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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㊾『不器用な弟子、師匠の展望』
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四十九
それから師匠に付き合って、沢崎直に分かったことは自分の融通の利かない不器用さだけである。
結論から言うと、魔法は全く前に飛ばなかった。
身体から離れることはなかった。
その上、魔法の種類を自在に使い分けることも難しかった。
正拳突きで出せる魔法は炎。
踵落としで出せる魔法は雷。
回し蹴りは風。
優しい気持ちで撫でてみたら、回復魔法も少し使えた。
だが、それだけである。
空手の技に対応するのはその魔法だけで、他の系統の魔法を出そうとしても全く無理だった。それだけでなく、威力をコントロールするのも難しかった。技の威力を調節すれば、魔法の威力を調節できるかと思ったが、それは無理だった。そもそも裂帛の気合いと共に全力で技を繰り出す時にだけ、魔法は発動したのだ。
何故、そうなるのか沢崎直自身にも理屈が全く理解できなかったが、沢崎直というモブ女の不器用さがそうさせるのかもしれなかった。
魔法一つとってもままならない状況に、沢崎直は落ち込む。
しかし、師匠は反対に、沢崎直が別の世界からもたらした空手という武術に付随するような新しい魔法の切り口に大いに満足しているようだった。
「多分、あれじゃねぇか?その技に対してのお前さんの中でのイメージが魔法として顕現してんだ、きっと。魔法ってのは、イメージが大切だからな。」
沢崎直の技を目の前で思う存分楽しんだ師匠は、ご満悦な様子で推論を重ねていく。
「まあ、前に飛ばねぇくらい何だ。あの威力で敵に打ち込んだらひとたまりもねぇよ。」
師匠はそう言うが、魔法というのは本来飛び道具であり、そこにこそアドバンテージがあるのではないだろうか?沢崎直にとっては、その事実が気になって仕方がなかった。
「……でも、近づかなきゃ当たりませんよね?向こうが隙を見せてくれなかったり、そもそも近づかせてくれなかったら意味ないですよね?」
少しいじけながら師匠に質問する。
師匠はそれでも沢崎直の齎した新たな可能性に希望を感じているようだった。
「その辺は、これから考えりゃあいいことだろ?」
重たい気分の沢崎直の両肩に手を置いて、師匠はしっかりと目を見つめる。
「よし、ナオ。その技で、俺と新たな武術をつくろう。そんで、始祖としてこの世界に、新たな魔法の可能性を見せつけてやろうぜ。」
師匠の瞳はこれからやって来る未来を見据えてキラキラと輝いていた。
そんな未来を信じられない沢崎直は、視線を落として口を尖らせた。
「無理ですよ、そんなの。師匠が一人でやってください。遠いところで私は応援します。」
投げやりに師匠の提案を突き放す弟子。
そこで、師匠は説得方法を変えることにした。
「何言ってんだ?ナオ。考えても見ろ。この武術が確立されれば、いいこと尽くめだぞ?」
未来の希望を共に見られず、武術としての好奇心も刺激できないならと、師匠は目の前の弟子に現実的なメリットを教える作戦に出た。
沢崎直はあまり期待はしなかったが、一応拝聴することにした。
「何です?それ。」
やる気はないが、師匠に相槌を打つ。
師匠は弟子の興味を引くような話題選びを心掛けて続けた。
「例えばだが、この武術があれば、剣の腕は大していらねぇんじゃないか?お前さん、言ったよな?空手には、剣に対抗する技があるって。だったら、剣はなくても大丈夫だろ?」
剣の師匠とは思えない言葉だったが、弟子は呆れたりしなかった。それどころか、少しだけ師匠の話に興味が湧いたようだ。
師匠は勢いを得て、更に続ける。
「まあ、こっちも例えばの話なんだが……。」
わざとらしいくらい間を取って、師匠は前置きする。
とっておきのことを聞かせてもらえるのかもしれないと、沢崎直の心に少しだけ期待が芽生えた。もちろん、がっかりしたくないので、期待し過ぎてはいけないと自分を戒めるのも忘れない。
「俺と新しい武術を確立する旅に出たとしたら……。いつ帰ることが出来るか分からねぇからな……、結婚どころじゃねぇよな?」
「……。」
(…何じゃ、その屁理屈……。最高かよ!)
沢崎直はずるい大人の男が繰り出したとっておきの屁理屈に、目を輝かせて喜んだ。
それから師匠に付き合って、沢崎直に分かったことは自分の融通の利かない不器用さだけである。
結論から言うと、魔法は全く前に飛ばなかった。
身体から離れることはなかった。
その上、魔法の種類を自在に使い分けることも難しかった。
正拳突きで出せる魔法は炎。
踵落としで出せる魔法は雷。
回し蹴りは風。
優しい気持ちで撫でてみたら、回復魔法も少し使えた。
だが、それだけである。
空手の技に対応するのはその魔法だけで、他の系統の魔法を出そうとしても全く無理だった。それだけでなく、威力をコントロールするのも難しかった。技の威力を調節すれば、魔法の威力を調節できるかと思ったが、それは無理だった。そもそも裂帛の気合いと共に全力で技を繰り出す時にだけ、魔法は発動したのだ。
何故、そうなるのか沢崎直自身にも理屈が全く理解できなかったが、沢崎直というモブ女の不器用さがそうさせるのかもしれなかった。
魔法一つとってもままならない状況に、沢崎直は落ち込む。
しかし、師匠は反対に、沢崎直が別の世界からもたらした空手という武術に付随するような新しい魔法の切り口に大いに満足しているようだった。
「多分、あれじゃねぇか?その技に対してのお前さんの中でのイメージが魔法として顕現してんだ、きっと。魔法ってのは、イメージが大切だからな。」
沢崎直の技を目の前で思う存分楽しんだ師匠は、ご満悦な様子で推論を重ねていく。
「まあ、前に飛ばねぇくらい何だ。あの威力で敵に打ち込んだらひとたまりもねぇよ。」
師匠はそう言うが、魔法というのは本来飛び道具であり、そこにこそアドバンテージがあるのではないだろうか?沢崎直にとっては、その事実が気になって仕方がなかった。
「……でも、近づかなきゃ当たりませんよね?向こうが隙を見せてくれなかったり、そもそも近づかせてくれなかったら意味ないですよね?」
少しいじけながら師匠に質問する。
師匠はそれでも沢崎直の齎した新たな可能性に希望を感じているようだった。
「その辺は、これから考えりゃあいいことだろ?」
重たい気分の沢崎直の両肩に手を置いて、師匠はしっかりと目を見つめる。
「よし、ナオ。その技で、俺と新たな武術をつくろう。そんで、始祖としてこの世界に、新たな魔法の可能性を見せつけてやろうぜ。」
師匠の瞳はこれからやって来る未来を見据えてキラキラと輝いていた。
そんな未来を信じられない沢崎直は、視線を落として口を尖らせた。
「無理ですよ、そんなの。師匠が一人でやってください。遠いところで私は応援します。」
投げやりに師匠の提案を突き放す弟子。
そこで、師匠は説得方法を変えることにした。
「何言ってんだ?ナオ。考えても見ろ。この武術が確立されれば、いいこと尽くめだぞ?」
未来の希望を共に見られず、武術としての好奇心も刺激できないならと、師匠は目の前の弟子に現実的なメリットを教える作戦に出た。
沢崎直はあまり期待はしなかったが、一応拝聴することにした。
「何です?それ。」
やる気はないが、師匠に相槌を打つ。
師匠は弟子の興味を引くような話題選びを心掛けて続けた。
「例えばだが、この武術があれば、剣の腕は大していらねぇんじゃないか?お前さん、言ったよな?空手には、剣に対抗する技があるって。だったら、剣はなくても大丈夫だろ?」
剣の師匠とは思えない言葉だったが、弟子は呆れたりしなかった。それどころか、少しだけ師匠の話に興味が湧いたようだ。
師匠は勢いを得て、更に続ける。
「まあ、こっちも例えばの話なんだが……。」
わざとらしいくらい間を取って、師匠は前置きする。
とっておきのことを聞かせてもらえるのかもしれないと、沢崎直の心に少しだけ期待が芽生えた。もちろん、がっかりしたくないので、期待し過ぎてはいけないと自分を戒めるのも忘れない。
「俺と新しい武術を確立する旅に出たとしたら……。いつ帰ることが出来るか分からねぇからな……、結婚どころじゃねぇよな?」
「……。」
(…何じゃ、その屁理屈……。最高かよ!)
沢崎直はずるい大人の男が繰り出したとっておきの屁理屈に、目を輝かせて喜んだ。
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