎日12時過ぎにする予定です。調子が良ければ増えるかも?
※2021.4.25追記 お陰様でHOTランキング3位にランクインできました! ご愛読感謝!
※2021.4.25追記 冒頭三話が少し冗長だったので、二話にまとめました。ブクマがずれてしまった方すみません……!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる