転生したらついてましたァァァァァ!!!

夢追子

文字の大きさ
上 下
111 / 187
第二部

第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㉖『師匠の自論』

しおりを挟む
      二十六

 結局、ワイルドベアーの事も記憶を取り戻す事も有益な情報は得られず、二人の会話は大した盛り上がりも見せずに収束に向かっていた。
 話の中心人物でありながら、完全に蚊帳の外の沢崎直は、時折確認のために尋ねられたことに返事をするだけで、それ以外口を開くことはせず黙って二人の間で大人しく座っていた。
(余計なこと言ったらダメだし……。)
 少しでも妙なことを言っても、ちらつかせてもいけない状況なのは理解できたので、二人が沢崎直に構わず話をしてくれたのはむしろ有り難かった。
 だが、二人の会話の間はとても暇だったので、心の中だけはとても多弁だった。そうでもしていないと話を聞き逃す恐れもあるので、これは必要な措置だ。誰にも届くことのないツッコミの数々も、自分では評価に値すると思えるキラーワードも、心の中では潤沢に披露されていた。
「ヴィル。医者が知らねぇことを俺に聞くな。俺は剣の師匠だぞ?忘れたのか?」
「分かっていますよ、そんなこと。剣の腕だけは、評価していますから。ですから、師匠に聞きたかったのは、主にワイルドベアーの案件と、旅の中で妙薬や名医の噂などは聞いたことがないかという点です。」
「そうか。じゃあ、知らねぇ。まあ、見た感じアル坊は元気そうじゃねぇか?それでいいんじゃねぇの?記憶はあって困るもんじゃねぇが、なくてもどうにかなるだろ?」
 師匠はとっても大雑把な自論を展開して下さる。だが、そんな大雑把な自論が沢崎直にとっては有り難いものだった。
 だが、ヴィルにとっては違うらしい。あまりにも乱暴でワイルドで大雑把な意見には承服できないようで、すっと目を細めた。
「師匠。酒で記憶を頻繁に失くす貴方とアルバート様を一緒にしないでいただけますか?」
 ヴィルのイケボが温度を下げていく。
 しかし、師匠はそんな弟子の怒りを取り合わずに、実に面倒くさそうに続けた。
「案外、酒でも飲んですっころんで頭でも打ったんじゃねぇか?アル坊だって飲みたい夜もあるよな?で、運が悪く記憶がすっ飛んじまった。そういう時は、もう一度似たような衝撃を与えればって説は、有効か?」
「無効です!」
 沢崎直よりも早くヴィルが否定してくれる。
 さすがに沢崎直も師匠の提案した衝撃説には否定的だ。
(……ないものは衝撃でも戻んないよ。)
「別に俺だって、アル坊の頭をぶん殴ろうとは思ってねぇよ。試してみて、更に記憶が飛んでったら責任取れねぇし。だがな、記憶喪失とワイルドベアーのことはあんまり関係ねぇんじゃねぇか?」
 『ワイルドベアー』という単語が出るたびに、沢崎直の心臓がびくっと跳ねる。そろそろ心臓に悪いので、この話題は終わりにしてほしいのだが……。
「まあ、個人的にはワイルドベアーなんて、大したことないだろ?ってのが、俺の感想だな。倒した方法が素手っぽいってのが、確かに少々気にはなるが……。剣や魔法なら、いくらでも倒せるだろ?いっそ、今度剣の腹でぶん殴ってみるか?それでぶっ倒せたら、斬ってねぇし、魔法でもねぇよな?」
 そう言うと、師匠はシミュレーションを脳内で始めたようで、手を動かし始めた。
(くまさん、頭がべこーんって平らになっちゃいそう……。)
 今後、遠くない未来に師匠に倒される予定のまだ見ぬくまさんの冥福を沢崎直はお祈りした。
(……お気の毒に……。くまさんたち、今後は少しの間、森の奥に隠れていた方がいいよ。)
 心の中でワイルドベアーへと呼びかけては見たが、きっと届きはしないだろう。
「重要なことはそこではなくてですね。」
 いい加減、ヴィルさんが何の収穫もない師匠との会話に焦れ始める。
 しかし、焦れていたのはヴィルだけではなかったようで、ヴィルが何か話を展開する前に師匠は素早く口を挟んだ。
「ああ、分かってる。重要なのは、そこじゃない。重要なのは、『酒』だ。」
「は?」
「………。」
 ヴィルは沈黙し、沢崎直は間抜けな声を上げた。
 二人が戸惑っているのをいいことに、師匠は自分のペースで続けていく。
「手土産に持ってこいと手紙に書いただろ?ほら、酒はどこだ?」
「……ば、馬車の中です!」
 沢崎直は素直に師匠の質問に答えた。
 何故なら、沢崎直にとっては地雷だらけの二人の会話をもう続けて欲しくなかったからだ。
 素直な弟子の返事に、師匠は満足そうに頷いた。
「そうかそうか。アル坊。お前は昔から、素直でかわいいな。」
 師匠に褒められた。
 沢崎直は愛想笑いを浮かべると、持っていた剣を置いて立ち上がった。
「お酒、取ってきます!」
 ヴィルは絶句していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...