転生したらついてましたァァァァァ!!!

夢追子

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第二部

第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!⑤『雨宿り』

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     五

 馬車から戻ってきたヴィルを出迎え、雨宿りのための店を探し始めた頃、雨雲は少しずつ街の上空へと移動し始めていた。
 ぽつぽつと、降り出した雨。
 すぐにざっと雨脚が強くなる。
 近くにあった喫茶店に二人で到着した頃には、雨は街を白く濁らせてしまうほど本降りになっていた。
 店先にあった看板を店員のお姉さんが慌てて中に入れていたので、沢崎直も自然とお姉さんを手伝って看板を中に入れる。
「だ、大丈夫ですか?」
「すみません、手伝ってもらっちゃって。」
「いえいえ。」
 お姉さんも沢崎直もヴィルも濡れ鼠になる前に、店内に避難が完了した。
 空いている席にヴィルと座り、窓から外を眺める。
 叩きつけるような雨に、石畳は一気に濡れた色になった。
「この分なら、すぐに止むと思いますよ。」
 ヴィルが沢崎直と同じように外を見つめながら教えてくれる。
 異世界の夏の気候初体験の沢崎直は、ヴィルの説明を聴きながら、異世界の通り雨を見つめていた。
 二人が座る席に、先程の店員のお姉さんが注文を取りにやって来る。
「何にしますか?」
「どうされますか?アルバート様。」
「何か飲み物を、お願いします。」
「では、お茶をお願いします。」
「はい、かしこまりました。」
 そういえば、沢崎直は異世界に来てからは家でお茶を飲むことが多く、店でお茶を飲むことが初めてだったことに思い至る。元の世界で親友の亜佐美と頻繁に色々な喫茶店巡りをしていたのが懐かしい。
「お待たせしました。」
 お盆にティーセットを乗せてやって来た店員のお姉さん。
 ティーセットをテーブルに並べた後、更にお盆に乗っていたケーキを沢崎直の前に並べてくれた。
「これ、さっき手伝ってもらったサービスです。」
「そ、そんなつもりでは。」
「いえいえ、遠慮なさらず。」
 遠慮がちになる沢崎直に、店員のお姉さんは笑顔でケーキを勧めてくれる。
 ケーキは美味しそうで、沢崎直は有り難くいただくことにした。
「いただきます。」
「はいはーい。」
 お姉さんは笑顔を残してひらひらと手を振って去っていく。
 ケーキを一口口に含むと、口の中には上品な甘さが広がった。
「んーーーー?」
 ケーキの味に、思わず喜びの声を上げる沢崎直。
 そんな主人の様子に、従者のヴィルは穏やかな微笑みを向けていた。
 ケーキをすぐに平らげてしまう沢崎直。
「おかわりはどうされますか?」
「だ、大丈夫です。」
 食いしん坊っぷりを推しの前で披露した状態の沢崎直は、少し恥ずかしくなっておかわりを遠慮した。
 異世界の食べ物は、沢崎直の元いた世界と違い、どちらかというと味重視の上に、優しい味わいのモノが多い気がする。奇を衒ったような食べ物を見かけないのは、沢崎直が世間知らずなのか、この異世界にそういう物が多くないのか、どちらなのかは分からない。ただ、SNSの類いがないこの異世界では、見た目重視のインパクト命といった映えグルメや話題性重視のデカ盛り・メガ盛り・激辛etc….とにかく、そういった食べ物を見かけることはなかった。
 お茶を飲んで恥ずかしさを誤魔化しながら、沢崎直は気を取り直す。
 ヴィルはそんな恥じらいを見せる主人に、それ以上深く追及はしなかった。
 お茶を飲み干し、カップが空になったタイミングで、店員のお姉さんが二人の座るテーブルへとやって来る。
「おかわりは如何ですか?」
 奇しくも、先程のヴィルに向けられたものと同じセリフに、沢崎直は居た堪れなくなった。
「だ、大丈夫です。」
 何気なさを無理矢理装って、店員のお姉さんに答える沢崎直。
 お姉さんは沢崎直の態度を特に気にせず、笑顔のままで会話を続けた。
「急に雨が降ってきてびっくりしましたねー。」
「そうですね。」
 笑顔で沢崎直も何気ない日常会話を繰り広げる。
「今日は買い物ですか?」
「あっ、はい。そんな感じです。」
 店内はゆったりとした時間が流れ、過ごしやすい空気で満ちている。
 外は雨がまだ降り続いているので、新しい客は入ってくる気配もない。
 店内にいるのは数人の客だけで、お姉さんも接客が忙しいわけではなさそうだ。
 そのため、一人の客にかける時間も大幅に割けるというものだ。少しくらいの無駄話など問題にならないくらいに会話をする時間は有り余っているようだった。
 ヴィルは主人の会話に口を挟むようなことはしないし、そもそもあまり多弁な方ではない。自然と店員のお姉さんと会話するのは沢崎直だけになる。
 お姉さんが若いイケメン二人連れに興味を示して、積極的に会話をしてくれる。
「お兄さんたちは、よくこの街に来られるんですか?」
「あっ、はい。たまに、来ます。」
 元いた世界ではモブ女だった沢崎直なので、こんなふうに若い女性に興味津々に話しかけられることに慣れていなかった。そのために、話の切り上げ方もいなし方も話題の持って行き方も分からず、戸惑いながら質問に答える感じになっていた。
「お兄さんは、普段何してる人ですか?」
「はあ……。」
(普段……。何を?)
 お姉さんの質問に答えようとして、沢崎直は考え込む。
 元いた世界でモブ女だった沢崎直なら、普段は会社員をしていると即答していたのだが、この異世界でアルバート氏としてはどうなのだろう。
(……えーっと、普段は、家にいて……。)
 自分が過ごしてきた日々を思い返し、適切な答えを探そうとする沢崎直。
「お仕事って、何されてるんですか?」
 お姉さんが質問を重ねてくる。
(お、お仕事?……貴族の三男坊は肩書き?お仕事?)
 だが、どれだけ考えてみても沢崎直はお姉さんの質問に答える言葉を持たなかった。





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