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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㉓『初対面』
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二十三
扉が音を立てて開くには開いたのだが……。
開いたのは、十数センチほどの隙間だけだった。
扉を薄く開けて、中から誰かが外を覗いている。
「……。」
無言である。
扉の前に陣取るヴィルは、扉の隙間から自らの姿が中の人物に見えるように移動して、中の人物へと声を掛けた。
「師匠。手土産の酒を持って帰りますが、よろしいですか?」
「……ヴィルヘルムか……。」
ヴィルの姿を確認して、ようやく建物の中の人物がぼそっと声を漏らした。
ヴィルは扉の内側の人物を射抜くように見つめ、はっきりとした口調で声を掛ける。
「師匠。いい加減、扉を開けてください。借金取りではなく、弟子のヴィルヘルムです。」
(……あっ、うん。借金取りとか来ちゃう家なんだ……。)
沢崎直は師匠の説明をしようとすると、皆が一様に言葉を濁し口が重くなる原因の一端を垣間見た気がした。
ヴィルの堂々たる言葉に、ようやく扉がゆっくりと開かれる。
呪文で開く魔法の扉でもあるまいに、などと沢崎直は思っていたが、もちろん口には出さなかった。
ぎぃぃぃぃいい
期待と不安が入り混じる沢崎直が見つめる中、今度こそ扉は全開となり、中から一人の人物が現れる。
中から現れたのは、一人の男性であった。
(……この人が、師匠?)
執事のリヒターの説明通り、確かに堂々たる体躯を持つ中年の男性である。眼前に立つ長身のヴィルと比べても遜色はない背丈に、頑丈さを感じる肉体。
だが、そんなことよりも何よりも……。
(……うん。酒臭い。)
たった今まで酒を浴びていたのではないかと疑うくらいの酒臭さで、その人物は立っていた。
無造作ヘアーと言えば聞こえがいいが、手櫛で整えることすらしていないぼさぼさの短髪。短髪と表現したが、長いか短いかで言えば短いだけで、意図してその長さにしているというには伸びっぱなし感が否めない。無精髭によれっとした服。騎士とか英雄とか、そんなことを感じさせる要素は一ミリもない。
剣すら持たず、腹を掻き、大きな欠伸を繰り返す。
「……てめぇ、こんな朝っぱらからでけぇ声出しやがって。何様のつもりだ?あん?」
どうやらご機嫌斜めらしく、ヴィルに凄み始める男性。
だが、ヴィルは歯牙にもかけず、その上、意に介さずで臆することなく続けた。
「朝ではなく、もう昼です。本日お伺いする旨を認めた手紙を出しておいたはずですが?」
「手紙?知らねぇよ、そんなもん。」
(……ヤギさんが食べちゃったのかな?)
沢崎直は険悪な二人の雰囲気に耐えられず、微笑ましい想像で現実逃避をしていた。
幼い頃に聞いた白と黒のヤギさんがいつまで経っても届かない手紙のやり取りをする童謡を思い出し、心の平穏を保つ。
「ん?そこにいるのは、アル坊か?」
今まで扉の前に立っていたヴィルにばかり気を取られていた男性が、背後に控えて大人しくしていたアルバートに気付く。
名前を呼ばれては無視するわけにもいかず、沢崎直は少しだけ前に出てご挨拶をすることにした。
「は、はじめま……じゃなかった。お久しぶりです、師匠。」
ヴィル相手には険悪だった男性だが、背後のアルバートを見留めた途端、破顔する。
「おう!アル坊!元気だったか?」
「は、はい。」
戸惑いながらも返事を返す沢崎直。
急に人懐っこい笑顔を浮かべた男性は、眼の前に立っているヴィルをバンバンと叩き始める。
「ほら、見ろ。俺の言った通りだっただろ?心配しなくても、アル坊はそのうちひょっこり帰って来るって。そうだろ?ヴィル。」
「師匠。いちいち叩かないでください。」
未だヴィルは少々迷惑そうにしていたが、先程までの険悪なムードは一変し、二人の間には気安い空気が流れる。
(……寝起きだったから、不機嫌だったのかな?)
まだ目の前の師匠と呼ばれる男性がどんな人物なのかいまいち掴み切れていない沢崎直は、様子を窺うように遠巻きにして観察していた。
だが、それでも心の何処かがざわつくのを確かに感じていた。
扉が音を立てて開くには開いたのだが……。
開いたのは、十数センチほどの隙間だけだった。
扉を薄く開けて、中から誰かが外を覗いている。
「……。」
無言である。
扉の前に陣取るヴィルは、扉の隙間から自らの姿が中の人物に見えるように移動して、中の人物へと声を掛けた。
「師匠。手土産の酒を持って帰りますが、よろしいですか?」
「……ヴィルヘルムか……。」
ヴィルの姿を確認して、ようやく建物の中の人物がぼそっと声を漏らした。
ヴィルは扉の内側の人物を射抜くように見つめ、はっきりとした口調で声を掛ける。
「師匠。いい加減、扉を開けてください。借金取りではなく、弟子のヴィルヘルムです。」
(……あっ、うん。借金取りとか来ちゃう家なんだ……。)
沢崎直は師匠の説明をしようとすると、皆が一様に言葉を濁し口が重くなる原因の一端を垣間見た気がした。
ヴィルの堂々たる言葉に、ようやく扉がゆっくりと開かれる。
呪文で開く魔法の扉でもあるまいに、などと沢崎直は思っていたが、もちろん口には出さなかった。
ぎぃぃぃぃいい
期待と不安が入り混じる沢崎直が見つめる中、今度こそ扉は全開となり、中から一人の人物が現れる。
中から現れたのは、一人の男性であった。
(……この人が、師匠?)
執事のリヒターの説明通り、確かに堂々たる体躯を持つ中年の男性である。眼前に立つ長身のヴィルと比べても遜色はない背丈に、頑丈さを感じる肉体。
だが、そんなことよりも何よりも……。
(……うん。酒臭い。)
たった今まで酒を浴びていたのではないかと疑うくらいの酒臭さで、その人物は立っていた。
無造作ヘアーと言えば聞こえがいいが、手櫛で整えることすらしていないぼさぼさの短髪。短髪と表現したが、長いか短いかで言えば短いだけで、意図してその長さにしているというには伸びっぱなし感が否めない。無精髭によれっとした服。騎士とか英雄とか、そんなことを感じさせる要素は一ミリもない。
剣すら持たず、腹を掻き、大きな欠伸を繰り返す。
「……てめぇ、こんな朝っぱらからでけぇ声出しやがって。何様のつもりだ?あん?」
どうやらご機嫌斜めらしく、ヴィルに凄み始める男性。
だが、ヴィルは歯牙にもかけず、その上、意に介さずで臆することなく続けた。
「朝ではなく、もう昼です。本日お伺いする旨を認めた手紙を出しておいたはずですが?」
「手紙?知らねぇよ、そんなもん。」
(……ヤギさんが食べちゃったのかな?)
沢崎直は険悪な二人の雰囲気に耐えられず、微笑ましい想像で現実逃避をしていた。
幼い頃に聞いた白と黒のヤギさんがいつまで経っても届かない手紙のやり取りをする童謡を思い出し、心の平穏を保つ。
「ん?そこにいるのは、アル坊か?」
今まで扉の前に立っていたヴィルにばかり気を取られていた男性が、背後に控えて大人しくしていたアルバートに気付く。
名前を呼ばれては無視するわけにもいかず、沢崎直は少しだけ前に出てご挨拶をすることにした。
「は、はじめま……じゃなかった。お久しぶりです、師匠。」
ヴィル相手には険悪だった男性だが、背後のアルバートを見留めた途端、破顔する。
「おう!アル坊!元気だったか?」
「は、はい。」
戸惑いながらも返事を返す沢崎直。
急に人懐っこい笑顔を浮かべた男性は、眼の前に立っているヴィルをバンバンと叩き始める。
「ほら、見ろ。俺の言った通りだっただろ?心配しなくても、アル坊はそのうちひょっこり帰って来るって。そうだろ?ヴィル。」
「師匠。いちいち叩かないでください。」
未だヴィルは少々迷惑そうにしていたが、先程までの険悪なムードは一変し、二人の間には気安い空気が流れる。
(……寝起きだったから、不機嫌だったのかな?)
まだ目の前の師匠と呼ばれる男性がどんな人物なのかいまいち掴み切れていない沢崎直は、様子を窺うように遠巻きにして観察していた。
だが、それでも心の何処かがざわつくのを確かに感じていた。
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