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第二部
第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!⑦『とりあえずみんなで考えよう』
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七
とりあえず師匠とヴィルは何とか宥めすかして、沢崎直を師匠の家の中に入れることに成功していた。
いつもよりも更に迅速に室内を整えた従者のヴィルが、沢崎直に椅子を勧め座らせる。
師匠もすぐに向かいに腰かけ、泣き続ける弟子を宥めにかかった。
「大丈夫だぞ、アル坊。とりあえず、皆で考えよう。な?」
「そうですよ、アルバート様。慌てて答えを出すようなことではありません。じっくりと考える必要があります。」
二人の男に慰められて、沢崎直は涙を拭う。
そして、ぽつぽつとこぼすように口を開いた。
「……師匠は、お仕事何してますか?」
「お、俺か?」
質問が自分に向けられて、師匠は鷹揚に微笑んで見せながら出来るだけ優しい声で答える。
「俺は、まず、お前たちの剣の指南役だろ?まあ、これは仕事って言えるほどのもんじゃねえが……。一応、何かあった時は、辺境伯の子息の剣術指南役って肩書きは見栄えがいいよな……。」
「……師匠は騎士団にも勤めていらしたんですよね?」
会話を始めたことで、まだぐずりながらも、沢崎直は少しだけ落ち着き始める。
そのことに師匠とヴィルは少しだけ安堵して、この調子のまま刺激せぬよう注意して続ける。
「ああ、あの時は俸禄も貰ってたからな。仕事だな。あれは。」
「騎士団は、剣も使えない放蕩息子の私では勤まりませんよね?」
一生懸命涙を我慢しながら、沢崎直が尋ねる。
何がスイッチになるか分からず、師匠は困り果てながらも会話を続ける。
「騎士団はあんまりオススメしないぞ。規律も面倒だし、何よりガサツな奴も多い。アル坊は繊細だろ?精神的にキツイぞ。」
「そうですよ、アルバート様。アルバート様が必要でしたら、私設騎士団を作り、その団長として活躍なされば良いのではないでしょうか?アルバート様にピッタリです。」
名門貴族の上に、実力も確かな辺境伯ならば、私設騎士団を作ることは訳もないだろうが、そのトップにへっぽこ剣法の三男坊が立っては、騎士団がなめられることは確実だ。それこそ親の七光りで、放蕩息子として名を馳せるに違いない。
沢崎直は肩を落とした。所詮、残念イケメンとしてしか生きられない記憶喪失を装った異世界初心者の元モブ女には、周りに迷惑をかけて鼻つまみ者として生きていくしか道がないのか……。
(……そんな騎士団、ヴィル様が団長になった方がいいに決まってる。その方がかっこいいし、団員の人も皆喜ぶもん。……部活だったら、マネージャーとかあるのに……。)
もちろん、仕事の話なので部活とは違う。事務方としてなら、沢崎直にも役に立つことはあるかもしれないが、きっと辺境伯の三男坊という肩書きがある以上、神輿に担がれる必要もあるだろう。そんな三男坊には、目立つ位置が適切であって、裏方で地味な作業を任されるようなことはなさそうだ。アルバート氏は、外見的にも肩書き的にもモブ女とは違うのだ。
異世界に来て、少しは上手くやれてきたと思ったら結局すぐにこれだ。
沢崎直は、どうしようもなく現実に打ちのめされていた。
「………。」
目に見えて落ち込んでしまった沢崎直の様子に、ヴィルと師匠は顔を見合わせた。
二人はアイコンタクトで互いに何かをしなければならないと頷き合う。
まずは、師匠が年の功もあり先陣を切った。
「あー、あれだ。アル坊。騎士団は良くないよな?魔法より剣が必要とか言うからな。おっ、それこそあれだ。お前の天啓の拳法を広めることにしたら、道場でも開いて弟子を募れば、師匠の仕事に就けるぞ。」
どさくさに紛れて、師匠が武術の始祖の話を持ち出してきた。ちなみに、師匠のネーミングセンスが壊滅的なのと、沢崎直自身が始祖になる気が全くないので、魔法と空手が組み合わさった沢崎直独自の新しい武術に名前はまだない。便宜上、『天啓の拳法』と師匠は呼んでいる。
沢崎直は師匠の提案に落ち込んだまま首を横に振った。
そのため師匠はアイコンタクトでヴィルに次を促した。
ヴィルは落ち込む主人のために、何とか言葉を紡ぎだす。
「アルバート様。一緒に考えましょう。大丈夫です。アルバート様が何をなさるにしても、俺は貴方の傍でお支えします。俺の力では足りないならば、他の者の力も借りましょう。」
誠実な従者の言葉に、ちょっとだけ沢崎直は顔を上げる。
「………私が不甲斐なくても、皆、私にがっかりしませんか?」
縋るように沢崎直に尋ねられ、ヴィルも師匠も元気づけるように声を上げた。
「もちろんです。アルバート様は既に素晴らしい主人です。」
「大丈夫だぞ、可愛い弟子のアル坊にがっかりなんてしないぞ。」
とりあえず師匠とヴィルは何とか宥めすかして、沢崎直を師匠の家の中に入れることに成功していた。
いつもよりも更に迅速に室内を整えた従者のヴィルが、沢崎直に椅子を勧め座らせる。
師匠もすぐに向かいに腰かけ、泣き続ける弟子を宥めにかかった。
「大丈夫だぞ、アル坊。とりあえず、皆で考えよう。な?」
「そうですよ、アルバート様。慌てて答えを出すようなことではありません。じっくりと考える必要があります。」
二人の男に慰められて、沢崎直は涙を拭う。
そして、ぽつぽつとこぼすように口を開いた。
「……師匠は、お仕事何してますか?」
「お、俺か?」
質問が自分に向けられて、師匠は鷹揚に微笑んで見せながら出来るだけ優しい声で答える。
「俺は、まず、お前たちの剣の指南役だろ?まあ、これは仕事って言えるほどのもんじゃねえが……。一応、何かあった時は、辺境伯の子息の剣術指南役って肩書きは見栄えがいいよな……。」
「……師匠は騎士団にも勤めていらしたんですよね?」
会話を始めたことで、まだぐずりながらも、沢崎直は少しだけ落ち着き始める。
そのことに師匠とヴィルは少しだけ安堵して、この調子のまま刺激せぬよう注意して続ける。
「ああ、あの時は俸禄も貰ってたからな。仕事だな。あれは。」
「騎士団は、剣も使えない放蕩息子の私では勤まりませんよね?」
一生懸命涙を我慢しながら、沢崎直が尋ねる。
何がスイッチになるか分からず、師匠は困り果てながらも会話を続ける。
「騎士団はあんまりオススメしないぞ。規律も面倒だし、何よりガサツな奴も多い。アル坊は繊細だろ?精神的にキツイぞ。」
「そうですよ、アルバート様。アルバート様が必要でしたら、私設騎士団を作り、その団長として活躍なされば良いのではないでしょうか?アルバート様にピッタリです。」
名門貴族の上に、実力も確かな辺境伯ならば、私設騎士団を作ることは訳もないだろうが、そのトップにへっぽこ剣法の三男坊が立っては、騎士団がなめられることは確実だ。それこそ親の七光りで、放蕩息子として名を馳せるに違いない。
沢崎直は肩を落とした。所詮、残念イケメンとしてしか生きられない記憶喪失を装った異世界初心者の元モブ女には、周りに迷惑をかけて鼻つまみ者として生きていくしか道がないのか……。
(……そんな騎士団、ヴィル様が団長になった方がいいに決まってる。その方がかっこいいし、団員の人も皆喜ぶもん。……部活だったら、マネージャーとかあるのに……。)
もちろん、仕事の話なので部活とは違う。事務方としてなら、沢崎直にも役に立つことはあるかもしれないが、きっと辺境伯の三男坊という肩書きがある以上、神輿に担がれる必要もあるだろう。そんな三男坊には、目立つ位置が適切であって、裏方で地味な作業を任されるようなことはなさそうだ。アルバート氏は、外見的にも肩書き的にもモブ女とは違うのだ。
異世界に来て、少しは上手くやれてきたと思ったら結局すぐにこれだ。
沢崎直は、どうしようもなく現実に打ちのめされていた。
「………。」
目に見えて落ち込んでしまった沢崎直の様子に、ヴィルと師匠は顔を見合わせた。
二人はアイコンタクトで互いに何かをしなければならないと頷き合う。
まずは、師匠が年の功もあり先陣を切った。
「あー、あれだ。アル坊。騎士団は良くないよな?魔法より剣が必要とか言うからな。おっ、それこそあれだ。お前の天啓の拳法を広めることにしたら、道場でも開いて弟子を募れば、師匠の仕事に就けるぞ。」
どさくさに紛れて、師匠が武術の始祖の話を持ち出してきた。ちなみに、師匠のネーミングセンスが壊滅的なのと、沢崎直自身が始祖になる気が全くないので、魔法と空手が組み合わさった沢崎直独自の新しい武術に名前はまだない。便宜上、『天啓の拳法』と師匠は呼んでいる。
沢崎直は師匠の提案に落ち込んだまま首を横に振った。
そのため師匠はアイコンタクトでヴィルに次を促した。
ヴィルは落ち込む主人のために、何とか言葉を紡ぎだす。
「アルバート様。一緒に考えましょう。大丈夫です。アルバート様が何をなさるにしても、俺は貴方の傍でお支えします。俺の力では足りないならば、他の者の力も借りましょう。」
誠実な従者の言葉に、ちょっとだけ沢崎直は顔を上げる。
「………私が不甲斐なくても、皆、私にがっかりしませんか?」
縋るように沢崎直に尋ねられ、ヴィルも師匠も元気づけるように声を上げた。
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