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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!⑳『ついに出発!』
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二十
遠足の前の日のような気持ちで準備に勤しむ沢崎直。
準備とはいっても、大したことはない。どのくらいの道行きなのかは分からないし、何が必要かも分からない。なので沢崎直に出来ることは、殆どない。
それでも、強いと評判の猛者である師匠という人物は、沢崎直の興味を強く刺激していた。沢崎直にとっては、珍しい生き物に会いに行くくらいの感覚であった。
(街外れに住んでるって、ヴィルさん言ってたよね?どのくらい遠いのかな?)
外出をしたのは、先日のロバートとの一件以来である。
あの時のヴィルとのデートイベントは本当に楽しかった。
沢崎直は心が弾むのを感じていた。
思わず鼻歌を歌ってしまうくらいにはである。
「ふーん♪ふーん♪」
意味も無く室内を歩き回り、浮き立つ気持ちを抑えられない。
そんな室内にノックの音が響く。
コンコン
「アルバート様。」
扉の向こうから聞こえたのは従者のヴィルのイケボである。
「はーい。」
弾んだ声音で答えると、従者のヴィルを招き入れる沢崎直。
お出かけに気分を良くした様子の主人に、ヴィルは微笑んだ。
「準備はよろしいですか?」
「はい!」
尋ねられて元気に返事をする沢崎直。
そのまま二人で連れ立って部屋を出ようとして、先導していたヴィルがあることに気付き立ち止まった。
「アルバート様。」
「?」
突然、立ち止まったヴィルを見上げ、視線だけで尋ねる沢崎直。
ヴィルは部屋の奥を見て確認した後、主人を見つめて尋ねた。
「剣はお持ちにならずともよろしいですか?」
(……えっ?)
そう尋ねられて、先程ヴィルが確認した部屋の奥へと視線をやる。そこには、アルバート専用の剣が飾られていた。
もちろん、いつも通りヴィルの腰にも剣は下げられている。
そこまで確認して、ようやく沢崎直は大事なことを思い出した。
(……師匠って、剣の師匠だったぁぁぁぁぁぁぁ!!)
街中に遊びに行くなら、ヴィルも主人が帯剣しないことを何も言わなかっただろうが、今から行くのは幼い頃より剣を習ってきた師匠の家なのである。さすがに、ヴィルも確認するくらいの気にはなったのだろう。
完全に剣のことを失念していた沢崎直は、その事実に気付いた途端に分かりやすく慌て始めた。
「あっ、うあ。あの。け、剣ですよね。えっと。」
失踪から戻ってきた記憶喪失の主人が、剣を持つことに対して何故かあまり乗り気でないことは従者のヴィルも了解しているらしく、慌て始めた主人を宥めるように声を掛ける。
「大丈夫ですよ、アルバート様。本日は、師匠の顔を見に行くだけですから。剣がなくとも問題ないはずです。」
「で、でも!」
(師匠の所に剣なしで行くなんて、空手道場に普段着で道着も持たずに行くのと変わりないはずだよ!何しに来た?って感じじゃん!)
そんな舐めた奴、異世界でも許してもらえないんじゃなかろうか……。
武術というのは、半分が精神修行でもあると思うし、武道というのは道を教えることから礼儀作法にも厳しい。いくら習い事程度であっても、武道を習っていた者として、それはまずいんじゃないかと沢崎直は強く感じていた。
それに、沢崎直は帯剣の有無だけではない他の事実にも今更ながら気づいてしまった。
せっかく幼い頃から剣を教えたというのに、記憶喪失だからと剣が全く出来なくなっていたら師匠としてはどう思うのだろうか?そんな教え甲斐のない者は弟子失格なのではないか?
(……剣出来ないってバレたら、怒られちゃう?)
「し、師匠は怒ったら怖い方ですか?」
恐怖に怯えながら、沢崎直はヴィルへと尋ねる。
ヴィルは出発直前になって急に慌て始めた主人に呆れず、根気強く付き合ってくれる。
「大丈夫です、アルバート様。師匠が怒ることがあるとすれば、おそらく別の事です。」
「べ、別のこと?」
「はい。師匠はきっと手土産を忘れたりしたら怒るとは思いますが、他の事ではあまり怒ったりしません。弟子に怒ってまで指導するほど熱心な方ではありませんし、面倒事は極端に嫌う方ですから、面倒になれば放っておきます。怒りという感情を見せるほどやる気になることは滅多にありませんので、大丈夫です。手土産さえ十分でしたら、怒って追い返されることはまずないでしょう。」
ヴィルの師匠の説明のあまりの内容に、少しずつ沢崎直の恐慌は収まっていく。
だが、冷静になっていく心とは反対に、まだ見ぬ師匠という人物への疑問は余計に深まっていくばかりだった。
(……どういう人なんだろ?)
今から沢崎直が会いに行く師匠は、沢崎直にとってどんな人物となるだろうか……。
今はまだ、その答えを知る者は運命を司る神のみであった。
遠足の前の日のような気持ちで準備に勤しむ沢崎直。
準備とはいっても、大したことはない。どのくらいの道行きなのかは分からないし、何が必要かも分からない。なので沢崎直に出来ることは、殆どない。
それでも、強いと評判の猛者である師匠という人物は、沢崎直の興味を強く刺激していた。沢崎直にとっては、珍しい生き物に会いに行くくらいの感覚であった。
(街外れに住んでるって、ヴィルさん言ってたよね?どのくらい遠いのかな?)
外出をしたのは、先日のロバートとの一件以来である。
あの時のヴィルとのデートイベントは本当に楽しかった。
沢崎直は心が弾むのを感じていた。
思わず鼻歌を歌ってしまうくらいにはである。
「ふーん♪ふーん♪」
意味も無く室内を歩き回り、浮き立つ気持ちを抑えられない。
そんな室内にノックの音が響く。
コンコン
「アルバート様。」
扉の向こうから聞こえたのは従者のヴィルのイケボである。
「はーい。」
弾んだ声音で答えると、従者のヴィルを招き入れる沢崎直。
お出かけに気分を良くした様子の主人に、ヴィルは微笑んだ。
「準備はよろしいですか?」
「はい!」
尋ねられて元気に返事をする沢崎直。
そのまま二人で連れ立って部屋を出ようとして、先導していたヴィルがあることに気付き立ち止まった。
「アルバート様。」
「?」
突然、立ち止まったヴィルを見上げ、視線だけで尋ねる沢崎直。
ヴィルは部屋の奥を見て確認した後、主人を見つめて尋ねた。
「剣はお持ちにならずともよろしいですか?」
(……えっ?)
そう尋ねられて、先程ヴィルが確認した部屋の奥へと視線をやる。そこには、アルバート専用の剣が飾られていた。
もちろん、いつも通りヴィルの腰にも剣は下げられている。
そこまで確認して、ようやく沢崎直は大事なことを思い出した。
(……師匠って、剣の師匠だったぁぁぁぁぁぁぁ!!)
街中に遊びに行くなら、ヴィルも主人が帯剣しないことを何も言わなかっただろうが、今から行くのは幼い頃より剣を習ってきた師匠の家なのである。さすがに、ヴィルも確認するくらいの気にはなったのだろう。
完全に剣のことを失念していた沢崎直は、その事実に気付いた途端に分かりやすく慌て始めた。
「あっ、うあ。あの。け、剣ですよね。えっと。」
失踪から戻ってきた記憶喪失の主人が、剣を持つことに対して何故かあまり乗り気でないことは従者のヴィルも了解しているらしく、慌て始めた主人を宥めるように声を掛ける。
「大丈夫ですよ、アルバート様。本日は、師匠の顔を見に行くだけですから。剣がなくとも問題ないはずです。」
「で、でも!」
(師匠の所に剣なしで行くなんて、空手道場に普段着で道着も持たずに行くのと変わりないはずだよ!何しに来た?って感じじゃん!)
そんな舐めた奴、異世界でも許してもらえないんじゃなかろうか……。
武術というのは、半分が精神修行でもあると思うし、武道というのは道を教えることから礼儀作法にも厳しい。いくら習い事程度であっても、武道を習っていた者として、それはまずいんじゃないかと沢崎直は強く感じていた。
それに、沢崎直は帯剣の有無だけではない他の事実にも今更ながら気づいてしまった。
せっかく幼い頃から剣を教えたというのに、記憶喪失だからと剣が全く出来なくなっていたら師匠としてはどう思うのだろうか?そんな教え甲斐のない者は弟子失格なのではないか?
(……剣出来ないってバレたら、怒られちゃう?)
「し、師匠は怒ったら怖い方ですか?」
恐怖に怯えながら、沢崎直はヴィルへと尋ねる。
ヴィルは出発直前になって急に慌て始めた主人に呆れず、根気強く付き合ってくれる。
「大丈夫です、アルバート様。師匠が怒ることがあるとすれば、おそらく別の事です。」
「べ、別のこと?」
「はい。師匠はきっと手土産を忘れたりしたら怒るとは思いますが、他の事ではあまり怒ったりしません。弟子に怒ってまで指導するほど熱心な方ではありませんし、面倒事は極端に嫌う方ですから、面倒になれば放っておきます。怒りという感情を見せるほどやる気になることは滅多にありませんので、大丈夫です。手土産さえ十分でしたら、怒って追い返されることはまずないでしょう。」
ヴィルの師匠の説明のあまりの内容に、少しずつ沢崎直の恐慌は収まっていく。
だが、冷静になっていく心とは反対に、まだ見ぬ師匠という人物への疑問は余計に深まっていくばかりだった。
(……どういう人なんだろ?)
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今はまだ、その答えを知る者は運命を司る神のみであった。
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