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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!56『師匠の気遣い』
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五十六
「アイツに運ばせときゃいい。」
「で、でも。」
師匠の言いつけを破っても手伝う気満々の沢崎直に、師匠は大人の男としての気遣いを見せた。
「アイツも負けて情けないとこをお前さんに見られて、少々気分も悪いだろうから。少しそっとしといてやれ。運んでる内に気も晴れてくるだろ。」
「師匠……。」
師匠の本当は弟子を思っている素敵な優しさに沢崎直は感銘を受けた。
だが、感銘を受けながらも、一つだけ沢崎直は師匠の言葉を訂正する。
「でも、全然情けなくなんかないですよ。師匠のあれだけの技が見れるのは、相手がヴィルさんだからでしょう?相手がちゃんと強いから、師匠も心置きなく力が見せられる。そうですよね?」
笑顔でそう尋ねてくる弟子に、師匠は少しだけ驚いて頭を掻いた。
「何だよ、そりゃ。」
「ふふふふ。師匠だって、本当はヴィルさんが頑張ってるのも、弟子として優秀なのも分かってるんですよね?」
沢崎直の言葉に、師匠もつられて笑ってしまう。
「お前さんにゃ敵わねえな。アイツには言うなよ?アイツは、ああやって闘争心をかき立ててやった方がいいんだ。」
「はい、了解です。師弟愛ですね?」
ヴィルが黙々と酒を運ぶ間、師匠と沢崎直の間で朗らかな密談が繰り広げられる。
二人は共犯のように悪戯な微笑みで笑い合った。
「まあ、俺が強すぎるってのは事実としてあるけどな。ヴィル程度じゃ、まだまだ師匠の俺には遠く及ばねぇ。」
師匠として、うんうんと頷きながら、一応付け足すのも忘れない。
こういう可愛らしいところも師匠の魅力の一つだと、沢崎直は思った。
「私じゃ、師匠とあんなふうな勝負すらできませんから。羨ましいです。」
沢崎直は天賦の才を持つ二人に心からの憧れを持った。モブ女には望むべくもないモノはあまりにも眩しくて遠すぎて、悔しさすら感じない。
だが、師匠はそんな殊勝な弟子の言葉を否定した。
「何言ってんだ?お前の魔法は鍛え上げれば、かなりのもんになるぞ。少なくとも、俺はそう思う。」
しかし、そんな師匠の言葉を今度は弟子が否定した。
「いや、無理ですよ。だって、私ですよ?師匠が優しいのは分かりますし、気を遣って慰めてくださるのは有り難いですけど。大丈夫なんで、私。」
きっぱりと言い切る弟子。
(何せ、へっぽこ剣法のモブ女なんで。……空手だって、子供の手習いレベルですし。)
師匠にこれ以上気を遣わせては悪いので、言葉の続きは心の中でだけ披露した。
「いや、そんなことはないぞ。」
しかし、師匠は尚も言い募ろうとする。
それを沢崎直は、まあまあと宥めた。
そんな二人の密談の中、ヴィルの作業は続く。
優秀な従者でもあるヴィルは、ただ黙々と仕事をこなし、大した時間もかからず酒の箱の運搬を終えようとしていた。
密談も終わったことで、酒が室内に運ばれていくことに満足げに師匠は頷く。
最後の箱をヴィルが持ち上げた頃、師匠が歩き出したその背中に声を掛けた。
「そういやぁな、ヴィル。」
ヴィルは師匠の言葉を無視して通り過ぎようとする。
師匠は弟子のそんな態度も気にせずに続けた。
「アル坊の記憶喪失について、もしかしたら分かったかもしれんぞ。」
「は?」
主人であるアルバートの名を出されては、忠実勤勉な従者であるヴィルが無視できるわけがない。その上、師匠が持ち出したのは、喫緊の懸案事項である事柄だ。
ヴィルは酒の箱を持ったまま立ち止まった。
射抜くように師匠を睨むと、視線だけで先を促す。
ふざけた内容だったら許さないと視線だけで暗に伝えてくる主人・命の弟子に、師匠は呆れて笑いながらも先を聞かせてやることにした。
「アイツに運ばせときゃいい。」
「で、でも。」
師匠の言いつけを破っても手伝う気満々の沢崎直に、師匠は大人の男としての気遣いを見せた。
「アイツも負けて情けないとこをお前さんに見られて、少々気分も悪いだろうから。少しそっとしといてやれ。運んでる内に気も晴れてくるだろ。」
「師匠……。」
師匠の本当は弟子を思っている素敵な優しさに沢崎直は感銘を受けた。
だが、感銘を受けながらも、一つだけ沢崎直は師匠の言葉を訂正する。
「でも、全然情けなくなんかないですよ。師匠のあれだけの技が見れるのは、相手がヴィルさんだからでしょう?相手がちゃんと強いから、師匠も心置きなく力が見せられる。そうですよね?」
笑顔でそう尋ねてくる弟子に、師匠は少しだけ驚いて頭を掻いた。
「何だよ、そりゃ。」
「ふふふふ。師匠だって、本当はヴィルさんが頑張ってるのも、弟子として優秀なのも分かってるんですよね?」
沢崎直の言葉に、師匠もつられて笑ってしまう。
「お前さんにゃ敵わねえな。アイツには言うなよ?アイツは、ああやって闘争心をかき立ててやった方がいいんだ。」
「はい、了解です。師弟愛ですね?」
ヴィルが黙々と酒を運ぶ間、師匠と沢崎直の間で朗らかな密談が繰り広げられる。
二人は共犯のように悪戯な微笑みで笑い合った。
「まあ、俺が強すぎるってのは事実としてあるけどな。ヴィル程度じゃ、まだまだ師匠の俺には遠く及ばねぇ。」
師匠として、うんうんと頷きながら、一応付け足すのも忘れない。
こういう可愛らしいところも師匠の魅力の一つだと、沢崎直は思った。
「私じゃ、師匠とあんなふうな勝負すらできませんから。羨ましいです。」
沢崎直は天賦の才を持つ二人に心からの憧れを持った。モブ女には望むべくもないモノはあまりにも眩しくて遠すぎて、悔しさすら感じない。
だが、師匠はそんな殊勝な弟子の言葉を否定した。
「何言ってんだ?お前の魔法は鍛え上げれば、かなりのもんになるぞ。少なくとも、俺はそう思う。」
しかし、そんな師匠の言葉を今度は弟子が否定した。
「いや、無理ですよ。だって、私ですよ?師匠が優しいのは分かりますし、気を遣って慰めてくださるのは有り難いですけど。大丈夫なんで、私。」
きっぱりと言い切る弟子。
(何せ、へっぽこ剣法のモブ女なんで。……空手だって、子供の手習いレベルですし。)
師匠にこれ以上気を遣わせては悪いので、言葉の続きは心の中でだけ披露した。
「いや、そんなことはないぞ。」
しかし、師匠は尚も言い募ろうとする。
それを沢崎直は、まあまあと宥めた。
そんな二人の密談の中、ヴィルの作業は続く。
優秀な従者でもあるヴィルは、ただ黙々と仕事をこなし、大した時間もかからず酒の箱の運搬を終えようとしていた。
密談も終わったことで、酒が室内に運ばれていくことに満足げに師匠は頷く。
最後の箱をヴィルが持ち上げた頃、師匠が歩き出したその背中に声を掛けた。
「そういやぁな、ヴィル。」
ヴィルは師匠の言葉を無視して通り過ぎようとする。
師匠は弟子のそんな態度も気にせずに続けた。
「アル坊の記憶喪失について、もしかしたら分かったかもしれんぞ。」
「は?」
主人であるアルバートの名を出されては、忠実勤勉な従者であるヴィルが無視できるわけがない。その上、師匠が持ち出したのは、喫緊の懸案事項である事柄だ。
ヴィルは酒の箱を持ったまま立ち止まった。
射抜くように師匠を睨むと、視線だけで先を促す。
ふざけた内容だったら許さないと視線だけで暗に伝えてくる主人・命の弟子に、師匠は呆れて笑いながらも先を聞かせてやることにした。
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