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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㊸『アル坊』
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四十三
(……アルバート氏が、私の身体の中に?モブ女の?)
今まで貴族の御令息として蝶よ花よと大切に育てられてきたイケメンが、見たこともない現代の世界でモブ女として爆誕する。
地味な顔。温かい家庭と両親はいるが一人っ子。世間はモブ女に優しいとは言えず、だからといって取り立てて特別扱いはされない。
(……待って、そんなことより。『女』よ?……古風な貞操観念の男性が、大したことはないとはいえ、いきなり女の身体?こっちが男になったのだって驚いて、困ったことの連続だっていうのに……。)
イケメンとモブ女では存在の価値が等価交換なのかは分からないが、性別が入れ替わる大変さは誰よりも沢崎直は理解している。沢崎直は可憐なアルバート氏を思って青褪めた。
「……師匠。アルバート氏は、臨機応変に女性として生きていけるタイプですか?」
敢えて質問してみる。沢崎直はアルバートに直接会ったことはないが、今までたくさんのアルバートの知り合いにアルバートの話を聞いた感じから、無理そうなのは容易に想像できた。
師匠は大して考えることもなく、少し笑った。
「無理じゃねぇか?くっくっくっ。」
(……いや、笑っちゃったよ、師匠。)
すぐに師匠が無理だと笑ってしまうほどには、アルバートの適応能力はずば抜けていないのだろう。幼い頃からアルバートを知り、成長を見守ってきた師匠が言うのだから間違いはないと思われる。
師匠の見解と沢崎直の見解は一致していた。
しばらく笑った後、師匠は頭を掻いて続ける。
「まあ、アル坊は基本優秀なんだが、不器用なところはあるからな……。今頃、刺激的なお前さんの世界で思いつめてんじゃないか?」
「大丈夫でしょうか?」
全ては仮定の話だというのに、沢崎直は元の世界で暮らすことになったアルバートを想像して心配で堪らなくなった。
「大丈夫じゃねぇだろうけど。何とかやってくしかないんじゃねえの?まあ、アル坊はお坊ちゃんだからな。今回の事で人間的に成長できるといいなと師匠としては思うけどな。まあ、もしもの話だしな。気にすんな。」
師匠の持論はやっぱりワイルドで大雑把でたくましい。
師匠ならば異世界転生など簡単に乗り越えて、どの世界でも無双しそうだなと沢崎直は思った。
「……それにしても、ヴィルは遅ぇな。何やってんだ?」
自分で街に酒を買いに戻らせておいて、師匠は不満げに呟く。
沢崎直は、ちょっとヴィルが不憫に思えた。
遥か街道の先を見てもヴィルが馬車で帰ってくる気配が微塵もないので、師匠は改めて沢崎直に向き直った。
「おいナオ。まだ時間があるなら、とりあえず一度、魔法でもやっとくか?」
「えっ?」
あまりにも気軽な師匠の申し出に、沢崎直は理解が追い付いていかない。
(……えっ?魔法って言った?……師匠?)
自分の耳が聞き間違えた可能性も視野に入れ、恐る恐る尋ねてみる。
「あ、あのー。魔法ですか?」
「おう。嫌なら別にいいぞ。時間がありそうだから、さくっと基本くらい教えてやろうかと思っただけだ。」
(そんな、さくっとなんて……。)
現代に生きてきてファンタジー世界の魔法への憧れが強いモブ女は、思ってもみなかった突然の展開に理解も感情も追いついてこない。
それでも、反射的に沢崎直は大きな声で返事した。
「お願いします!」
「おう。」
師匠は実に気安く請け負った。
だが、注意事項も伝え忘れない。
「いいか?魔法ってのは、生まれ持ったもんが一番影響するからな。根性でどうにかなるもんでもねえ。使えなくても落ち込むな。」
生まれてこのかた特別な才能を天から授けられた覚えのないモブ女には厳しい意見ではあったが、それでも可能性が少しでもあるなら試してみたくもなる。
変に期待しすぎることなく、それでも少しの可能性に期待を寄せて、沢崎直は師匠の話に熱心に耳を傾けたのだった。
(……アルバート氏が、私の身体の中に?モブ女の?)
今まで貴族の御令息として蝶よ花よと大切に育てられてきたイケメンが、見たこともない現代の世界でモブ女として爆誕する。
地味な顔。温かい家庭と両親はいるが一人っ子。世間はモブ女に優しいとは言えず、だからといって取り立てて特別扱いはされない。
(……待って、そんなことより。『女』よ?……古風な貞操観念の男性が、大したことはないとはいえ、いきなり女の身体?こっちが男になったのだって驚いて、困ったことの連続だっていうのに……。)
イケメンとモブ女では存在の価値が等価交換なのかは分からないが、性別が入れ替わる大変さは誰よりも沢崎直は理解している。沢崎直は可憐なアルバート氏を思って青褪めた。
「……師匠。アルバート氏は、臨機応変に女性として生きていけるタイプですか?」
敢えて質問してみる。沢崎直はアルバートに直接会ったことはないが、今までたくさんのアルバートの知り合いにアルバートの話を聞いた感じから、無理そうなのは容易に想像できた。
師匠は大して考えることもなく、少し笑った。
「無理じゃねぇか?くっくっくっ。」
(……いや、笑っちゃったよ、師匠。)
すぐに師匠が無理だと笑ってしまうほどには、アルバートの適応能力はずば抜けていないのだろう。幼い頃からアルバートを知り、成長を見守ってきた師匠が言うのだから間違いはないと思われる。
師匠の見解と沢崎直の見解は一致していた。
しばらく笑った後、師匠は頭を掻いて続ける。
「まあ、アル坊は基本優秀なんだが、不器用なところはあるからな……。今頃、刺激的なお前さんの世界で思いつめてんじゃないか?」
「大丈夫でしょうか?」
全ては仮定の話だというのに、沢崎直は元の世界で暮らすことになったアルバートを想像して心配で堪らなくなった。
「大丈夫じゃねぇだろうけど。何とかやってくしかないんじゃねえの?まあ、アル坊はお坊ちゃんだからな。今回の事で人間的に成長できるといいなと師匠としては思うけどな。まあ、もしもの話だしな。気にすんな。」
師匠の持論はやっぱりワイルドで大雑把でたくましい。
師匠ならば異世界転生など簡単に乗り越えて、どの世界でも無双しそうだなと沢崎直は思った。
「……それにしても、ヴィルは遅ぇな。何やってんだ?」
自分で街に酒を買いに戻らせておいて、師匠は不満げに呟く。
沢崎直は、ちょっとヴィルが不憫に思えた。
遥か街道の先を見てもヴィルが馬車で帰ってくる気配が微塵もないので、師匠は改めて沢崎直に向き直った。
「おいナオ。まだ時間があるなら、とりあえず一度、魔法でもやっとくか?」
「えっ?」
あまりにも気軽な師匠の申し出に、沢崎直は理解が追い付いていかない。
(……えっ?魔法って言った?……師匠?)
自分の耳が聞き間違えた可能性も視野に入れ、恐る恐る尋ねてみる。
「あ、あのー。魔法ですか?」
「おう。嫌なら別にいいぞ。時間がありそうだから、さくっと基本くらい教えてやろうかと思っただけだ。」
(そんな、さくっとなんて……。)
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それでも、反射的に沢崎直は大きな声で返事した。
「お願いします!」
「おう。」
師匠は実に気安く請け負った。
だが、注意事項も伝え忘れない。
「いいか?魔法ってのは、生まれ持ったもんが一番影響するからな。根性でどうにかなるもんでもねえ。使えなくても落ち込むな。」
生まれてこのかた特別な才能を天から授けられた覚えのないモブ女には厳しい意見ではあったが、それでも可能性が少しでもあるなら試してみたくもなる。
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