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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!⑯『師匠からの手紙』
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十六
室内に入り、軽く一礼したヴィルは穏やかに微笑んだ。
「アルバート様。」
ヴィルの微笑みはアルバートが元気なことが嬉しいと言っているみたいで、沢崎直もつられてはにかんだ。
「ヴィル。何かありましたか?」
沢崎直が尋ねると、ヴィルは手に持っていた物を分かりやすく沢崎直に見えるように掲げた。
「はい。手紙が届きました。こちらです。」
「手紙?」
まだあまり知り合いの多くない沢崎直には、手紙の送り主の見当はつかない。
とりあえず受け取り、差出人を確認する。
「ゲオルグ・ガーランド……。」
(……誰?)
読み上げてみるが、知らない名前だ。
だが、表の宛先面にはアルバートの名前が書いてある。
沢崎直が手紙を持ったまま戸惑っていると、ヴィルはすぐに説明してくれた。
「師匠からの手紙です。俺宛にも届きまして、そこには諸国に修行の旅に出ていたが、そろそろ戻ると書かれていました。アルバート様宛の物も同様かと思われます。」
(師匠……。)
一度、その存在については聞いていた謎の人物からの手紙らしい。
手紙の封筒の表と裏をじっくりと観察した後、期待半分不安半分で沢崎直は手紙の封を切った。
中から出てきたのは、簡潔な内容の手紙である。
少し癖のある文字で、今しがたヴィルが説明したこととほぼ変わらぬことが書いてあった。他に書いてあったことと言えば、もし会いに来るなら土産の酒を忘れるなということだけである。というか、伝えたかったのは多分、そのことだけだと感じてしまう文面だ。自らの帰還やこちらの事情や、会いに来るうんぬんよりも土産の酒だけが目的のようである。
「……あのー。」
何と言っていいか分からず、手紙から顔を上げた沢崎直。
その表情から全てを察し、ヴィルは補足説明をしてくれた。
「そのー、師匠は剣の腕は確かなのですが、何と言ったらいいか……、少々性格に難がございまして。俺宛の手紙にも、土産の酒を忘れるなとしつこく書いてありました。」
「……お酒が好きな方なんですか?」
戸惑いの中、何を聞いていいか分からなかったがとりあえず質問する。
ヴィルはしっかりと頷いた。
「はい。浴びるほど呑まれます。消費量はロバート様を凌ぐかもしれません。」
(うん。会いに行く時は土産の酒は樽で買った方がいいな。)
とりあえず、手土産に悩まないのはいいことだ。
運搬手段が分からないが、その辺は酒屋さんに相談してみよう。
沢崎直は即座にそう決定して、もう一度手紙を見直した。
(……師匠かぁ。どんな人かな?)
ヴィルの説明だけでは、実際の人物のイメージが全く湧かない。
説明というよりは注意事項のようにすら聞こえるということは、それほど要注意人物なのだろうか?
だが、一応、辺境伯家の御曹司の剣の指南役を仰せつかるほどの人物ではあるはずだ。本当にどうしようもない奇人変人であったのなら、アルバートの両親が大事な息子に近づけるはずもない、と思う。
(……訳分かんないな……。)
前の世界の沢崎直の空手の師匠は、時に厳しく時に優しく、あまり出来がいいとは言えなかった沢崎直を、それでも諦めずに指導してくれた。真面目に練習に出る割に、進歩の遅い沢崎直にこつこつ続けることの大切さを説いてくれた。
ヴィルの表情を見るに、そんなタイプではなさそうだ。
(……会いに行った方がいいんだよね?)
不安が募り、自信がなくなる。
「会いに行かれますか?」
そんなタイミングでヴィルが尋ねてくる。
沢崎直はすぐには頷けなかった。だが、断ることも出来なかった。
ヴィルの顔を見て、しばし解決策を探る。
ヴィルは主人の逡巡を感じ、困ったように微笑んだ。
「そのー、手土産を持って行けば大丈夫かと。」
「そう、ですか……。」
何とか絞り出したような沢崎直の返事は、当然全く覇気のないものだった。
室内に入り、軽く一礼したヴィルは穏やかに微笑んだ。
「アルバート様。」
ヴィルの微笑みはアルバートが元気なことが嬉しいと言っているみたいで、沢崎直もつられてはにかんだ。
「ヴィル。何かありましたか?」
沢崎直が尋ねると、ヴィルは手に持っていた物を分かりやすく沢崎直に見えるように掲げた。
「はい。手紙が届きました。こちらです。」
「手紙?」
まだあまり知り合いの多くない沢崎直には、手紙の送り主の見当はつかない。
とりあえず受け取り、差出人を確認する。
「ゲオルグ・ガーランド……。」
(……誰?)
読み上げてみるが、知らない名前だ。
だが、表の宛先面にはアルバートの名前が書いてある。
沢崎直が手紙を持ったまま戸惑っていると、ヴィルはすぐに説明してくれた。
「師匠からの手紙です。俺宛にも届きまして、そこには諸国に修行の旅に出ていたが、そろそろ戻ると書かれていました。アルバート様宛の物も同様かと思われます。」
(師匠……。)
一度、その存在については聞いていた謎の人物からの手紙らしい。
手紙の封筒の表と裏をじっくりと観察した後、期待半分不安半分で沢崎直は手紙の封を切った。
中から出てきたのは、簡潔な内容の手紙である。
少し癖のある文字で、今しがたヴィルが説明したこととほぼ変わらぬことが書いてあった。他に書いてあったことと言えば、もし会いに来るなら土産の酒を忘れるなということだけである。というか、伝えたかったのは多分、そのことだけだと感じてしまう文面だ。自らの帰還やこちらの事情や、会いに来るうんぬんよりも土産の酒だけが目的のようである。
「……あのー。」
何と言っていいか分からず、手紙から顔を上げた沢崎直。
その表情から全てを察し、ヴィルは補足説明をしてくれた。
「そのー、師匠は剣の腕は確かなのですが、何と言ったらいいか……、少々性格に難がございまして。俺宛の手紙にも、土産の酒を忘れるなとしつこく書いてありました。」
「……お酒が好きな方なんですか?」
戸惑いの中、何を聞いていいか分からなかったがとりあえず質問する。
ヴィルはしっかりと頷いた。
「はい。浴びるほど呑まれます。消費量はロバート様を凌ぐかもしれません。」
(うん。会いに行く時は土産の酒は樽で買った方がいいな。)
とりあえず、手土産に悩まないのはいいことだ。
運搬手段が分からないが、その辺は酒屋さんに相談してみよう。
沢崎直は即座にそう決定して、もう一度手紙を見直した。
(……師匠かぁ。どんな人かな?)
ヴィルの説明だけでは、実際の人物のイメージが全く湧かない。
説明というよりは注意事項のようにすら聞こえるということは、それほど要注意人物なのだろうか?
だが、一応、辺境伯家の御曹司の剣の指南役を仰せつかるほどの人物ではあるはずだ。本当にどうしようもない奇人変人であったのなら、アルバートの両親が大事な息子に近づけるはずもない、と思う。
(……訳分かんないな……。)
前の世界の沢崎直の空手の師匠は、時に厳しく時に優しく、あまり出来がいいとは言えなかった沢崎直を、それでも諦めずに指導してくれた。真面目に練習に出る割に、進歩の遅い沢崎直にこつこつ続けることの大切さを説いてくれた。
ヴィルの表情を見るに、そんなタイプではなさそうだ。
(……会いに行った方がいいんだよね?)
不安が募り、自信がなくなる。
「会いに行かれますか?」
そんなタイミングでヴィルが尋ねてくる。
沢崎直はすぐには頷けなかった。だが、断ることも出来なかった。
ヴィルの顔を見て、しばし解決策を探る。
ヴィルは主人の逡巡を感じ、困ったように微笑んだ。
「そのー、手土産を持って行けば大丈夫かと。」
「そう、ですか……。」
何とか絞り出したような沢崎直の返事は、当然全く覇気のないものだった。
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