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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㊴『服装談義』
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三十九
剣の握り方、剣の構え方、剣の振り方。
まずは基礎中の基礎を師匠が丁寧に教えてくれる。
沢崎直は見よう見まねで一つずつ、師匠の教えを身体に刻みつけるために再現に努めた。
「そうじゃない。ここはもっと右手を使え。」
「はい。こうですか?」
「おう。そうだ。」
出来がいいわけではないが、素直に応える弟子の態度に師匠の指導にも熱が入る。
しばらくの間、二人の師弟は剣術の稽古に時を忘れて励むことになった。
「とりあえず、まだ初日だからな。今日はこのくらいにしとくか……。」
「はい!」
じっとりと汗をかくほど稽古に精を出した後、師匠にそう告げられ、沢崎直は一礼をする。
「ありがとうございました。」
空手道場で幼い頃から叩き込まれた礼儀作法に、誠心誠意剣術に向き合おうとする気持ち。沢崎直は気持ちのいいくらい素直で実直な弟子である。
そんな弟子の態度に、師匠も満足げであった。
家の近くの井戸の前まで移動し、かいた汗を流そうとする。
だが、師匠は着ていた服を脱ごうとして止めた。
「そういやナオは女だったな。年若い女性の前で、野郎が半裸になったらまずいよな。悪ぃ。」
弟子の沢崎直にもきちんと気を遣ってくれる師匠。
師匠の思わぬ紳士的な申し出に、沢崎直は首を振る。
「そんな、私は向こうを向いてますから気にしないでください。」
「だが、お前さんは嫁入り前の娘さんなんだろ?違うのか?……まさか、既婚者か?」
「ち、違います!結婚はしてません!で、でも、多分、この世界よりはもう少し、えっと、何て言うか、男女間の敷居的なもの?が緩い感じです。と言っても、別に、あの……。」
花も恥じらう乙女ではないが、何と説明したらいいか分からない沢崎直。
(……いっそ、素晴らしい師匠の肉体を拝ませてくださいとか、言ってみたら変態っぽいし……。全裸じゃなきゃ、そこまで取り立てて言うほどのことじゃないんだけど……。)
貞操観念や男女間の関係の線引きというものは、時代や社会によってかなり左右される。この異世界に来てまだほんの少しの時間しか過ごしていないが、それでも現代のモブ女・沢崎直の感覚からすれば酷く不自由な感じがしていた。現代の常識を披露すれば、明らかに非常識で破廉恥なのではないだろうか、この異世界では。
「私の暮らしていた世界では、そこまで厳格なルールがあるわけではないです。基本的に、結婚は自由恋愛ですし、男女も水着とか着て同じプールに入りますし……。」
(……混浴とか、トップレスビーチとかまであるし……。)
嫁入り前でも、交際は自由だし、貞操を守れなんて時代錯誤感が甚だしい。女性に対してそんなことを言えば、袋叩きに遭うだろう。男性はというと、未だ童貞を下に見る風潮は続いていると思われる。
「法律で公共の場で全裸になることは禁止されていますが、男性は下半身を隠していれば最悪半裸でも、そこまで問題になりません。女性はまあ、付いてるものがあるので、上も下も最低限隠す必要はありますが……。肌を見せる服装が流行るくらいには自由です。」
「……肌を見せる服装。」
師匠が妙なところに食いついた。
沢崎直は師匠も現役の男性であることを考慮してあげることにして、近くにあった木の棒で地面にイメージ図を描いてあげることにした。
(……ミニスカートとか、ホットパンツとか、キャミソールとか……。この世界では、アウトっぽいよね。痴女扱いされそう。)
「こんな感じの服です。」
「……おい。足が丸見えだぞ。……それに、もしかしてだが、これはへそが見えてないか?」
恐る恐るといった様子で地面の絵を凝視しながら尋ねてくる師匠。
カルチャーショックを受けている師匠を労わりながらも、沢崎直はしっかりと頷いた。
「もちろんへそは見えています。へそ出しが、この服装の一番のポイントですから。それに、足は丸見えです。スカートがこの長さだと、時々アクシデントで下着が見えます。」
師匠があまりの内容にびくっと震えた。
師匠の凝視する地面に、沢崎直は更に絵を描き足していく。
「他にも、こういう感じの服では、胸の谷間が見えます。女性が意中の男性を誘うために着たりします。他にも、こういう服もありまして、これは一見スカートの布は長いですが、ここが割れていて、足が付け根付近まで見えます。他にも前は軽く隠して、背中が殆ど出ている物などもあります。」
スリットやバックが紐になっているようなもの。扇情的なファッションを、師匠へのサービスで地面に描いていく沢崎直。
だが、勘違いされてはいけないので、最後にいくつか付け足すことも忘れない。
「もちろん常識の範囲内なら服装は自由ですので、露出が多い服を着たくない人は着なくてもいいです。時と場合によって、相応しい服装というのももちろんあります。露出の多い服を着た女性だけで構成されているわけではありません。それに、ここまで露出が多い服があると、逆に露出を減らすことで魅力を想像させるということもあります。あと、最も大事なことですが、露出の多い服を着ているからと言って不躾に男性がじろじろ見ていると、変態扱いされます。誰にでも見せるために露出しているのではなく、自分が着たい服を着ているだけだし、見せたい対象も限られているというわけです。全ては着ている女性本人の自由意思に基づいているというわけですね。そこを第三者が勝手に規定するというものではありません。」
「お、おお。」
師匠は地面を凝視したまま、分かったんだか分かってないんだか分からない相槌を、上の空で返すだけだった。
剣の握り方、剣の構え方、剣の振り方。
まずは基礎中の基礎を師匠が丁寧に教えてくれる。
沢崎直は見よう見まねで一つずつ、師匠の教えを身体に刻みつけるために再現に努めた。
「そうじゃない。ここはもっと右手を使え。」
「はい。こうですか?」
「おう。そうだ。」
出来がいいわけではないが、素直に応える弟子の態度に師匠の指導にも熱が入る。
しばらくの間、二人の師弟は剣術の稽古に時を忘れて励むことになった。
「とりあえず、まだ初日だからな。今日はこのくらいにしとくか……。」
「はい!」
じっとりと汗をかくほど稽古に精を出した後、師匠にそう告げられ、沢崎直は一礼をする。
「ありがとうございました。」
空手道場で幼い頃から叩き込まれた礼儀作法に、誠心誠意剣術に向き合おうとする気持ち。沢崎直は気持ちのいいくらい素直で実直な弟子である。
そんな弟子の態度に、師匠も満足げであった。
家の近くの井戸の前まで移動し、かいた汗を流そうとする。
だが、師匠は着ていた服を脱ごうとして止めた。
「そういやナオは女だったな。年若い女性の前で、野郎が半裸になったらまずいよな。悪ぃ。」
弟子の沢崎直にもきちんと気を遣ってくれる師匠。
師匠の思わぬ紳士的な申し出に、沢崎直は首を振る。
「そんな、私は向こうを向いてますから気にしないでください。」
「だが、お前さんは嫁入り前の娘さんなんだろ?違うのか?……まさか、既婚者か?」
「ち、違います!結婚はしてません!で、でも、多分、この世界よりはもう少し、えっと、何て言うか、男女間の敷居的なもの?が緩い感じです。と言っても、別に、あの……。」
花も恥じらう乙女ではないが、何と説明したらいいか分からない沢崎直。
(……いっそ、素晴らしい師匠の肉体を拝ませてくださいとか、言ってみたら変態っぽいし……。全裸じゃなきゃ、そこまで取り立てて言うほどのことじゃないんだけど……。)
貞操観念や男女間の関係の線引きというものは、時代や社会によってかなり左右される。この異世界に来てまだほんの少しの時間しか過ごしていないが、それでも現代のモブ女・沢崎直の感覚からすれば酷く不自由な感じがしていた。現代の常識を披露すれば、明らかに非常識で破廉恥なのではないだろうか、この異世界では。
「私の暮らしていた世界では、そこまで厳格なルールがあるわけではないです。基本的に、結婚は自由恋愛ですし、男女も水着とか着て同じプールに入りますし……。」
(……混浴とか、トップレスビーチとかまであるし……。)
嫁入り前でも、交際は自由だし、貞操を守れなんて時代錯誤感が甚だしい。女性に対してそんなことを言えば、袋叩きに遭うだろう。男性はというと、未だ童貞を下に見る風潮は続いていると思われる。
「法律で公共の場で全裸になることは禁止されていますが、男性は下半身を隠していれば最悪半裸でも、そこまで問題になりません。女性はまあ、付いてるものがあるので、上も下も最低限隠す必要はありますが……。肌を見せる服装が流行るくらいには自由です。」
「……肌を見せる服装。」
師匠が妙なところに食いついた。
沢崎直は師匠も現役の男性であることを考慮してあげることにして、近くにあった木の棒で地面にイメージ図を描いてあげることにした。
(……ミニスカートとか、ホットパンツとか、キャミソールとか……。この世界では、アウトっぽいよね。痴女扱いされそう。)
「こんな感じの服です。」
「……おい。足が丸見えだぞ。……それに、もしかしてだが、これはへそが見えてないか?」
恐る恐るといった様子で地面の絵を凝視しながら尋ねてくる師匠。
カルチャーショックを受けている師匠を労わりながらも、沢崎直はしっかりと頷いた。
「もちろんへそは見えています。へそ出しが、この服装の一番のポイントですから。それに、足は丸見えです。スカートがこの長さだと、時々アクシデントで下着が見えます。」
師匠があまりの内容にびくっと震えた。
師匠の凝視する地面に、沢崎直は更に絵を描き足していく。
「他にも、こういう感じの服では、胸の谷間が見えます。女性が意中の男性を誘うために着たりします。他にも、こういう服もありまして、これは一見スカートの布は長いですが、ここが割れていて、足が付け根付近まで見えます。他にも前は軽く隠して、背中が殆ど出ている物などもあります。」
スリットやバックが紐になっているようなもの。扇情的なファッションを、師匠へのサービスで地面に描いていく沢崎直。
だが、勘違いされてはいけないので、最後にいくつか付け足すことも忘れない。
「もちろん常識の範囲内なら服装は自由ですので、露出が多い服を着たくない人は着なくてもいいです。時と場合によって、相応しい服装というのももちろんあります。露出の多い服を着た女性だけで構成されているわけではありません。それに、ここまで露出が多い服があると、逆に露出を減らすことで魅力を想像させるということもあります。あと、最も大事なことですが、露出の多い服を着ているからと言って不躾に男性がじろじろ見ていると、変態扱いされます。誰にでも見せるために露出しているのではなく、自分が着たい服を着ているだけだし、見せたい対象も限られているというわけです。全ては着ている女性本人の自由意思に基づいているというわけですね。そこを第三者が勝手に規定するというものではありません。」
「お、おお。」
師匠は地面を凝視したまま、分かったんだか分かってないんだか分からない相槌を、上の空で返すだけだった。
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