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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㉔『お邪魔します』
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二十四
扉が開かれ、ようやく建物の中に入ることになる。
師匠に促され、ヴィルの後に続いて、沢崎直は外からでも分かる酒の匂いを感じながら、恐る恐る扉を潜り抜けた。
「……お、お邪魔しまーす……。」
小さな声で入室の挨拶をして、そっと室内に足を踏み入れる。
すると、どうでしょう。
眼前には想像通りの光景が広がった。
(……うわぁ……。)
それは、まさに惨状とも呼べる光景である。
足の踏み場もないほど酒瓶が転がり、およそ人が現在進行形で暮らしているとは到底思えない散らかりようだ。ほんの数刻前に、ここで何かしらの惨事が起きたと説明された方がまだ納得がいく。
沢崎直が知っている現代のごみ屋敷と違うのは、転がっているのがほぼ酒瓶などの酒に関する物だけであるということだ。
一応、申し訳程度に生活感を感じさせる脱ぎっぱなしの服などがなければ、乱痴気騒ぎの宴会の後くらいにしか思えないだろう。
室内の惨状に足踏みをする沢崎直とは違い、ヴィルは一瞬顔を顰めるだけでずかずかと室内を進んでいった。
まず、窓際へ行き、換気のために窓を全開にするヴィル。
酒臭さで充満する室内に新鮮な空気が取り入れられた。
「師匠!いつになったら貴方は!」
窓を開けた途端、ヴィルが説教モード入るのが沢崎直にも分かった。
付き合いのまだ浅い沢崎直にも分かるということは、説教をされる側の師匠にも安易に予想できたことだろう。師匠は知らん顔して聞き流すために明後日の方向を向いていた。
「……。」
いつも主人相手には決して声を荒らげない従者のヴィルが、師匠のあまりの有り様に怒りを覚えている。その美しい額に青筋を浮かび上がらせている。
沢崎直はそんな推しの様子をぽかんと口を開けて見つめていた。
「師匠。貴方は曲がりなりにも、師匠なのですよ!一時は騎士団の団長にまでなったのでしょう?そんな態度では弟子に示しがつきません!」
手慣れた様子でテキパキと酒瓶を拾い上げながら、ヴィルは室内を縦横無尽に整えていく。
師匠は、そんなヴィルの言葉を聞き流して、欠伸を繰り返していた。
(……何か、いつものやり取りなんだろうな、これ。)
しっかり者の弟子と、だらしのない師匠。その両者で長年繰り広げられてきた年季の入った感を、沢崎直は二人のやり取りに感じていた。
「……あった。これです。俺が送った手紙です。」
途中、酒瓶の間に隠れていた手紙を拾い上げ、師匠へと渡す。
「片づけが終わるまでに読んでおいてください。」
しっかりと念を押し、片づけに戻るヴィル。
師匠はさすがにやることも無く手持無沙汰らしく、つまらなそうに手紙を開いて目を通し始めた。
沢崎直はまだ開いたままの口を閉じることが出来ず、有能な従者の手で瞬く間に整えられていく室内の変わりように驚くことしかできなかった。
(……すごいなぁ、ヴィルさん。)
ヴィルの邪魔にならないように、隅っこに立って片づけを見守る沢崎直。
一度、沢崎直の足元にゴロゴロと転がって来た酒瓶があったので、反射的にそれを拾った。もちろん剣を両手で抱きしめたままである。
すると、すぐにそれに気づいたヴィルが、酒瓶を受け取りに来る。
「アルバート様。申し訳ございません。すぐに片づけますので。」
謝罪をして酒瓶を回収すると、ヴィルは戻っていく。
沢崎直が何か言う間もない素早い行動であった。
しばらくそのままぽかんとしていた沢崎直だが、いつの間にか近くに来ていた師匠に声を掛けられる。
「アル坊。」
「はい。」
反射的に返事をして、声のした方向を探す。
沢崎直があまりにもぼーっとしていたからか、師匠は怪訝そうな視線を向けていた。
「大丈夫か?酒の匂いだけで酔っぱらったか?」
「いえ。大丈夫です。」
沢崎直は機械的に答えた。いくら室内が酒臭くても、匂いだけで酔っぱらうほど軟ではない。
だが、すぐに気づく。
(……そういえば、アルバート氏は酒に弱かったんだっけ?)
気づきはしたが、今更嘘を吐くのは明らかに怪しいので、とりあえずへへへと笑ってごまかすことにした。
「……?」
師匠は何か言いたそうにしていたが、それよりも先にヴィルから声がかかる。
「アルバート様。片づけが終わりましたので、こちらにお座りください。」
ヴィルが指し示す一角は、既に片づけと掃除が済んだようで、キレイで清潔になっていた。
ヴィルは主人のための休憩スペースを最優先で確保した後、更に室内の片づけに取り掛かる。
「あ、あの……。」
沢崎直は、色々と迷ったがヴィルに促されたので、剣を抱きしめたまま大人しく椅子に座ることにした。
扉が開かれ、ようやく建物の中に入ることになる。
師匠に促され、ヴィルの後に続いて、沢崎直は外からでも分かる酒の匂いを感じながら、恐る恐る扉を潜り抜けた。
「……お、お邪魔しまーす……。」
小さな声で入室の挨拶をして、そっと室内に足を踏み入れる。
すると、どうでしょう。
眼前には想像通りの光景が広がった。
(……うわぁ……。)
それは、まさに惨状とも呼べる光景である。
足の踏み場もないほど酒瓶が転がり、およそ人が現在進行形で暮らしているとは到底思えない散らかりようだ。ほんの数刻前に、ここで何かしらの惨事が起きたと説明された方がまだ納得がいく。
沢崎直が知っている現代のごみ屋敷と違うのは、転がっているのがほぼ酒瓶などの酒に関する物だけであるということだ。
一応、申し訳程度に生活感を感じさせる脱ぎっぱなしの服などがなければ、乱痴気騒ぎの宴会の後くらいにしか思えないだろう。
室内の惨状に足踏みをする沢崎直とは違い、ヴィルは一瞬顔を顰めるだけでずかずかと室内を進んでいった。
まず、窓際へ行き、換気のために窓を全開にするヴィル。
酒臭さで充満する室内に新鮮な空気が取り入れられた。
「師匠!いつになったら貴方は!」
窓を開けた途端、ヴィルが説教モード入るのが沢崎直にも分かった。
付き合いのまだ浅い沢崎直にも分かるということは、説教をされる側の師匠にも安易に予想できたことだろう。師匠は知らん顔して聞き流すために明後日の方向を向いていた。
「……。」
いつも主人相手には決して声を荒らげない従者のヴィルが、師匠のあまりの有り様に怒りを覚えている。その美しい額に青筋を浮かび上がらせている。
沢崎直はそんな推しの様子をぽかんと口を開けて見つめていた。
「師匠。貴方は曲がりなりにも、師匠なのですよ!一時は騎士団の団長にまでなったのでしょう?そんな態度では弟子に示しがつきません!」
手慣れた様子でテキパキと酒瓶を拾い上げながら、ヴィルは室内を縦横無尽に整えていく。
師匠は、そんなヴィルの言葉を聞き流して、欠伸を繰り返していた。
(……何か、いつものやり取りなんだろうな、これ。)
しっかり者の弟子と、だらしのない師匠。その両者で長年繰り広げられてきた年季の入った感を、沢崎直は二人のやり取りに感じていた。
「……あった。これです。俺が送った手紙です。」
途中、酒瓶の間に隠れていた手紙を拾い上げ、師匠へと渡す。
「片づけが終わるまでに読んでおいてください。」
しっかりと念を押し、片づけに戻るヴィル。
師匠はさすがにやることも無く手持無沙汰らしく、つまらなそうに手紙を開いて目を通し始めた。
沢崎直はまだ開いたままの口を閉じることが出来ず、有能な従者の手で瞬く間に整えられていく室内の変わりように驚くことしかできなかった。
(……すごいなぁ、ヴィルさん。)
ヴィルの邪魔にならないように、隅っこに立って片づけを見守る沢崎直。
一度、沢崎直の足元にゴロゴロと転がって来た酒瓶があったので、反射的にそれを拾った。もちろん剣を両手で抱きしめたままである。
すると、すぐにそれに気づいたヴィルが、酒瓶を受け取りに来る。
「アルバート様。申し訳ございません。すぐに片づけますので。」
謝罪をして酒瓶を回収すると、ヴィルは戻っていく。
沢崎直が何か言う間もない素早い行動であった。
しばらくそのままぽかんとしていた沢崎直だが、いつの間にか近くに来ていた師匠に声を掛けられる。
「アル坊。」
「はい。」
反射的に返事をして、声のした方向を探す。
沢崎直があまりにもぼーっとしていたからか、師匠は怪訝そうな視線を向けていた。
「大丈夫か?酒の匂いだけで酔っぱらったか?」
「いえ。大丈夫です。」
沢崎直は機械的に答えた。いくら室内が酒臭くても、匂いだけで酔っぱらうほど軟ではない。
だが、すぐに気づく。
(……そういえば、アルバート氏は酒に弱かったんだっけ?)
気づきはしたが、今更嘘を吐くのは明らかに怪しいので、とりあえずへへへと笑ってごまかすことにした。
「……?」
師匠は何か言いたそうにしていたが、それよりも先にヴィルから声がかかる。
「アルバート様。片づけが終わりましたので、こちらにお座りください。」
ヴィルが指し示す一角は、既に片づけと掃除が済んだようで、キレイで清潔になっていた。
ヴィルは主人のための休憩スペースを最優先で確保した後、更に室内の片づけに取り掛かる。
「あ、あの……。」
沢崎直は、色々と迷ったがヴィルに促されたので、剣を抱きしめたまま大人しく椅子に座ることにした。
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