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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㊲『女か?』
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三十七
「はい、そうですけど……。」
女かと聞かれれば、女だと答える。
沢崎直にとって、それは当たり前の事実だったからだ。
モブ女として二十五年間生きてきて、女に生まれたことに後悔したことはないことはないが、だからといって自らが女でなくて男だと思ったことはないし、男に生まれてきたかったと切望したこともない。何の因果か、現在間借り状態でアルバートという男性の身体に入っているものの、自らの性自認としては、沢崎直は『女』であった。
質問の意図が分からなかったが、とりあえず素直に答えた沢崎直。
その答えに師匠は満足そうに頷いた。
「はぁー、そういうことか。そうか。そういうことだったか。」
一人で納得して、うんうんと頷いている師匠。
沢崎直は何に納得しているのか気になって尋ねてみる。
「あのー、師匠?」
沢崎直に尋ねられて、師匠は破顔するとしっかりと説明してくれた。
「いや、な。お前さんに感じてた違和感の正体はそれだったんだよ。まあ、初めはアル坊の中に別人が入ってんだから、それを感じ取ったのかと思ったんだが……。違うな。仮にお前さんが男だったら、俺だって気づかなかった気がするぜ。ははは。これじゃヴィルのことはバカにできねぇな。」
「はあ。」
師匠が楽しそうな理由がよく分からない沢崎直は、首を傾げながら相槌を打った。
「記憶喪失って言われりゃ、そんな気もするし。まあ、以前のアル坊と比べても明らかに別人だって言えるほど、そこまで違わねぇ気もするしな。失踪してた一年の間に、多少性格が変わることだってあるし……。事実に気付いた俺と気づかねぇヴィルの間に差があるとすりゃ、あれだ。女関係の経験の差ってヤツだな。ははは。」
(何かよく分からんけど……。師匠が女性経験豊富そうなのは理解した…。あと、ヴィルさんが、純粋なのも……。)
あっけらかんと笑う師匠は、ひとしきり笑った後、まだよく分かってない沢崎直に朗らかに声を掛けた。
「まあ、俺としては、ヴィル本人が気づくまで、アイツに教えるようなことはしねぇよ。これからも、アル坊として元通りやってきゃいい。アイツが気付くなんてこたぁそうそうねぇから安心しろ。」
悪戯を仕掛ける時のようにほくそ笑んでいる師匠。ヴィルが全く気付かないまま過ごしているのが楽しくて仕方ないらしい。
親切でアルバート命のヴィルを師匠と共に騙しているようで気が引けるが、それでも沢崎直にはヴィルに真実を話すという選択肢は今のところなかった。あの家を放り出されたら、見知らぬ異世界でアルバートの身体を抱えて生きていく術など分からないからだ。
そんな沢崎直の懊悩も露知らず、喜んでいた師匠だったが、すぐに真剣なものに声色を変えると、厄介な状況に巻き込まれている沢崎直を心配するように尋ねた。
「でもなぁ、女だったなら野郎の身体に入ってイロイロ大変だろ?」
「はい。すごく困ってます!」
勢い込んで頷く沢崎直。先程までの疑念はどこへやら、ようやく理解してくれる人が現れたと、師匠が救いの神にすら見える。
「俺が女にの身体になったらって考えても、困ることはありそうだってのが分かるぜ。まあ、男としちゃ、どうしようもねぇ妄想も膨らむがな。」
師匠の言葉に、学生時代に男子がしていた一日人気女性アイドルの身体になったら何をしたいかというようなロクでもない話が沢崎直の脳内を高速で過っていった。
なので、すぐに頭を振ってなかったことにする。
「でもまぁ、現実にとなっちゃぁ、そんなことも言ってられないわな。」
師匠はじっとこちらを見て、イロイロ理解した顔で頷いてくれた。
沢崎直はどこまで師匠が分かってくれたかは分からないが、少しだけ心強くなった。
「はい。困りまくってます。あんまり馴染みのないモノがぶら下がってたり……、です!」
「ははははははは!」
沢崎直の物言いに、師匠が思わず吹き出す。沢崎直とは違い、生まれた時から馴染みのある師匠にとっては、爆笑必至の笑い事なのだろう。
しばらく笑った後、まだ笑い足りなさそうではあったが、笑いをこらえて師匠は沢崎直の問題に一緒に取り組んでくれそうな姿勢を示してくれた。
「まあ、うん。分かった。女の頼みを断るほど、俺は男として腐っちゃいねえつもりだ。ナオ、弟子として、お前を受け入れよう。」
「あっ、ありがとうございます!」
ここへ来る前まで思ってもみなかった展開に、沢崎直が笑顔で頭を下げる。
だが、師匠は最後に少しだけ付け加えた。
「で、一つだけ提案なんだが……。」
その言葉に、ちょっとだけ沢崎直は身構えた。
それを見越して、師匠は安心させるように続ける。
「ああ、大丈夫だ。お前に無理は言わねぇよ。……ただ、やっぱりお前の空手は気になるからな。もう教えてくれとは言わねぇから、俺との修行の時なんかでいいから、空手の稽古もついでに俺に見せてくれ。ダメか?」
「それくらいなら。」
「よし、それで決まりだな。」
二人の間にしっかりと協定が結ばれる。
これが、沢崎直が異世界で初めて事情を知る協力者を得た瞬間であった。
「はい、そうですけど……。」
女かと聞かれれば、女だと答える。
沢崎直にとって、それは当たり前の事実だったからだ。
モブ女として二十五年間生きてきて、女に生まれたことに後悔したことはないことはないが、だからといって自らが女でなくて男だと思ったことはないし、男に生まれてきたかったと切望したこともない。何の因果か、現在間借り状態でアルバートという男性の身体に入っているものの、自らの性自認としては、沢崎直は『女』であった。
質問の意図が分からなかったが、とりあえず素直に答えた沢崎直。
その答えに師匠は満足そうに頷いた。
「はぁー、そういうことか。そうか。そういうことだったか。」
一人で納得して、うんうんと頷いている師匠。
沢崎直は何に納得しているのか気になって尋ねてみる。
「あのー、師匠?」
沢崎直に尋ねられて、師匠は破顔するとしっかりと説明してくれた。
「いや、な。お前さんに感じてた違和感の正体はそれだったんだよ。まあ、初めはアル坊の中に別人が入ってんだから、それを感じ取ったのかと思ったんだが……。違うな。仮にお前さんが男だったら、俺だって気づかなかった気がするぜ。ははは。これじゃヴィルのことはバカにできねぇな。」
「はあ。」
師匠が楽しそうな理由がよく分からない沢崎直は、首を傾げながら相槌を打った。
「記憶喪失って言われりゃ、そんな気もするし。まあ、以前のアル坊と比べても明らかに別人だって言えるほど、そこまで違わねぇ気もするしな。失踪してた一年の間に、多少性格が変わることだってあるし……。事実に気付いた俺と気づかねぇヴィルの間に差があるとすりゃ、あれだ。女関係の経験の差ってヤツだな。ははは。」
(何かよく分からんけど……。師匠が女性経験豊富そうなのは理解した…。あと、ヴィルさんが、純粋なのも……。)
あっけらかんと笑う師匠は、ひとしきり笑った後、まだよく分かってない沢崎直に朗らかに声を掛けた。
「まあ、俺としては、ヴィル本人が気づくまで、アイツに教えるようなことはしねぇよ。これからも、アル坊として元通りやってきゃいい。アイツが気付くなんてこたぁそうそうねぇから安心しろ。」
悪戯を仕掛ける時のようにほくそ笑んでいる師匠。ヴィルが全く気付かないまま過ごしているのが楽しくて仕方ないらしい。
親切でアルバート命のヴィルを師匠と共に騙しているようで気が引けるが、それでも沢崎直にはヴィルに真実を話すという選択肢は今のところなかった。あの家を放り出されたら、見知らぬ異世界でアルバートの身体を抱えて生きていく術など分からないからだ。
そんな沢崎直の懊悩も露知らず、喜んでいた師匠だったが、すぐに真剣なものに声色を変えると、厄介な状況に巻き込まれている沢崎直を心配するように尋ねた。
「でもなぁ、女だったなら野郎の身体に入ってイロイロ大変だろ?」
「はい。すごく困ってます!」
勢い込んで頷く沢崎直。先程までの疑念はどこへやら、ようやく理解してくれる人が現れたと、師匠が救いの神にすら見える。
「俺が女にの身体になったらって考えても、困ることはありそうだってのが分かるぜ。まあ、男としちゃ、どうしようもねぇ妄想も膨らむがな。」
師匠の言葉に、学生時代に男子がしていた一日人気女性アイドルの身体になったら何をしたいかというようなロクでもない話が沢崎直の脳内を高速で過っていった。
なので、すぐに頭を振ってなかったことにする。
「でもまぁ、現実にとなっちゃぁ、そんなことも言ってられないわな。」
師匠はじっとこちらを見て、イロイロ理解した顔で頷いてくれた。
沢崎直はどこまで師匠が分かってくれたかは分からないが、少しだけ心強くなった。
「はい。困りまくってます。あんまり馴染みのないモノがぶら下がってたり……、です!」
「ははははははは!」
沢崎直の物言いに、師匠が思わず吹き出す。沢崎直とは違い、生まれた時から馴染みのある師匠にとっては、爆笑必至の笑い事なのだろう。
しばらく笑った後、まだ笑い足りなさそうではあったが、笑いをこらえて師匠は沢崎直の問題に一緒に取り組んでくれそうな姿勢を示してくれた。
「まあ、うん。分かった。女の頼みを断るほど、俺は男として腐っちゃいねえつもりだ。ナオ、弟子として、お前を受け入れよう。」
「あっ、ありがとうございます!」
ここへ来る前まで思ってもみなかった展開に、沢崎直が笑顔で頭を下げる。
だが、師匠は最後に少しだけ付け加えた。
「で、一つだけ提案なんだが……。」
その言葉に、ちょっとだけ沢崎直は身構えた。
それを見越して、師匠は安心させるように続ける。
「ああ、大丈夫だ。お前に無理は言わねぇよ。……ただ、やっぱりお前の空手は気になるからな。もう教えてくれとは言わねぇから、俺との修行の時なんかでいいから、空手の稽古もついでに俺に見せてくれ。ダメか?」
「それくらいなら。」
「よし、それで決まりだな。」
二人の間にしっかりと協定が結ばれる。
これが、沢崎直が異世界で初めて事情を知る協力者を得た瞬間であった。
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