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第二部

第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!54『降り積もったもろもろ』

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      五十四

(……あわわわわわわわわわわわ。)
 脳内には意味をなさない文字列が形成されていく。
 そんなモブ女の心中も知らず、ヴィルは沢崎直の手を握ったまま師匠を睨みつけた。
「師匠!これほど純真なアルバート様をこんなふうに扱って、恥ずかしくないのですか?良心が痛みませんか?」
(……あわわわわわわわわわわわわわわわわ。)
 目を白黒させていた沢崎直は、本当なら冷静に事の推移を見守ろうとしていたが、間近に迫る推しの魅力のせいで上手くいっていなかった。
(……手、てててててててててててて。)
「師匠!貴方は一時は騎士団の団長にまで上り詰めておいて、現在は酒浸りの生活ばかりで自らを恥じることすら忘れてしまったのですか?昼まで酔っぱらって寝ていたのだから、少しくらい動いたらどうです?ご自分の酒くらいご自分で運ぶことも出来ないのですか?身体が鈍って、さらに零落れることになりますよ?」
 ヴィルは師匠に挑発的な言葉を威勢よく吐く。
 師匠はヴィルの言葉に片眉を上げて反応すると、好戦的な笑みを浮かべた。
「ふっ。俺に勝ったこともないガキが何言ってやがる?」
 余裕綽々といった態度で、師匠はヴィルの挑発を受けて立つように笑う。
 師匠の言葉にヴィルの瞳が細くなる。
「以前までの俺と同じだとは思わないことですね……。少なくとも、酒浸りの年寄りよりは成長していますよ。」
 どうやらヴィルは、本日のもろもろを腹に据えかねていたらしい。いや、ヴィルの中では本日のもろもろだけでなく、積年のもろもろの方も積もり積もっていたようだ。
 師匠は弟子の生意気な態度に鷹揚に構えると、好戦的な笑みのままゆっくりと頷く。
「いいぜ。丁度いい機会だ。弟子の著しい成長とやらを確かめてやるよ。」
 そして、師匠は先程片づけた木剣をすぐさま取りに戻る。
 二本持った木剣の片方をヴィルに放り投げ、笑みを浮かべたまま告げた。
「いいか?負けた方が酒を運ぶ。それでいいな?」
「もちろんです!」
 沢崎直から少し距離を取った場所で、二人は互いを睨み対峙する。
 ようやく自由になった手を少しだけ寂しく思いながらも、急に目の前で始まった『超絶イケメン従者・ヴィルvsちょい悪イケおじ師匠ゲオルグ』という好カードの対戦に、格闘技好きモブ女・沢崎直の胸は期待で熱くなるのだった。
 木剣を構えた二人の師弟の対決。
 それも、二人ともタイプは違えど、最高級にいい男たちだ。
 そんな二人の対決を特等席で見守れるなど、沢崎直は突然の幸運に胸を高鳴らせる。
「始め!」
 何だか試合の審判の気持ちになり、沢崎直は二人に掛け声をかけた。
 二人はそれぞれ沢崎直の掛け声を合図にして動き出す。
 こうして二人の男の戦いに火ぶたが切って落とされたのだった。
 
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