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第二部

第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!53『衝突、再び』

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      五十三

「よし、ヴィル。酒を中に運び入れろ。」
 師匠が手土産の酒にご満悦の様子でヴィルに命じる。
 だが、ヴィルはそんな師匠を嘲笑するように鼻で笑った。
「ご自分でどうぞ。」
「……てめぇ、師匠を何だと思ってやがる。」
 低く唸りながら、弟子の態度を叱責する師匠。
 しかし、ヴィルは肩を竦めて呆れて見せた。
「そう仰るのでしたら、せめて、師匠として尊敬できる存在になっていただきたいですね。」
「何言ってんだ?お前。師匠の俺を尊敬しないのは、そうしないお前に問題があるんだろ?」
 師匠の方も大袈裟に嘆いて見せる。
 師匠の言葉にヴィルがやれやれといった様子で、首を振った。
 そんなヴィルに師匠は大げさにため息を吐いて続ける。
「はあ。お前はいつもそうだな、ヴィル。だが、アル坊は違うぞ。アル坊は、俺のことを師匠としてちゃんと尊敬してるぞ。なあ、アル坊?」
 ヴィルと会話していた師匠は、急に沢崎直に話題を振って来た。
 沢崎直は、師匠からの急なご指名と、先程まで『ナオ』と呼んでいた師匠が『アル坊』と呼びかけてきたという二重の事象に驚いて、びくっと反応した。
「……そ、尊敬しています!」
 少しだけ妙な間が開いて反射的に答えたせいで、パワハラで言わされている感じに聞こえなくもない何とも言えない返事になった。
 そんな沢崎直の返事に、師匠は満足せず、ヴィルは不信感を抱いた。
 沢崎直は、意図しないふうに伝わってしまった自分の言葉を慌てて否定した。
「ち、違います!急に聞かれたので驚いただけです。師匠の事は凄いと思ってます。それに、弟子として師匠を尊敬しています。本当です。」
 必死に言葉を重ねても、ヴィルは信じて納得してくれない。
 反対に師匠は沢崎直の素直な称賛に、さもありなんと頷いた。
「ほら、どうだ?ヴィルとは違って、アル坊は素直で可愛いヤツだからな。」
「大方、師匠が何も知らないアルバート様を丸め込んで、そう言わせたのでしょう?ですが、アルバート様の聡明さを持ってすれば真実などすぐに気づかれます。それでもお優しいアルバート様が気を遣ってそう言ってくださっているのも、師匠はお分かりにならないのですか?」
 皮肉げにヴィルは師匠を睥睨すると、もはや嘲り罵るように告げた。
 師匠は心外だと言わんばかりの表情で、ヴィルではなく沢崎直に語りかけた。
「こいつはすぐこれだ。弟子としての態度が全くなっちゃいない。いいか?アル坊。こんなふうになっちゃだめだぞ。」
 今度は素直に返事のしにくい言葉を掛けられ、沢崎直は戸惑った。
「えっ、えっと……。」
 またしても、二人の男の間でモブ女があわあわする構図が出来上がりそうだった。
 だが、沢崎直は平均的な能力のモブ女であるとはいえ、全く学習しないわけではない。なので、二人の間で板挟みになる前に手を上げて提案することにした。
「は、はい!わ、私、運びます!」
 二人が揉めているのは新たに買ってきた手土産の酒をどうするかという問題なので、問題の方を片づけてしまえば双方の間でまごまごすることはなくなるのじゃないかと、沢崎直は結論付けた。そのためには自分が運んでしまえばいい。そう思って、沢崎直が動き出そうとする。
 しかし、二人の男の長年続いた争いは、そんなモブ女の浅知恵如きでは解決できるはずもなかった。
「アルバート様。そのようなことをなさらずともいいのですよ。」
 歩き始めようとした沢崎直の進行方向に素早く移動したヴィルは、沢崎直の手を取ってそっと微笑みかけてくる。
「………。」
 突然間近に迫ってきた推しの微笑みに、沢崎直は息をすることすら忘れた。
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