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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㉞『世界の違い』
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三十四
あまりにも熱心に師匠に頼み込まれ、沢崎直は根負けしていた。
だが、師匠の凄いところは、その後の心から嬉しそうな笑顔でこちらが根負けしたことに悪い気をさせないところだ。多分、この人は人たらしであるのだろう。その辺が、もしかしたらアルバート父に昔世話になったことに関係しているのかもしれない。
(まあ、女たらし的な要素の方が強いかも知れないけど……。)
口には出さずに、心の中でとりあえずツッコんでおく。そのくらい師匠という男は、ある種の女性の本能にダイレクトに響きそうな魅力に満ちていそうだった。
(私にはヴィルさんがいるから。)
今、師匠のお使い真っ最中の推しの姿を思い、沢崎直は師匠の魅力に囚われてしまわないように気を引き締めた。
そして、とりあえず話をするために師匠にも椅子を勧めて、自分も椅子に再度腰かけた。
「とりあえず、私の知っていることだけ話します。でも、私は、さっきも言ったように、あまり出来のいい弟子ではなかったですし、気軽に運動の延長のような気持ちで習っていたので、真髄というかそういう詳しいことは全然知りません。それでもいいなら、うろ覚えの事ですいませんが、話します。いいですか?」
「おう。何でもいい。聞かせてくれ。」
見るからにわくわくしながら、こちらの話を待つ師匠。
目を輝かせている師匠に、沢崎直は心が和み、ほのぼのとした笑みを浮かべて説明を始めた。
「私が元の世界で習っていたのは、空手という武道です。空手というのは、まあ色々な流派がありますが、基本的には対人間用に特化したものだと思います。」
これまでの異世界生活で感じたこと、今までの世界との違いを考えながら、自分が思うことや元の世界の師匠に習ったことを纏めていく。
「私の世界にはモンスターの類はいませんでしたし、魔法もありません。剣術や武術はありましたが、私が暮らしていた国は平和だったので、あまり誰かに対して使うために覚えるというよりは、習い事や、自分の鍛錬のため、あとは護身のためにという感じで存在していた気がします。なので、武術というよりも、その技術の先の精神の鍛練を目的とした武道という道を教える側面も大きかった気がします。」
「魔法もモンスターもないのか?」
「はい。こちらの世界とは少し違う感じです。ワイルドベアーはいませんが、森にはくまさんはいました。サイズは大人より少し大きいくらいのです。」
「そうなのか……。」
初めて聞く話に、師匠が興味深そうに頷く。
異世界に来てからこれまで、元の世界の話などできなかったので、話し始めると沢崎直は楽しくなっていた。色々なことを制限しながら、おっかなびっくり話すのはやはり気を遣って疲れる作業である。だが、今、師匠相手に話す分には説明の仕方や言葉を選ぶ必要はあっても、何か言ってはいけない言葉や情報に気を遣わなくていい分、自由な気持ちで話すことが出来る。それは沢崎直の心を軽くした。
「はい、他にもせいぜいいるのは猛獣と呼ばれるくらいのモノで、それでも動物です。モンスターと呼べるような生き物はいないです。なので、魔法や剣で武装する必要はありません。私が習っていた空手は、小さい子からお年寄りまで健康のためにとか強い身体になるためにとか、そういう気持ちで気軽に始められる街の道場で習っていたくらいのものです。」
「実用的なもんじゃねぇってことだな?」
「はい。もちろん、より実戦的で実用的なものがないわけじゃないんですが、少なくとも一般人の私には必要のないものでした。ですから、師匠に教えられるような技術ではないと言いました。」
自らの持つ力を悪戯にひけらかすなど、師匠に説かれていた精神論に反する。武道としての教えは、忘れたつもりはない。なので、沢崎直が出来るのはあくまでも、自らの習っていた空手の概要的な説明だけだ。真髄を修めたこともない未熟な自分に、それ以上のことなど語るのは無理だし、まして他人に技術を教えるなど以ての外である。
そのことを此処とは別の世界の情報を交えて、しっかりと師匠に説明する。
「師匠だって、お子様が手習いで覚えた武術を知りたいとは思わないですよね。私の持つ空手の知識は、それくらいのものです。」
「んー?」
ようやく少しずつだが師匠の気勢が弱まる。
「なので、そんな素人に毛の生えたくらいの人間が知っていることだと思って聞いてくださいね。」
沢崎直は更に言葉を尽くして続けた。
「空手は対人用の格闘技で、主に打撃や蹴りなどで相手を攻撃します。攻撃する場所は、人体の急所を狙うことが多いです。相手に対して効果的な攻撃というヤツです。ですが、これは対人用なので、他の構造の違う生物には効かなかったり効きにくかったりすると思います。モンスターを相手にするならば、効果は半減するでしょうし、何より剣の間合い相手なら太刀打ちする術もありますが、魔法相手の技はありません。何故なら、私の世界に魔法がないので、魔法相手に技術を特化させる必要がなかったからです。あと、自らの肉体を使う以上、飛び道具的な攻撃もありません。」
沢崎直が一気に説明をすると、師匠は自分の中で考えを纏めるために黙り込んだ。
あまりにも熱心に師匠に頼み込まれ、沢崎直は根負けしていた。
だが、師匠の凄いところは、その後の心から嬉しそうな笑顔でこちらが根負けしたことに悪い気をさせないところだ。多分、この人は人たらしであるのだろう。その辺が、もしかしたらアルバート父に昔世話になったことに関係しているのかもしれない。
(まあ、女たらし的な要素の方が強いかも知れないけど……。)
口には出さずに、心の中でとりあえずツッコんでおく。そのくらい師匠という男は、ある種の女性の本能にダイレクトに響きそうな魅力に満ちていそうだった。
(私にはヴィルさんがいるから。)
今、師匠のお使い真っ最中の推しの姿を思い、沢崎直は師匠の魅力に囚われてしまわないように気を引き締めた。
そして、とりあえず話をするために師匠にも椅子を勧めて、自分も椅子に再度腰かけた。
「とりあえず、私の知っていることだけ話します。でも、私は、さっきも言ったように、あまり出来のいい弟子ではなかったですし、気軽に運動の延長のような気持ちで習っていたので、真髄というかそういう詳しいことは全然知りません。それでもいいなら、うろ覚えの事ですいませんが、話します。いいですか?」
「おう。何でもいい。聞かせてくれ。」
見るからにわくわくしながら、こちらの話を待つ師匠。
目を輝かせている師匠に、沢崎直は心が和み、ほのぼのとした笑みを浮かべて説明を始めた。
「私が元の世界で習っていたのは、空手という武道です。空手というのは、まあ色々な流派がありますが、基本的には対人間用に特化したものだと思います。」
これまでの異世界生活で感じたこと、今までの世界との違いを考えながら、自分が思うことや元の世界の師匠に習ったことを纏めていく。
「私の世界にはモンスターの類はいませんでしたし、魔法もありません。剣術や武術はありましたが、私が暮らしていた国は平和だったので、あまり誰かに対して使うために覚えるというよりは、習い事や、自分の鍛錬のため、あとは護身のためにという感じで存在していた気がします。なので、武術というよりも、その技術の先の精神の鍛練を目的とした武道という道を教える側面も大きかった気がします。」
「魔法もモンスターもないのか?」
「はい。こちらの世界とは少し違う感じです。ワイルドベアーはいませんが、森にはくまさんはいました。サイズは大人より少し大きいくらいのです。」
「そうなのか……。」
初めて聞く話に、師匠が興味深そうに頷く。
異世界に来てからこれまで、元の世界の話などできなかったので、話し始めると沢崎直は楽しくなっていた。色々なことを制限しながら、おっかなびっくり話すのはやはり気を遣って疲れる作業である。だが、今、師匠相手に話す分には説明の仕方や言葉を選ぶ必要はあっても、何か言ってはいけない言葉や情報に気を遣わなくていい分、自由な気持ちで話すことが出来る。それは沢崎直の心を軽くした。
「はい、他にもせいぜいいるのは猛獣と呼ばれるくらいのモノで、それでも動物です。モンスターと呼べるような生き物はいないです。なので、魔法や剣で武装する必要はありません。私が習っていた空手は、小さい子からお年寄りまで健康のためにとか強い身体になるためにとか、そういう気持ちで気軽に始められる街の道場で習っていたくらいのものです。」
「実用的なもんじゃねぇってことだな?」
「はい。もちろん、より実戦的で実用的なものがないわけじゃないんですが、少なくとも一般人の私には必要のないものでした。ですから、師匠に教えられるような技術ではないと言いました。」
自らの持つ力を悪戯にひけらかすなど、師匠に説かれていた精神論に反する。武道としての教えは、忘れたつもりはない。なので、沢崎直が出来るのはあくまでも、自らの習っていた空手の概要的な説明だけだ。真髄を修めたこともない未熟な自分に、それ以上のことなど語るのは無理だし、まして他人に技術を教えるなど以ての外である。
そのことを此処とは別の世界の情報を交えて、しっかりと師匠に説明する。
「師匠だって、お子様が手習いで覚えた武術を知りたいとは思わないですよね。私の持つ空手の知識は、それくらいのものです。」
「んー?」
ようやく少しずつだが師匠の気勢が弱まる。
「なので、そんな素人に毛の生えたくらいの人間が知っていることだと思って聞いてくださいね。」
沢崎直は更に言葉を尽くして続けた。
「空手は対人用の格闘技で、主に打撃や蹴りなどで相手を攻撃します。攻撃する場所は、人体の急所を狙うことが多いです。相手に対して効果的な攻撃というヤツです。ですが、これは対人用なので、他の構造の違う生物には効かなかったり効きにくかったりすると思います。モンスターを相手にするならば、効果は半減するでしょうし、何より剣の間合い相手なら太刀打ちする術もありますが、魔法相手の技はありません。何故なら、私の世界に魔法がないので、魔法相手に技術を特化させる必要がなかったからです。あと、自らの肉体を使う以上、飛び道具的な攻撃もありません。」
沢崎直が一気に説明をすると、師匠は自分の中で考えを纏めるために黙り込んだ。
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