105 / 187
第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!⑳『ついに出発!』
しおりを挟む
二十
遠足の前の日のような気持ちで準備に勤しむ沢崎直。
準備とはいっても、大したことはない。どのくらいの道行きなのかは分からないし、何が必要かも分からない。なので沢崎直に出来ることは、殆どない。
それでも、強いと評判の猛者である師匠という人物は、沢崎直の興味を強く刺激していた。沢崎直にとっては、珍しい生き物に会いに行くくらいの感覚であった。
(街外れに住んでるって、ヴィルさん言ってたよね?どのくらい遠いのかな?)
外出をしたのは、先日のロバートとの一件以来である。
あの時のヴィルとのデートイベントは本当に楽しかった。
沢崎直は心が弾むのを感じていた。
思わず鼻歌を歌ってしまうくらいにはである。
「ふーん♪ふーん♪」
意味も無く室内を歩き回り、浮き立つ気持ちを抑えられない。
そんな室内にノックの音が響く。
コンコン
「アルバート様。」
扉の向こうから聞こえたのは従者のヴィルのイケボである。
「はーい。」
弾んだ声音で答えると、従者のヴィルを招き入れる沢崎直。
お出かけに気分を良くした様子の主人に、ヴィルは微笑んだ。
「準備はよろしいですか?」
「はい!」
尋ねられて元気に返事をする沢崎直。
そのまま二人で連れ立って部屋を出ようとして、先導していたヴィルがあることに気付き立ち止まった。
「アルバート様。」
「?」
突然、立ち止まったヴィルを見上げ、視線だけで尋ねる沢崎直。
ヴィルは部屋の奥を見て確認した後、主人を見つめて尋ねた。
「剣はお持ちにならずともよろしいですか?」
(……えっ?)
そう尋ねられて、先程ヴィルが確認した部屋の奥へと視線をやる。そこには、アルバート専用の剣が飾られていた。
もちろん、いつも通りヴィルの腰にも剣は下げられている。
そこまで確認して、ようやく沢崎直は大事なことを思い出した。
(……師匠って、剣の師匠だったぁぁぁぁぁぁぁ!!)
街中に遊びに行くなら、ヴィルも主人が帯剣しないことを何も言わなかっただろうが、今から行くのは幼い頃より剣を習ってきた師匠の家なのである。さすがに、ヴィルも確認するくらいの気にはなったのだろう。
完全に剣のことを失念していた沢崎直は、その事実に気付いた途端に分かりやすく慌て始めた。
「あっ、うあ。あの。け、剣ですよね。えっと。」
失踪から戻ってきた記憶喪失の主人が、剣を持つことに対して何故かあまり乗り気でないことは従者のヴィルも了解しているらしく、慌て始めた主人を宥めるように声を掛ける。
「大丈夫ですよ、アルバート様。本日は、師匠の顔を見に行くだけですから。剣がなくとも問題ないはずです。」
「で、でも!」
(師匠の所に剣なしで行くなんて、空手道場に普段着で道着も持たずに行くのと変わりないはずだよ!何しに来た?って感じじゃん!)
そんな舐めた奴、異世界でも許してもらえないんじゃなかろうか……。
武術というのは、半分が精神修行でもあると思うし、武道というのは道を教えることから礼儀作法にも厳しい。いくら習い事程度であっても、武道を習っていた者として、それはまずいんじゃないかと沢崎直は強く感じていた。
それに、沢崎直は帯剣の有無だけではない他の事実にも今更ながら気づいてしまった。
せっかく幼い頃から剣を教えたというのに、記憶喪失だからと剣が全く出来なくなっていたら師匠としてはどう思うのだろうか?そんな教え甲斐のない者は弟子失格なのではないか?
(……剣出来ないってバレたら、怒られちゃう?)
「し、師匠は怒ったら怖い方ですか?」
恐怖に怯えながら、沢崎直はヴィルへと尋ねる。
ヴィルは出発直前になって急に慌て始めた主人に呆れず、根気強く付き合ってくれる。
「大丈夫です、アルバート様。師匠が怒ることがあるとすれば、おそらく別の事です。」
「べ、別のこと?」
「はい。師匠はきっと手土産を忘れたりしたら怒るとは思いますが、他の事ではあまり怒ったりしません。弟子に怒ってまで指導するほど熱心な方ではありませんし、面倒事は極端に嫌う方ですから、面倒になれば放っておきます。怒りという感情を見せるほどやる気になることは滅多にありませんので、大丈夫です。手土産さえ十分でしたら、怒って追い返されることはまずないでしょう。」
ヴィルの師匠の説明のあまりの内容に、少しずつ沢崎直の恐慌は収まっていく。
だが、冷静になっていく心とは反対に、まだ見ぬ師匠という人物への疑問は余計に深まっていくばかりだった。
(……どういう人なんだろ?)
今から沢崎直が会いに行く師匠は、沢崎直にとってどんな人物となるだろうか……。
今はまだ、その答えを知る者は運命を司る神のみであった。
遠足の前の日のような気持ちで準備に勤しむ沢崎直。
準備とはいっても、大したことはない。どのくらいの道行きなのかは分からないし、何が必要かも分からない。なので沢崎直に出来ることは、殆どない。
それでも、強いと評判の猛者である師匠という人物は、沢崎直の興味を強く刺激していた。沢崎直にとっては、珍しい生き物に会いに行くくらいの感覚であった。
(街外れに住んでるって、ヴィルさん言ってたよね?どのくらい遠いのかな?)
外出をしたのは、先日のロバートとの一件以来である。
あの時のヴィルとのデートイベントは本当に楽しかった。
沢崎直は心が弾むのを感じていた。
思わず鼻歌を歌ってしまうくらいにはである。
「ふーん♪ふーん♪」
意味も無く室内を歩き回り、浮き立つ気持ちを抑えられない。
そんな室内にノックの音が響く。
コンコン
「アルバート様。」
扉の向こうから聞こえたのは従者のヴィルのイケボである。
「はーい。」
弾んだ声音で答えると、従者のヴィルを招き入れる沢崎直。
お出かけに気分を良くした様子の主人に、ヴィルは微笑んだ。
「準備はよろしいですか?」
「はい!」
尋ねられて元気に返事をする沢崎直。
そのまま二人で連れ立って部屋を出ようとして、先導していたヴィルがあることに気付き立ち止まった。
「アルバート様。」
「?」
突然、立ち止まったヴィルを見上げ、視線だけで尋ねる沢崎直。
ヴィルは部屋の奥を見て確認した後、主人を見つめて尋ねた。
「剣はお持ちにならずともよろしいですか?」
(……えっ?)
そう尋ねられて、先程ヴィルが確認した部屋の奥へと視線をやる。そこには、アルバート専用の剣が飾られていた。
もちろん、いつも通りヴィルの腰にも剣は下げられている。
そこまで確認して、ようやく沢崎直は大事なことを思い出した。
(……師匠って、剣の師匠だったぁぁぁぁぁぁぁ!!)
街中に遊びに行くなら、ヴィルも主人が帯剣しないことを何も言わなかっただろうが、今から行くのは幼い頃より剣を習ってきた師匠の家なのである。さすがに、ヴィルも確認するくらいの気にはなったのだろう。
完全に剣のことを失念していた沢崎直は、その事実に気付いた途端に分かりやすく慌て始めた。
「あっ、うあ。あの。け、剣ですよね。えっと。」
失踪から戻ってきた記憶喪失の主人が、剣を持つことに対して何故かあまり乗り気でないことは従者のヴィルも了解しているらしく、慌て始めた主人を宥めるように声を掛ける。
「大丈夫ですよ、アルバート様。本日は、師匠の顔を見に行くだけですから。剣がなくとも問題ないはずです。」
「で、でも!」
(師匠の所に剣なしで行くなんて、空手道場に普段着で道着も持たずに行くのと変わりないはずだよ!何しに来た?って感じじゃん!)
そんな舐めた奴、異世界でも許してもらえないんじゃなかろうか……。
武術というのは、半分が精神修行でもあると思うし、武道というのは道を教えることから礼儀作法にも厳しい。いくら習い事程度であっても、武道を習っていた者として、それはまずいんじゃないかと沢崎直は強く感じていた。
それに、沢崎直は帯剣の有無だけではない他の事実にも今更ながら気づいてしまった。
せっかく幼い頃から剣を教えたというのに、記憶喪失だからと剣が全く出来なくなっていたら師匠としてはどう思うのだろうか?そんな教え甲斐のない者は弟子失格なのではないか?
(……剣出来ないってバレたら、怒られちゃう?)
「し、師匠は怒ったら怖い方ですか?」
恐怖に怯えながら、沢崎直はヴィルへと尋ねる。
ヴィルは出発直前になって急に慌て始めた主人に呆れず、根気強く付き合ってくれる。
「大丈夫です、アルバート様。師匠が怒ることがあるとすれば、おそらく別の事です。」
「べ、別のこと?」
「はい。師匠はきっと手土産を忘れたりしたら怒るとは思いますが、他の事ではあまり怒ったりしません。弟子に怒ってまで指導するほど熱心な方ではありませんし、面倒事は極端に嫌う方ですから、面倒になれば放っておきます。怒りという感情を見せるほどやる気になることは滅多にありませんので、大丈夫です。手土産さえ十分でしたら、怒って追い返されることはまずないでしょう。」
ヴィルの師匠の説明のあまりの内容に、少しずつ沢崎直の恐慌は収まっていく。
だが、冷静になっていく心とは反対に、まだ見ぬ師匠という人物への疑問は余計に深まっていくばかりだった。
(……どういう人なんだろ?)
今から沢崎直が会いに行く師匠は、沢崎直にとってどんな人物となるだろうか……。
今はまだ、その答えを知る者は運命を司る神のみであった。
21
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
元勇者の俺と元魔王のカノジョがダンジョンでカップル配信をしてみた結果。
九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中
ファンタジー
異世界から帰還した元勇者・冴木蒼真(さえきそうま)は、刺激欲しさにダンジョン配信を始める。
異世界での無敵スキル〈破壊不可(アンブレイカブル)〉を元の世界に引き継いでいた蒼真だったが、ただノーダメなだけで見栄えが悪く、配信者としての知名度はゼロ。
人気のある配信者達は実力ではなく派手な技や外見だけでファンを獲得しており、蒼真はそんな〝偽者〟ばかりが評価される世界に虚しさを募らせていた。
もうダンジョン配信なんて辞めてしまおう──そう思っていた矢先、蒼真のクラスにひとりの美少女転校生が現れる。
「わたくし、魔王ですのよ」
そう自己紹介したこの玲瓏妖艶な美少女こそ、まさしく蒼真が異世界で倒した元魔王。
元魔王の彼女は風祭果凛(かざまつりかりん)と名乗り、どういうわけか蒼真の家に居候し始める。そして、とあるカップルのダンジョン配信を見て、こう言った。
「蒼真様とカップル配信がしてみたいですわ!」
果凛のこの一言で生まれた元勇者と元魔王によるダンジョン配信チャンネル『そまりんカップル』。
無敵×最強カップルによる〝本物〟の配信はネット内でたちまち大バズりし、徐々にその存在を世界へと知らしめていく。
これは、元勇者と元魔王がカップル配信者となってダンジョンを攻略していく成り上がりラブコメ配信譚──二人の未来を知るのは、視聴者(読者)のみ。
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

ハニーローズ ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~
悠月 星花
ファンタジー
「背筋を伸ばして凛とありたい」
トワイス国にアンナリーゼというお転婆な侯爵令嬢がいる。
アンナリーゼは、小さい頃に自分に関わる『予知夢』を見れるようになり、将来起こるであろう出来事を知っていくことになる。
幼馴染との結婚や家族や友人に囲まれ幸せな生活の予知夢見ていた。
いつの頃か、トワイス国の友好国であるローズディア公国とエルドア国を含めた三国が、インゼロ帝国から攻められ戦争になり、なすすべもなく家族や友人、そして大切な人を亡くすという夢を繰り返しみるようになる。
家族や友人、大切な人を守れる未来が欲しい。
アンナリーゼの必死の想いが、次代の女王『ハニーローズ』誕生という選択肢を増やす。
1つ1つの選択を積み重ね、みんなが幸せになれるようアンナリーゼは『予知夢』で見た未来を変革していく。
トワイス国の貴族として、強くたくましく、そして美しく成長していくアンナリーゼ。
その遊び場は、社交界へ学園へ隣国へと活躍の場所は変わっていく……
家族に支えられ、友人に慕われ、仲間を集め、愛する者たちが幸せな未来を生きられるよう、死の間際まで凛とした薔薇のように懸命に生きていく。
予知の先の未来に幸せを『ハニーローズ』に託し繋げることができるのか……
『予知夢』に翻弄されながら、懸命に生きていく母娘の物語。
※この作品は、「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルアップ+」「ノベリズム」にも掲載しています。
表紙は、菜見あぉ様にココナラにて依頼させていただきました。アンナリーゼとアンジェラです。
タイトルロゴは、草食動物様の企画にてお願いさせていただいたものです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる