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第二部

第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㊱『希望の兆し』

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      三十六

「そ、そうか。」
 沢崎直のあまりの力の入りように、師匠が少々気圧される。
 だが、沢崎直はまだまだこんなもんでは足りぬと勢い込んで続ける。
「他にも出来ないことはたくさんあります。乗馬もそうです。あと、魔法もです。あと知らないこともたくさんです。でも、何を質問していいかも分からないし、何を知らないといけないかも分かりません。それなのに、アルバート氏として生きなきゃいけないみたいだし、結婚とか、剣の修行とか、他にもいっぱいあって……。師匠、私はすごく困っているんです!どうしたらいいですか?」
 結局、沢崎直は異世界にやってきて持て余している困りごとの全てを、どさくさに紛れて師匠に丸投げしてみた。
 師匠は沢崎直のあまりの勢いに目を白黒させて驚いていた。
「そ、そうだな……。」
 驚いてはいたが、師匠は即座に投げ捨てたりせず、一応考え始めてくれた。
 沢崎直の顔をちらちらと見ながら、師匠は黙り込んで考えている。
 何かしら光明が見えるかもしれないと、沢崎直は少しだけ師匠の言葉を期待して待っていた。
(……師匠、もしかして、何か教えてくれるかも……。)
 しばらく時間を使って考えた後、師匠が頭を掻きながら口を開いた。
「……お前が大変なのは何となく分かった。」
 難しい顔をして、師匠が何度も頷く。
 沢崎直は先に続く有り難い言葉を期待して、師匠に話の先を促した。
「そうなんです。困ってるんです。」
 だが、師匠は金言を弟子にもたらすわけではなく、より難しい顔をして全く別の質問をしてきた。
「一つ聞きたいんだが……。ヴィルは、お前のことに気付いてるのか?」
「いえ、多分、アルバート氏だと思ってるのじゃないかと思います。じゃなければ記憶喪失を治そうとしませんよね?中身が入れ変わってると分かってたら、ヴィルさんなら中身のアルバート氏の魂を取り戻す方法とか魂の方をすぐさま探しに行きそうです。」
 沢崎直は素直に質問に答えた。
 師匠は沢崎直の答えに満足して頷いた。
「確かに、そうだな。アイツならそんな感じだ。……だったら、アイツは何も知らずに今アル坊の外側に仕えてるんだな?あんな真面目くさった顔して。」
「そうなりますね。まあ、外側はアルバート氏なんで……。内側は私ですけど……。」
 答える沢崎直の言葉が言い訳めいた色になる。転生も別人の魂が入って間借りしているのも沢崎直が意図したわけでも、責任があるわけでもないが、それでも申し訳なさは募る。
 だが、師匠に沢崎直を責める意思は感じない。それよりも、師匠の顔に悪戯な笑みが浮かび始めたことが沢崎直は気になった。
(……師匠、何か悪いこと考えてる?)
 沢崎直の危惧は概ね当たりだったようで、師匠は悪だくみをする悪党のような顔で底意地の悪い笑いを響かせ始めた。まるで先程、ヴィルに酒を買いに行かせた時に見せた表情と同じである。
「ったく、アイツは真面目なくせに妙なところが抜けてんだよな…。くっくっくっ。融通が利かねぇっつうか、何というか……。主人に仕える忠犬が、主人の中身が入れ替わってるのも気づかねぇなんて、全く……くくくくっ。」
「あ、あのー……。」
 師匠の様子に不安を覚え、沢崎直が尋ねる。
 師匠は悪い顔のまま、しばらく満足そうに笑って頷いていた。
 だが、沢崎直があまりにも不安そうにしているので、がらっと表情を変え穏やかな笑みを浮かべると勇気づけるように答え始めた。
「ああ、大丈夫だぞ、ナオ。俺に任せとけ。まず、剣だが。まあ、乗りかかった船だ。お前も弟子みたいなもんだからな、俺が教えてやる。」
「はい!」
 思わず大きな声で返事をする沢崎直。
 真っ暗だった眼の前に、急に希望の光が射し始めて、沢崎直の瞳が輝き始める。
「次に馬は、まあこれも教えられるぞ、俺は。騎士団で騎馬隊の経験もあるからな。あと、家でもヴィルに教わりゃいい。そのうち、馬くらいなら乗れるようになるだろ。」
「はい!」
 好感触の内容に、元気な返事が続く。急に頼もしくなった師匠を眩しく見上げる沢崎直。
「あと、そうだな。魔法は当人の素質がかなり関係してくるから、使ってみねぇと何とも言えねぇが……。アル坊は使えたし、魔力はありそうだから、何とかなるんじゃねぇか?」
「はい!」
 師匠の魔法に関しての見解は先程の二つよりは少し心許ないものだったが、何も出来ないよりは全然マシなので、これも沢崎直は元気よく返事をした。
「この世界の事は、俺が教えてやる。気になったら何でも質問しろ。」
 どしっと構えて、全て任せろと言わんばかりの師匠の存在に、沢崎直は有り難いやら嬉しいやらで胸がいっぱいになった。
「師匠!これからお願いします!」
 万感の思いを込めて、礼儀正しく精一杯の挨拶をする沢崎直。
 そんな沢崎直に、師匠は最後にちょっとしたことのように、一つの質問を付け足した。
「それで、な。もう一つだけ聞きたいんだが……。お前、女か?」

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