132 / 187
第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㊼『師匠はノリノリ』
しおりを挟む
四十七
「押忍!」
掛け声とともに魔法が放たれる。
二度目は一度目の時よりもスムーズに魔法は発現した。
だが、結局、結果は同じである。
先程の再放送のように、一連の出来事は繰り返された。
拳が炎を纏い、飛ばないことに驚いた沢崎直が慌てて炎を吹き消す。
先程と変わったことといえば、的が近くなったことと一連の出来事がスムーズに行われたことだけだ。
「ははははは。」
師匠は笑い出した。
沢崎直は泣きたくなった。
(……やっぱり魔法も上手にできない。)
異世界に来てからというもの何をしても不甲斐なさを感じるばかりで、達成感などありはしない。少しもままならない現実に、いつまでも自信を打ち砕かれるばかりである。
火が消えた拳を握り締めて視線を落とした沢崎直。
ひとしきり笑い終えた師匠は、そんな沢崎直に優しい言葉を掛けるでもなく、もう一度指示を出した。
「よし!ナオ。もう一度やってみろ。」
既に落ち込んでいる弟子にあまりにスパルタな指導だと、文句を言いたくなった沢崎直が顔を上げるが、師匠は興味津々といった様子で瞳を輝かせていた。
「どうした?」
やる気十分の師匠に尋ねられて、沢崎直は弱々しい声で尋ねる。
「あのー、……出来が悪くてがっかりされてませんか?」
師匠は心外だとばかりに目を見開き、即座に沢崎直の言葉を否定した。
「何言ってんだ?そんなわけないだろ?全く理屈は分からねぇが、お前さんの魔法が面白ぇことは確実だぞ。こんなことは俺も初めてだ。もっと試させてくれ。」
師匠はノリノリだった。空手の話の時くらいのノリノリさだった。
(……うまく出来てないのに?)
素直に前にも飛んで行かない魔法の何がそんなに師匠の興味を引いたのかは分からない。だが、二回も想定通りの結果ではなかったというのに師匠に呆れられていないということは、少しだけ沢崎直の心に勇気を与えてくれた。
「いいか?次は、その的に直接、拳ごとぶつけてみろ。」
「はい。」
師匠に言われた通り、的の前まで歩を進める沢崎直。
だが、正拳突きを繰り出す前に、師匠に一応確認を取った。
「あ、あの、師匠。この的って、木で出来てるっぽいですけど、正拳突きで壊れたりしないですか?」
的の材質の強度を心配しての沢崎直の質問だったが、師匠は笑って頷いた。
「大丈夫だ。的は強化魔法で強化してある。ちょっとやそっとの攻撃じゃ壊れたりしねぇよ。でなけりゃ、練習の度に的を交換したりせにゃならんだろ?」
そういうもんかと、沢崎直も納得する。
沢崎直の世界でも、よく使うものは材質やコーティングなどの科学技術によって強度を高くしてあった。それがこちらの世界では魔法技術によってなされているのであろう。
壊す心配もなさそうなので、今度こそ沢崎直は的に向かって精神統一に入る。
次は、確実に的に当たるだろう。もちろん、正拳突きが。
何度か素振りのように、的に拳を軽く当ててみる。
確かに師匠の言うとおり、的は沢崎直の知る木材の強度ではなかった。
だが、そのおかげで他の事が心配になる。
(……これって、ぶつかったら痛いかも……?)
自分の拳であっても心配だが、自分のではないアルバート氏の拳であるなら、もっと心配である。
予備動作に入りながらも途中停止して、もう一度師匠に確認する。
「師匠。」
いつまで経っても打ち込まない沢崎直に、師匠が不思議そうな顔を浮かべる。
「どうした?」
沢崎直は思い切って思うまま素直に尋ねた。
「これ、当たったら痛くないですか?」
師匠は沢崎直の思ってもみなかった質問に、目をぱちぱちさせた。
沢崎直が答えを待つ中、師匠は少し考えながら口を開く。
「衝撃吸収効果もあるからな……、そこまで痛いとは思わんが……。何せ、俺も素手で直接殴ったことがないから、正直なところは分からんが……。」
そして、最後はとびっきりの笑顔で締めくくった。
「まあ、たとえ怪我しても、俺が治してやるから安心しろ!」
(師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。)
そういうことじゃないと、沢崎直は唇を噛み締めたまま心の中で絶叫した。
「押忍!」
掛け声とともに魔法が放たれる。
二度目は一度目の時よりもスムーズに魔法は発現した。
だが、結局、結果は同じである。
先程の再放送のように、一連の出来事は繰り返された。
拳が炎を纏い、飛ばないことに驚いた沢崎直が慌てて炎を吹き消す。
先程と変わったことといえば、的が近くなったことと一連の出来事がスムーズに行われたことだけだ。
「ははははは。」
師匠は笑い出した。
沢崎直は泣きたくなった。
(……やっぱり魔法も上手にできない。)
異世界に来てからというもの何をしても不甲斐なさを感じるばかりで、達成感などありはしない。少しもままならない現実に、いつまでも自信を打ち砕かれるばかりである。
火が消えた拳を握り締めて視線を落とした沢崎直。
ひとしきり笑い終えた師匠は、そんな沢崎直に優しい言葉を掛けるでもなく、もう一度指示を出した。
「よし!ナオ。もう一度やってみろ。」
既に落ち込んでいる弟子にあまりにスパルタな指導だと、文句を言いたくなった沢崎直が顔を上げるが、師匠は興味津々といった様子で瞳を輝かせていた。
「どうした?」
やる気十分の師匠に尋ねられて、沢崎直は弱々しい声で尋ねる。
「あのー、……出来が悪くてがっかりされてませんか?」
師匠は心外だとばかりに目を見開き、即座に沢崎直の言葉を否定した。
「何言ってんだ?そんなわけないだろ?全く理屈は分からねぇが、お前さんの魔法が面白ぇことは確実だぞ。こんなことは俺も初めてだ。もっと試させてくれ。」
師匠はノリノリだった。空手の話の時くらいのノリノリさだった。
(……うまく出来てないのに?)
素直に前にも飛んで行かない魔法の何がそんなに師匠の興味を引いたのかは分からない。だが、二回も想定通りの結果ではなかったというのに師匠に呆れられていないということは、少しだけ沢崎直の心に勇気を与えてくれた。
「いいか?次は、その的に直接、拳ごとぶつけてみろ。」
「はい。」
師匠に言われた通り、的の前まで歩を進める沢崎直。
だが、正拳突きを繰り出す前に、師匠に一応確認を取った。
「あ、あの、師匠。この的って、木で出来てるっぽいですけど、正拳突きで壊れたりしないですか?」
的の材質の強度を心配しての沢崎直の質問だったが、師匠は笑って頷いた。
「大丈夫だ。的は強化魔法で強化してある。ちょっとやそっとの攻撃じゃ壊れたりしねぇよ。でなけりゃ、練習の度に的を交換したりせにゃならんだろ?」
そういうもんかと、沢崎直も納得する。
沢崎直の世界でも、よく使うものは材質やコーティングなどの科学技術によって強度を高くしてあった。それがこちらの世界では魔法技術によってなされているのであろう。
壊す心配もなさそうなので、今度こそ沢崎直は的に向かって精神統一に入る。
次は、確実に的に当たるだろう。もちろん、正拳突きが。
何度か素振りのように、的に拳を軽く当ててみる。
確かに師匠の言うとおり、的は沢崎直の知る木材の強度ではなかった。
だが、そのおかげで他の事が心配になる。
(……これって、ぶつかったら痛いかも……?)
自分の拳であっても心配だが、自分のではないアルバート氏の拳であるなら、もっと心配である。
予備動作に入りながらも途中停止して、もう一度師匠に確認する。
「師匠。」
いつまで経っても打ち込まない沢崎直に、師匠が不思議そうな顔を浮かべる。
「どうした?」
沢崎直は思い切って思うまま素直に尋ねた。
「これ、当たったら痛くないですか?」
師匠は沢崎直の思ってもみなかった質問に、目をぱちぱちさせた。
沢崎直が答えを待つ中、師匠は少し考えながら口を開く。
「衝撃吸収効果もあるからな……、そこまで痛いとは思わんが……。何せ、俺も素手で直接殴ったことがないから、正直なところは分からんが……。」
そして、最後はとびっきりの笑顔で締めくくった。
「まあ、たとえ怪我しても、俺が治してやるから安心しろ!」
(師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。)
そういうことじゃないと、沢崎直は唇を噛み締めたまま心の中で絶叫した。
21
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説


【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。


異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。


ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる