転生したらついてましたァァァァァ!!!

夢追子

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第二部

第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㊵『戻れない過去』

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      四十

「お前が元いた世界ってのは、実に刺激的なんだな……。」
 たっぷりと時間を使って、師匠は唸るように万感の思いを込めてそう呟いた。
 じっくりと凝視してた地面に描いた絵を、沢崎直が足で消そうとすると、師匠は名残惜しそうに声を上げた。
「あっ、おい。」
「見てても、行けないと思いますよ。私も帰る方法があるなら、帰ってみたいですけど……。別世界を行き来する方法ってあります?」
 沢崎直がずっと気になっていたことだが、誰に聞いたらいいか分からなかったため心の中で一人抱えていた疑問を師匠にダメ元でぶつけてみる。
 師匠は大して考えることも無く首を振った。
「俺はこの世界で生きてきて、聞いたこともない。……あるとすれば神の奇蹟くらいのもんだ。」
 神の奇蹟。それは、きっとあり得ないこととほぼ同義なのだろう。
 師匠の言葉には希望を抱けるような温度はこもっていなかった。
(まあ、分かってたことだし……。)
 想定していた通りの答えに、沢崎直は頷く。そんな簡単に問題が片付くなら、今もこんなふうに見知らぬ異世界で七転八倒していない。
 既に地面は沢崎直の足で均されていて、描かれていた絵は消えてしまっていたが、師匠はそれでも地面を見つめながら、沢崎直に興味津々で尋ねる。
「ナオ。お前もあんな服装だったのか?」
 尋ねられた沢崎直はすぐに首を振った。師匠が何やら期待しているようだが、その辺りは申し訳ない。
「着ませんよ。何て言うか、私、向こうでは地味な女だったので、ああいう派手な服装は似合わなかったんですよね……。」
 服屋に行っても、地味で無難なモノばかりを選んでいたし、デザインよりも機能性や素材の方を気にかけていた沢崎直。その辺が『女子力』という言葉からはかけ離れていたのだろう。
 自分で答えて、自分で過去の傷に触れてしまった沢崎直だが、今はあの当時よりは傷は痛まなかった。
「そうなのか?」
 地面から顔を上げた師匠が不思議そうな顔で尋ねる。
 沢崎直は気軽に頷いた。
「はい。向こうの世界での私は、ごくごく一般的でありふれた女でした。地味で存在感も薄く、通り過ぎたら顔も思い出せなくなるくらいにです。」
 自虐とも思えないほど自然な説明に、師匠が怪訝な顔をする。
「俺にはそんなふうに思えねぇけど?」
「それは、今、私がアルバート氏という外観をしているからですよ。」
 イケメンの外見がそう見せているだけで、中身がモブ女であることには変わりない。沢崎直にとっては、当たり前すぎる事実である。
 だが、師匠の見解は違うようで、首を捻って唸っていた。
「んー?そうか?話してても、結構面白いぞ、ナオは。だいたいお前が言ったんだろ?服装は自由意思だって。例え似合わないと誰かが言ったって、お前が着たかったら着てもいいはずだよな?もちろん着たくないなら別だが。」
「それは………。」
 師匠の言葉に何も返すことが出来ない沢崎直。
 向こうの世界では、モブ女であることから他人の目ばかり気にして、本当に自由意思で生きていたのだろうか?
 師匠の指摘に、今更そんなことが気になっていた。もう戻れないというのに……。
 そこまで思い至って、沢崎直は自嘲気味に笑った。
(異世界に行くとか、女の身体じゃなくなるって知ってたら、もっと着といたのに……。似合わなくても、家の中だけでも……。)
 後悔は先に出来ない。後悔というのは、した時には既に遅いものなのだ。
 今はもうどうにもならないことにしがみつき続けても意味はない。沢崎直は気持ちを切り替えて顔を上げた。
(まあ、今はアルバート氏のおかげでイケメンだから、イケメンを楽しむとしましょう。)
 幸い、前世では持ち合わせのなかった『女子力』に、異世界ではもう悩まされることはなさそうだ。
 そこを大いに感謝した沢崎直は、今度は明るい笑顔を浮かべる。
「まあ前世の分も、今は色々着てみることにします。もちろん、アルバート氏に迷惑の掛からない程度に。」
「おう。だが、俺は野郎の服になぞ興味はねぇからな。」
 うんうんと師匠も笑顔で頷く。
 沢崎直は師匠の言葉に今度はあっけらかんと笑った。
「はははは。私は師匠がドレスアップしたら見てみたいですよ。あと騎士団の恰好してる師匠も見てみたいです。」
「そうか?だったら、いつか拝ませてやるよ。可愛い弟子の頼みだからな。」


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