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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㉟『剣と刀』
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三十五
「……剣相手の技はあるのか?」
しばらく自分の中で考えを纏めていた師匠だったが、まだあらゆる方向性の検討をしながら、沢崎直に質問を始めた。
沢崎直は頷く。
「はい。剣を持つ相手の懐に入り込む技や、剣を素手で止める技などがあります。あっ、でも私は使えませんから、剣を振りかざさないでくださいね。普通に何もできずに斬られます、私。」
試される前に断っておく。でないと、さくっと試してきそうな危うさが師匠にはあった。
「剣というか、これも私の国で独自に発展したもので武器の一つですが、剣に似た刀というものがありまして、これに対抗するための技です。あっ、ちなみに刀のことは、あまりにも門外漢なので、聞かれても刀っていう名前とうろ覚えの形状ぐらいしかわかりませんよ。」
「剣とはどう違う?」
聞かれて、沢崎直は黙り込む。そもそも剣の事も良く知らないのに、よく知らない刀との違いなんて分かるはずもない。何か呼び名とか形とか違うなぁ、どこがどうとは言えないけど……。くらいの知識だ。
「どう、と言われても……。持ち方とか?形とか?いや?原料?」
あまりに自信のなさそうな沢崎直の物言いに、師匠が呆れる。
「本当に知らねぇんだな……。」
「はい。持ったこともないです。展示品として飾ってあるのを、遠くから眺めたくらいのものです。」
沢崎直は刀剣を眺める趣味も無く、特に歴史好きというわけでもなかったので、遠足で行った近くの城にある備え付きの博物館で、城主だとか城に所縁のある武将だかが持っていた装備品をなんとなしに眺めただけの経験しかない。あれだって、本物だったのかレプリカかだったのかも分からない。
ただ、アルバート氏の剣は西洋式っぽいなとか思っただけだ。西洋式と言っても、フェンシングで使うサーベルとは違うくらいの事しかわからない。
他に剣という武器について知っていることと言えば、あとは主にゲームで得た知識だけだ。日本式の刀や中国式の青龍刀、西洋式サーベル、双剣や円月刀、他にも持ち上げるのが困難そうな大剣なんかを振り回すキャラがいた。そんな多種多様な個性的な武器の中で、一番無個性な剣が、この異世界で沢崎直が間近で見ることになったアルバート氏の剣である。
「何か、こう反ってて、片側に刃がついてるんだったかな……。あの剣とは違います。」
今の場所からは手の届かないところに置かれているアルバート氏の剣を指さして、沢崎直は答えた。
剣の師匠の元にやって来た状況だが、沢崎直は剣を既に手放していた。必要のない上に重いので、一度置いてしまえば取りに行く習慣がない。
師匠は遠い場所に置かれた剣を見つめた。どうやら、沢崎直が手元に持っていないことに今気づいたようだった。
「お前、帯剣しないのか?」
今までの会話の流れをぶった切ってでも、思わず尋ねるくらいには師匠は驚いていた。師匠にとって剣をその身から離すことなどあり得ないのだろう。そんな可能性すら排除して今まで気づくことすらなかったくらいには。なのに、あまりにも自然に剣をその身から離した沢崎直は剣を置いたまま、平気な顔をして座っている。
沢崎直にとっては帯剣しないのが当たり前なので、もちろんそのつもりで答える。
「しないんじゃなくて、出来ないんです。」
「は?」
師匠にとっては意味不明の発言だったようだが、この際なので沢崎直は本当の事を洗いざらい話すことにした。その上、今置かれている状況の相談にも乗ってもらうことにした。
「私は、その、さっきもお話しした通り、別の世界から来ました。アルバート氏の身体ではありますが、中身は別人です。なので、師匠に教えていただいたはずの剣はおろか、アルバート氏としての記憶全てを持っていないんです。」
「おお。」
師匠がとりあえず相槌として頷いてくれる。
沢崎直はそれに勢いを得て、更に続けた。
「私が持っているのは、此処とは別の世界で私が生きた記憶と経験だけですし、技術やなにかもそうです。ですから、私が生まれてからあちらの世界で死ぬまでの間に身に着けていないことはできません。身に着いていないものが、こちらに来てから一朝一夕で身に着くはずもありません。なので、私は帯剣できないんです。一応、これでもこの世界に順応しようとして、剣を試しに腰から下げてみたり、振ってみたりしましたが、全然ダメでした。だから、今日も一応抱えて剣を持ってきただけです。全く使えません。」
沢崎直はこれまでの苦難の数々を思い、師匠相手に力説するのだった。
「……剣相手の技はあるのか?」
しばらく自分の中で考えを纏めていた師匠だったが、まだあらゆる方向性の検討をしながら、沢崎直に質問を始めた。
沢崎直は頷く。
「はい。剣を持つ相手の懐に入り込む技や、剣を素手で止める技などがあります。あっ、でも私は使えませんから、剣を振りかざさないでくださいね。普通に何もできずに斬られます、私。」
試される前に断っておく。でないと、さくっと試してきそうな危うさが師匠にはあった。
「剣というか、これも私の国で独自に発展したもので武器の一つですが、剣に似た刀というものがありまして、これに対抗するための技です。あっ、ちなみに刀のことは、あまりにも門外漢なので、聞かれても刀っていう名前とうろ覚えの形状ぐらいしかわかりませんよ。」
「剣とはどう違う?」
聞かれて、沢崎直は黙り込む。そもそも剣の事も良く知らないのに、よく知らない刀との違いなんて分かるはずもない。何か呼び名とか形とか違うなぁ、どこがどうとは言えないけど……。くらいの知識だ。
「どう、と言われても……。持ち方とか?形とか?いや?原料?」
あまりに自信のなさそうな沢崎直の物言いに、師匠が呆れる。
「本当に知らねぇんだな……。」
「はい。持ったこともないです。展示品として飾ってあるのを、遠くから眺めたくらいのものです。」
沢崎直は刀剣を眺める趣味も無く、特に歴史好きというわけでもなかったので、遠足で行った近くの城にある備え付きの博物館で、城主だとか城に所縁のある武将だかが持っていた装備品をなんとなしに眺めただけの経験しかない。あれだって、本物だったのかレプリカかだったのかも分からない。
ただ、アルバート氏の剣は西洋式っぽいなとか思っただけだ。西洋式と言っても、フェンシングで使うサーベルとは違うくらいの事しかわからない。
他に剣という武器について知っていることと言えば、あとは主にゲームで得た知識だけだ。日本式の刀や中国式の青龍刀、西洋式サーベル、双剣や円月刀、他にも持ち上げるのが困難そうな大剣なんかを振り回すキャラがいた。そんな多種多様な個性的な武器の中で、一番無個性な剣が、この異世界で沢崎直が間近で見ることになったアルバート氏の剣である。
「何か、こう反ってて、片側に刃がついてるんだったかな……。あの剣とは違います。」
今の場所からは手の届かないところに置かれているアルバート氏の剣を指さして、沢崎直は答えた。
剣の師匠の元にやって来た状況だが、沢崎直は剣を既に手放していた。必要のない上に重いので、一度置いてしまえば取りに行く習慣がない。
師匠は遠い場所に置かれた剣を見つめた。どうやら、沢崎直が手元に持っていないことに今気づいたようだった。
「お前、帯剣しないのか?」
今までの会話の流れをぶった切ってでも、思わず尋ねるくらいには師匠は驚いていた。師匠にとって剣をその身から離すことなどあり得ないのだろう。そんな可能性すら排除して今まで気づくことすらなかったくらいには。なのに、あまりにも自然に剣をその身から離した沢崎直は剣を置いたまま、平気な顔をして座っている。
沢崎直にとっては帯剣しないのが当たり前なので、もちろんそのつもりで答える。
「しないんじゃなくて、出来ないんです。」
「は?」
師匠にとっては意味不明の発言だったようだが、この際なので沢崎直は本当の事を洗いざらい話すことにした。その上、今置かれている状況の相談にも乗ってもらうことにした。
「私は、その、さっきもお話しした通り、別の世界から来ました。アルバート氏の身体ではありますが、中身は別人です。なので、師匠に教えていただいたはずの剣はおろか、アルバート氏としての記憶全てを持っていないんです。」
「おお。」
師匠がとりあえず相槌として頷いてくれる。
沢崎直はそれに勢いを得て、更に続けた。
「私が持っているのは、此処とは別の世界で私が生きた記憶と経験だけですし、技術やなにかもそうです。ですから、私が生まれてからあちらの世界で死ぬまでの間に身に着けていないことはできません。身に着いていないものが、こちらに来てから一朝一夕で身に着くはずもありません。なので、私は帯剣できないんです。一応、これでもこの世界に順応しようとして、剣を試しに腰から下げてみたり、振ってみたりしましたが、全然ダメでした。だから、今日も一応抱えて剣を持ってきただけです。全く使えません。」
沢崎直はこれまでの苦難の数々を思い、師匠相手に力説するのだった。
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