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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!58『師匠の与太話』
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五十八
「と、とにかくだ。どうも、アル坊は失踪してた間に、こんな力を身に着けていたようだってことだ。ヴィル、分かったか?」
師匠はぐだぐだになったその場を仕切り直すように、ヴィルに向けて話しかけた。
ヴィルはまだ何が何だか分からないようで、箱を持ったまま師匠と主人を交互に見比べていた。
名前のダサさが気になり過ぎて、本来の話を忘れていた沢崎直だったが、師匠が仕切り直してくれたおかげで、そのことを思い出した。
師匠は咳払いを一つでようやく自分のペースを取り戻す。
「で、こっからは俺の推測も交えての話になるんだがな。」
二人の弟子の顔をしっかりと見据え、更に説明を続けていく。
「もしかしたら、その、森の中でワイルドベアーと遭遇した時に何かあったのかもしれん。まあ、何があったのかは皆目見当もつかんが……。少なくとも、この新しい力と関係がないとは言えん。」
師匠の説明をヴィルが検討し始める。酒の箱をその場に置き、顎に片手を添え、その美しい眉を寄せる。
考え事をする顔すら美しい推しに、沢崎直は話の展開も忘れて魅入っていた。
ヴィルの考えが纏まるのを待たず、師匠は畳み掛けるように続ける。
「こんな技も魔法も見たことがない。お前だって、そうだろ?ヴィル。」
尋ねられて、ヴィルは素直に頷く。
「はい。」
師匠は弟子の素直な返答に満足げに頷く。
そして、とっておきのことを話すぞという雰囲気を醸し出し始めた。
「ああ、そうだな。……そこで、俺は考えた。これは、もしかしたら『天啓』なのではないかと!」
「………天啓。」
師匠の言葉に、ヴィルは衝撃を受けていた。
反対に、師匠の言葉に沢崎直は意味が分からず混迷を深めていた。
二人の弟子の反応を気にせずに、師匠はこれからがクライマックスだと分かるくらいの声量で、演説するように続けた。
「もしも、これが武術の神の齎した『天啓』であるとするならば、アル坊が今まで見たこともない力を見せてもおかしくない。いや、むしろそうでなければ説明が付かんことが多すぎるだろ?不自然に倒されたワイルドベアー。齎された新しい力。記憶喪失。」
(あっ、そういう切り口かぁ。)
ようやく沢崎直は師匠のしたいことを理解し始めた。よく分からないことが起きて、そのせいでよく分からん力があるとヴィルを丸め込めばいいと師匠は思ったようだ。
(……でも、そんな上手くいくかな?天啓って言われても、そんなに簡単に信じられないよね?)
そう懐疑的な見解を持ち、沢崎直がヴィルの様子を窺う。
果たして、ヴィルは……。
「……。天啓。」
(………信じとる。ヴィルさん、がっつり信じとる。)
ヴィルは師匠の与太話を半ば本気で信じているようで、純粋な驚きと感銘を見せていた。
ヴィルの様子に満足する師匠。
「天啓を得るほどの力ならば、その代償で少々の記憶が抜け落ちてしまうことは考えられる。それがアル坊に起きたことだと、俺はそう結論付けたわけだ。」
「………はい。」
ヴィルは万感の思いで師匠の言葉に頷いた。
あまりにも純真なヴィルに、沢崎直は心配になった。
それと同時に、そんな与太話で純真なヴィルを騙さなくてはならない事態に、心苦しさを感じていた。
それでも真実を話すことはできない。
師匠は沢崎直が披露できない真実を隠す手伝いをしてくれただけなのだ。
……もちろん、どれだけノリノリに見えても、である。
純真なヴィルは、こうしていつも師匠に騙されてきたのだなぁ、沢崎直はこの二人の師弟の関係を改めてしみじみと感じていた。
「と、とにかくだ。どうも、アル坊は失踪してた間に、こんな力を身に着けていたようだってことだ。ヴィル、分かったか?」
師匠はぐだぐだになったその場を仕切り直すように、ヴィルに向けて話しかけた。
ヴィルはまだ何が何だか分からないようで、箱を持ったまま師匠と主人を交互に見比べていた。
名前のダサさが気になり過ぎて、本来の話を忘れていた沢崎直だったが、師匠が仕切り直してくれたおかげで、そのことを思い出した。
師匠は咳払いを一つでようやく自分のペースを取り戻す。
「で、こっからは俺の推測も交えての話になるんだがな。」
二人の弟子の顔をしっかりと見据え、更に説明を続けていく。
「もしかしたら、その、森の中でワイルドベアーと遭遇した時に何かあったのかもしれん。まあ、何があったのかは皆目見当もつかんが……。少なくとも、この新しい力と関係がないとは言えん。」
師匠の説明をヴィルが検討し始める。酒の箱をその場に置き、顎に片手を添え、その美しい眉を寄せる。
考え事をする顔すら美しい推しに、沢崎直は話の展開も忘れて魅入っていた。
ヴィルの考えが纏まるのを待たず、師匠は畳み掛けるように続ける。
「こんな技も魔法も見たことがない。お前だって、そうだろ?ヴィル。」
尋ねられて、ヴィルは素直に頷く。
「はい。」
師匠は弟子の素直な返答に満足げに頷く。
そして、とっておきのことを話すぞという雰囲気を醸し出し始めた。
「ああ、そうだな。……そこで、俺は考えた。これは、もしかしたら『天啓』なのではないかと!」
「………天啓。」
師匠の言葉に、ヴィルは衝撃を受けていた。
反対に、師匠の言葉に沢崎直は意味が分からず混迷を深めていた。
二人の弟子の反応を気にせずに、師匠はこれからがクライマックスだと分かるくらいの声量で、演説するように続けた。
「もしも、これが武術の神の齎した『天啓』であるとするならば、アル坊が今まで見たこともない力を見せてもおかしくない。いや、むしろそうでなければ説明が付かんことが多すぎるだろ?不自然に倒されたワイルドベアー。齎された新しい力。記憶喪失。」
(あっ、そういう切り口かぁ。)
ようやく沢崎直は師匠のしたいことを理解し始めた。よく分からないことが起きて、そのせいでよく分からん力があるとヴィルを丸め込めばいいと師匠は思ったようだ。
(……でも、そんな上手くいくかな?天啓って言われても、そんなに簡単に信じられないよね?)
そう懐疑的な見解を持ち、沢崎直がヴィルの様子を窺う。
果たして、ヴィルは……。
「……。天啓。」
(………信じとる。ヴィルさん、がっつり信じとる。)
ヴィルは師匠の与太話を半ば本気で信じているようで、純粋な驚きと感銘を見せていた。
ヴィルの様子に満足する師匠。
「天啓を得るほどの力ならば、その代償で少々の記憶が抜け落ちてしまうことは考えられる。それがアル坊に起きたことだと、俺はそう結論付けたわけだ。」
「………はい。」
ヴィルは万感の思いで師匠の言葉に頷いた。
あまりにも純真なヴィルに、沢崎直は心配になった。
それと同時に、そんな与太話で純真なヴィルを騙さなくてはならない事態に、心苦しさを感じていた。
それでも真実を話すことはできない。
師匠は沢崎直が披露できない真実を隠す手伝いをしてくれただけなのだ。
……もちろん、どれだけノリノリに見えても、である。
純真なヴィルは、こうしていつも師匠に騙されてきたのだなぁ、沢崎直はこの二人の師弟の関係を改めてしみじみと感じていた。
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