143 / 187
第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!58『師匠の与太話』
しおりを挟む
五十八
「と、とにかくだ。どうも、アル坊は失踪してた間に、こんな力を身に着けていたようだってことだ。ヴィル、分かったか?」
師匠はぐだぐだになったその場を仕切り直すように、ヴィルに向けて話しかけた。
ヴィルはまだ何が何だか分からないようで、箱を持ったまま師匠と主人を交互に見比べていた。
名前のダサさが気になり過ぎて、本来の話を忘れていた沢崎直だったが、師匠が仕切り直してくれたおかげで、そのことを思い出した。
師匠は咳払いを一つでようやく自分のペースを取り戻す。
「で、こっからは俺の推測も交えての話になるんだがな。」
二人の弟子の顔をしっかりと見据え、更に説明を続けていく。
「もしかしたら、その、森の中でワイルドベアーと遭遇した時に何かあったのかもしれん。まあ、何があったのかは皆目見当もつかんが……。少なくとも、この新しい力と関係がないとは言えん。」
師匠の説明をヴィルが検討し始める。酒の箱をその場に置き、顎に片手を添え、その美しい眉を寄せる。
考え事をする顔すら美しい推しに、沢崎直は話の展開も忘れて魅入っていた。
ヴィルの考えが纏まるのを待たず、師匠は畳み掛けるように続ける。
「こんな技も魔法も見たことがない。お前だって、そうだろ?ヴィル。」
尋ねられて、ヴィルは素直に頷く。
「はい。」
師匠は弟子の素直な返答に満足げに頷く。
そして、とっておきのことを話すぞという雰囲気を醸し出し始めた。
「ああ、そうだな。……そこで、俺は考えた。これは、もしかしたら『天啓』なのではないかと!」
「………天啓。」
師匠の言葉に、ヴィルは衝撃を受けていた。
反対に、師匠の言葉に沢崎直は意味が分からず混迷を深めていた。
二人の弟子の反応を気にせずに、師匠はこれからがクライマックスだと分かるくらいの声量で、演説するように続けた。
「もしも、これが武術の神の齎した『天啓』であるとするならば、アル坊が今まで見たこともない力を見せてもおかしくない。いや、むしろそうでなければ説明が付かんことが多すぎるだろ?不自然に倒されたワイルドベアー。齎された新しい力。記憶喪失。」
(あっ、そういう切り口かぁ。)
ようやく沢崎直は師匠のしたいことを理解し始めた。よく分からないことが起きて、そのせいでよく分からん力があるとヴィルを丸め込めばいいと師匠は思ったようだ。
(……でも、そんな上手くいくかな?天啓って言われても、そんなに簡単に信じられないよね?)
そう懐疑的な見解を持ち、沢崎直がヴィルの様子を窺う。
果たして、ヴィルは……。
「……。天啓。」
(………信じとる。ヴィルさん、がっつり信じとる。)
ヴィルは師匠の与太話を半ば本気で信じているようで、純粋な驚きと感銘を見せていた。
ヴィルの様子に満足する師匠。
「天啓を得るほどの力ならば、その代償で少々の記憶が抜け落ちてしまうことは考えられる。それがアル坊に起きたことだと、俺はそう結論付けたわけだ。」
「………はい。」
ヴィルは万感の思いで師匠の言葉に頷いた。
あまりにも純真なヴィルに、沢崎直は心配になった。
それと同時に、そんな与太話で純真なヴィルを騙さなくてはならない事態に、心苦しさを感じていた。
それでも真実を話すことはできない。
師匠は沢崎直が披露できない真実を隠す手伝いをしてくれただけなのだ。
……もちろん、どれだけノリノリに見えても、である。
純真なヴィルは、こうしていつも師匠に騙されてきたのだなぁ、沢崎直はこの二人の師弟の関係を改めてしみじみと感じていた。
「と、とにかくだ。どうも、アル坊は失踪してた間に、こんな力を身に着けていたようだってことだ。ヴィル、分かったか?」
師匠はぐだぐだになったその場を仕切り直すように、ヴィルに向けて話しかけた。
ヴィルはまだ何が何だか分からないようで、箱を持ったまま師匠と主人を交互に見比べていた。
名前のダサさが気になり過ぎて、本来の話を忘れていた沢崎直だったが、師匠が仕切り直してくれたおかげで、そのことを思い出した。
師匠は咳払いを一つでようやく自分のペースを取り戻す。
「で、こっからは俺の推測も交えての話になるんだがな。」
二人の弟子の顔をしっかりと見据え、更に説明を続けていく。
「もしかしたら、その、森の中でワイルドベアーと遭遇した時に何かあったのかもしれん。まあ、何があったのかは皆目見当もつかんが……。少なくとも、この新しい力と関係がないとは言えん。」
師匠の説明をヴィルが検討し始める。酒の箱をその場に置き、顎に片手を添え、その美しい眉を寄せる。
考え事をする顔すら美しい推しに、沢崎直は話の展開も忘れて魅入っていた。
ヴィルの考えが纏まるのを待たず、師匠は畳み掛けるように続ける。
「こんな技も魔法も見たことがない。お前だって、そうだろ?ヴィル。」
尋ねられて、ヴィルは素直に頷く。
「はい。」
師匠は弟子の素直な返答に満足げに頷く。
そして、とっておきのことを話すぞという雰囲気を醸し出し始めた。
「ああ、そうだな。……そこで、俺は考えた。これは、もしかしたら『天啓』なのではないかと!」
「………天啓。」
師匠の言葉に、ヴィルは衝撃を受けていた。
反対に、師匠の言葉に沢崎直は意味が分からず混迷を深めていた。
二人の弟子の反応を気にせずに、師匠はこれからがクライマックスだと分かるくらいの声量で、演説するように続けた。
「もしも、これが武術の神の齎した『天啓』であるとするならば、アル坊が今まで見たこともない力を見せてもおかしくない。いや、むしろそうでなければ説明が付かんことが多すぎるだろ?不自然に倒されたワイルドベアー。齎された新しい力。記憶喪失。」
(あっ、そういう切り口かぁ。)
ようやく沢崎直は師匠のしたいことを理解し始めた。よく分からないことが起きて、そのせいでよく分からん力があるとヴィルを丸め込めばいいと師匠は思ったようだ。
(……でも、そんな上手くいくかな?天啓って言われても、そんなに簡単に信じられないよね?)
そう懐疑的な見解を持ち、沢崎直がヴィルの様子を窺う。
果たして、ヴィルは……。
「……。天啓。」
(………信じとる。ヴィルさん、がっつり信じとる。)
ヴィルは師匠の与太話を半ば本気で信じているようで、純粋な驚きと感銘を見せていた。
ヴィルの様子に満足する師匠。
「天啓を得るほどの力ならば、その代償で少々の記憶が抜け落ちてしまうことは考えられる。それがアル坊に起きたことだと、俺はそう結論付けたわけだ。」
「………はい。」
ヴィルは万感の思いで師匠の言葉に頷いた。
あまりにも純真なヴィルに、沢崎直は心配になった。
それと同時に、そんな与太話で純真なヴィルを騙さなくてはならない事態に、心苦しさを感じていた。
それでも真実を話すことはできない。
師匠は沢崎直が披露できない真実を隠す手伝いをしてくれただけなのだ。
……もちろん、どれだけノリノリに見えても、である。
純真なヴィルは、こうしていつも師匠に騙されてきたのだなぁ、沢崎直はこの二人の師弟の関係を改めてしみじみと感じていた。
32
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

私、のんびり暮らしたいんです!
クロウ
ファンタジー
神様の手違いで死んだ少女は、異世界のとある村で転生した。
神様から貰ったスキルで今世はのんびりと過ごすんだ!
しかし番を探しに訪れた第2王子に、番認定をされて……。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転移~治癒師の日常
コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が…
こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします
なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18)
すいません少し並びを変えております。(2017/12/25)
カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15)
エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

ご飯を食べて異世界に行こう
compo
ライト文芸
会社が潰れた…
僅かばかりの退職金を貰ったけど、独身寮を追い出される事になった僕は、貯金と失業手当を片手に新たな旅に出る事にしよう。
僕には生まれつき、物理的にあり得ない異能を身につけている。
異能を持って、旅する先は…。
「異世界」じゃないよ。
日本だよ。日本には変わりないよ。

異世界生活物語
花屋の息子
ファンタジー
目が覚めると、そこはとんでもなく時代遅れな異世界だった。転生のお約束である魔力修行どころか何も出来ない赤ちゃん時代には、流石に凹んだりもしたが俺はめげない。なんて言っても、魔法と言う素敵なファンタジーの産物がある世界なのだから・・・知っている魔法に比べると低出力なきもするが。
そんな魔法だけでどうにかなるのか???
地球での生活をしていたはずの俺は異世界転生を果たしていた。転生したオジ兄ちゃんの異世界における心機一転頑張ります的ストーリー

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる