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第二部

第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㊳『師匠と剣の鍛練』

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      三十八

 とりあえず沢崎直と師匠は外に出ていた。
 これから師匠に剣を教えてもらうにしても、まずはどのくらいの実力があるか知らないといけない。そう師匠に言われ、実に尤もだと沢崎直は理解した。
 剣を振るのならば、室内では手狭である。なので、二人で外に出てきたのだ。
 外には馬車を停めても余りあるほどのスペースが開けているし、今は馬車に乗ってヴィルが出かけているので、その馬車すらない。ちょっとやそっとの運動では困らないスペースが師匠の家の前には広がっていた。この広いスペースで師匠も普段から鍛錬をしていると思われる。
 アルバートの剣は置いたまま、師匠に貸してもらった練習用の木剣を構える沢崎直。
「では、行きます!」
 沢崎直から一定の距離を取り、師匠は腕を組んで沢崎直を見守った。
 全く剣に心得のない沢崎直が、威勢のいい掛け声で木剣を振り始める。
「はっ!はっ!とりゃ!」
 師匠はそれを微動だにせずしばらく見守っていたが、息が少し乱れ始めたところで沢崎直を止めた。
「そこまで!」
 びしっと良く響く声で制止を告げる師匠。
 沢崎直は振っていた木剣をすぐに下ろした。
「押忍!」
 いつもの癖で空手用の返事をしてしまう。
 師匠はそれについては気にしなかったが、つかつかと沢崎直の元に歩いてきた。
 そして、開口一番、感想を包み隠さず告げた。
「酷いな!」
「やっぱりそうですよね?」
 自分でも大いにその自覚はあったので、沢崎直は何の精神的ダメージを食らうことなく師匠の意見に同意した。
「分かるのか?」
 あまりにきっぱりと確信している沢崎直に、逆に師匠が尋ねてくる。
 沢崎直は何の衒いも気負いも無く素直に答えた。
「剣の腕の善し悪しは分かりません、素人ですから。でも、自分に向いてるか向いてないかは感じます。何となくですが、このまま続けても上手くなる気がさっぱりしません。相性的なものが絶望的だと感じます。」
 堂々と宣言するように剣の師匠に告げる沢崎直。内容は剣の師匠に告げるようなものではなかったが、ここで下手に隠してもしょうがない。自らの実力を冷静に見極められない者に上達はないのだ。
「……絶望的って、お前。」
 あまりの物言いに師匠の方が気を遣って何か言葉を探してくれた。
 だが、師匠が何か慰めの言葉をくれる前に沢崎直は続けた。
「切れ味が怖くて剣も抜けませんし、振った感触もイマイチです。師匠、気を遣わなくても大丈夫です。自分のことは、ある程度自分で分かります。この先、どれだけ鍛練しても空手ほどにはなりません。空手だって、元の世界ではさほどの使い手ではなかったので、鍛練しても才能や能力に限界があることは知っています。」
 同じだけ練習しても、簡単に大会で優勝する選手もいれば、沢崎直のように一戦一戦勝ち上がれるかどうかというような選手も大勢いる。もちろん、実力がいつ開花するかは人それぞれだし、初めから皆が強いわけではない。それでも、生まれ持ったものというのは確実に存在する。だからといって鍛練を怠るつもりはないが、上を見てもキリがない。目指すのは自らの技術の上達であり、目的地は人それぞれだ。自らにとっての高みを目指すことというのは、上を見て足元をおろそかにすることではないのだ。
 諦めて投げやりなわけではなく、自分の現在地を理解し、両足を大地にしっかりと着けて進んでいくのが『道』なのである。
 沢崎直の瞳に映る確固たる意志に、師匠は軽く微笑んだ。
「まあ、少しずつコツコツと、ってヤツだな。」
「はい!よろしくお願いします!」
 沢崎直ははっきりと気持ちのいい返事をする。
 弟子の素直な態度に、師匠は満足そうに頷く。
「まずは、基本からだ。剣の握りを教えてやる。」
 そう言って、沢崎直の傍までやって来ると、師匠は手を差し出す。
「ほら、貸せ。」
 今まで握っていた木剣を両手で掲げるように恭しく師匠に手渡す沢崎直。
 師匠はそれを受け取り、軽く握ると一度振り下ろして見せた。

 シュッ

 空気を切り裂くような鋭い音で木剣が振り下ろされる。
(……かっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)
 初めて見た剣を持った師匠の姿に、沢崎直は興奮していた。
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