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第二部
第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!⑥『気づき』
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六
「師匠ぉ~。」
師匠の家に到着した途端、沢崎直は師匠へと泣き縋った。
今日も今日とて師匠は酒浸りの上に、午前中であるため起き出してくる時間も遅く、何度もノックして初めて扉を開けてもらえたのだが、そんなことは関係ない。沢崎直は馬車の中で悶々と悩み続けた難題の答えを切に求めていた。そのため、いつもはしつこく扉をノックするのは従者のヴィルの役目であるというのに、そのヴィルが出る幕を奪う勢いで猛烈に扉を叩いた沢崎直である。あまりの必死な懇願のこもったノックの響きに、師匠はいつもよりも早めに起きて扉を開けてくれたくらいだ。
「……何だ?アル坊?」
扉を開けて、まだグロッキー気味の師匠が訪問者を確認する。
沢崎直は酒の匂いのする師匠に泣きつくように縋った。
「助けてくださいー、師匠ぉー。」
あまりの沢崎直の勢いに、ヴィルは口を挟むことすら出来ていない。いつもなら師匠の家に訪問した第一声は、ヴィルによるだらしない師匠への生活態度に対する説教で始まるのが通例なのだが、それをすっ飛ばす勢いで沢崎直は師匠に泣きついたのだった。
「どうした?」
手土産の要求もせず、あまりの剣幕に気圧され師匠が沢崎直に尋ねる。
沢崎直は涙ぐみながら、師匠に素直に答えた。
「私、無職なんですぅ~。」
「はっ?」
師匠は沢崎直の言葉の意味が理解できずに固まっていた。
何なら、傍で聞いていた従者のヴィルも主人の発言の真意が分からずにいた。
だが、涙ぐんだ沢崎直は、師匠へと切々と訴え続ける。
「その上、引きこもりでニートなんですぅ~。ダメダメの弟子なんですぅ~。」
一人で落ち込み続ける沢崎直は、師匠たちには意味の分からぬであろう言葉を吐き、ついには師匠の家の玄関先で声を上げて泣き始めた。
これには師匠も、ヴィルも困り果てる。
何かを言わねばと、師匠は寝起きで酒浸りの脳みそを無理矢理動かして口を開く。
「あー、あれだ。うん。別にいいんじゃねぇの?……あれだろ?生活に困ってるわけじゃねぇし……。うん。実家が太いってのは、遊んで暮らしてても大丈夫だろ?何たって、貴族なんだし、アル坊ん家は……。辺境伯だからな。」
あまり働いてない頭で、何とか言葉を紡ぐ師匠だったが、やはりうまい言葉が見つかりはしなかった。
なので、沢崎直は師匠の言葉では泣き止まない。
「うえーん。道楽息子になっちゃってるう~。」
「だ、大丈夫ですよ、アルバート様。」
あまりに主人が泣いているので、まだ理解が追い付いていない状態ではあるが、従者のヴィルも宥めようとして参戦する。
「アルバート様は、まだ記憶の方も不確かですし、お身体も完全ではないと思います。り、療養中なのですから、無理をなさってはいけません。」
「……ぐすっ。」
ヴィルの優しい言葉に、しゃくりあげていた涙を拭った沢崎直。じっとヴィルを見つめて、涙の残る声で尋ねる。
「療養はいつまでですか?療養しても記憶が戻らなかったら終わりますか?そしたら、記憶のない不甲斐ない私に出来る仕事はありますか?」
上目遣いで救いを求めるように尋ねられ、ヴィルは懸命に脳を働かせる。
「だ、大丈夫です。アルバート様ほど素晴らしい方ならば、どんな仕事でもできます。」
「……無理ですぅ~。」
ヴィルの慰めは失敗に終わった。
今度は師匠が選手交代とばかりに頭を掻きながら沢崎直に話しかける。
「と、とりあえず、仕事だろ?仕事、仕事……。アル坊が、出来る仕事……。」
街で雨宿りのために寄った喫茶店で店員のお姉さんに何気なく投げかけられた質問が、沢崎直の想定していなかった無防備な部分に突き刺さり、柔な心を抉っていた。元モブ女・沢崎直はその時初めて気づいたのだ。この異世界において、現在の自分は『引きこもりのニート状態』であるということに……。
雨雲が過ぎ去り空は晴れ渡ったというのに、モブ女であっても捨て置くことはできない情けない事実に、沢崎直の涙は止まる気配を見せなかった。
「師匠ぉ~。」
師匠の家に到着した途端、沢崎直は師匠へと泣き縋った。
今日も今日とて師匠は酒浸りの上に、午前中であるため起き出してくる時間も遅く、何度もノックして初めて扉を開けてもらえたのだが、そんなことは関係ない。沢崎直は馬車の中で悶々と悩み続けた難題の答えを切に求めていた。そのため、いつもはしつこく扉をノックするのは従者のヴィルの役目であるというのに、そのヴィルが出る幕を奪う勢いで猛烈に扉を叩いた沢崎直である。あまりの必死な懇願のこもったノックの響きに、師匠はいつもよりも早めに起きて扉を開けてくれたくらいだ。
「……何だ?アル坊?」
扉を開けて、まだグロッキー気味の師匠が訪問者を確認する。
沢崎直は酒の匂いのする師匠に泣きつくように縋った。
「助けてくださいー、師匠ぉー。」
あまりの沢崎直の勢いに、ヴィルは口を挟むことすら出来ていない。いつもなら師匠の家に訪問した第一声は、ヴィルによるだらしない師匠への生活態度に対する説教で始まるのが通例なのだが、それをすっ飛ばす勢いで沢崎直は師匠に泣きついたのだった。
「どうした?」
手土産の要求もせず、あまりの剣幕に気圧され師匠が沢崎直に尋ねる。
沢崎直は涙ぐみながら、師匠に素直に答えた。
「私、無職なんですぅ~。」
「はっ?」
師匠は沢崎直の言葉の意味が理解できずに固まっていた。
何なら、傍で聞いていた従者のヴィルも主人の発言の真意が分からずにいた。
だが、涙ぐんだ沢崎直は、師匠へと切々と訴え続ける。
「その上、引きこもりでニートなんですぅ~。ダメダメの弟子なんですぅ~。」
一人で落ち込み続ける沢崎直は、師匠たちには意味の分からぬであろう言葉を吐き、ついには師匠の家の玄関先で声を上げて泣き始めた。
これには師匠も、ヴィルも困り果てる。
何かを言わねばと、師匠は寝起きで酒浸りの脳みそを無理矢理動かして口を開く。
「あー、あれだ。うん。別にいいんじゃねぇの?……あれだろ?生活に困ってるわけじゃねぇし……。うん。実家が太いってのは、遊んで暮らしてても大丈夫だろ?何たって、貴族なんだし、アル坊ん家は……。辺境伯だからな。」
あまり働いてない頭で、何とか言葉を紡ぐ師匠だったが、やはりうまい言葉が見つかりはしなかった。
なので、沢崎直は師匠の言葉では泣き止まない。
「うえーん。道楽息子になっちゃってるう~。」
「だ、大丈夫ですよ、アルバート様。」
あまりに主人が泣いているので、まだ理解が追い付いていない状態ではあるが、従者のヴィルも宥めようとして参戦する。
「アルバート様は、まだ記憶の方も不確かですし、お身体も完全ではないと思います。り、療養中なのですから、無理をなさってはいけません。」
「……ぐすっ。」
ヴィルの優しい言葉に、しゃくりあげていた涙を拭った沢崎直。じっとヴィルを見つめて、涙の残る声で尋ねる。
「療養はいつまでですか?療養しても記憶が戻らなかったら終わりますか?そしたら、記憶のない不甲斐ない私に出来る仕事はありますか?」
上目遣いで救いを求めるように尋ねられ、ヴィルは懸命に脳を働かせる。
「だ、大丈夫です。アルバート様ほど素晴らしい方ならば、どんな仕事でもできます。」
「……無理ですぅ~。」
ヴィルの慰めは失敗に終わった。
今度は師匠が選手交代とばかりに頭を掻きながら沢崎直に話しかける。
「と、とりあえず、仕事だろ?仕事、仕事……。アル坊が、出来る仕事……。」
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雨雲が過ぎ去り空は晴れ渡ったというのに、モブ女であっても捨て置くことはできない情けない事実に、沢崎直の涙は止まる気配を見せなかった。
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