100 / 187
第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!⑮『異世界の困りごと』
しおりを挟む
十五
夕食が終わり、自室に戻った沢崎直。
無心になって剣を振り続けたおかげで、両腕が軽く筋肉痛になっていた。
生活に困るほどの痛みではないので、かえって清々しいくらいのものだ。
ソファに座り、軽く揉みほぐす。
このくらいの痛みならば、若いアルバートの肉体の回復力をもってすれば、一晩寝るくらいで大丈夫だろう。明日に持ち越すことはなさそうだ。
(……異世界って、アイシング用のスプレーとか湿布とかあるのかな?)
スポーツ選手が日々のケアをしているグッズのような物が異世界にも存在するのか?そんなことが筋肉痛のついでで気になった沢崎直。異世界に転生して一月くらいの初心者にはまだまだ知らないことが多すぎる。
シュテインベルク家の別邸にある書物や使用人の人たちとの会話で勉強してはいるが、生きた知識のようなものが沢崎直には絶対的に不足していた。それは、長年この世界で息をして生活することで自然と身に着けるようなものだからだ。
それでなくても、いくら記憶喪失を装っていても別世界の常識で生きてきた沢崎直にとっては、何か非常識な質問をしてしまうのではないかと気が気じゃないこともあり、使用人の人たち相手でも、どこまでのことを質問していいかの匙加減が未だ分からずじまいで、会話をしても受け身にならざるを得ないのが現状であった。そのため、質問する時も気を遣い過ぎて、聞きたいことの半分も聞くことが出来ず、理解は遅々として進まない。
(……この辺が手詰まりなんだよな……。何か、もっとはっきり質問できたらいいんだけど……。でも、言い訳が記憶喪失だけじゃ厳しそうだよな……。どんなに残念イケメンでも、心配かけるくらい素っ頓狂で頓珍漢なことは聞けないし……。)
軽くため息を吐いて頭を掻く。
(でも、結局、どういう質問したらいいかも分かんないんだよなぁ~。自分が何を知ってて、何が分かってないかも分かんないし……。異世界と前の世界の違いも詳しいところはよく分かんないし……。)
いっそ全部の事情を理解してくれて、何でも答えてくれるような不可思議アイテムとかチート能力とかはないものか……、在りそうもないけど……。
思考が堂々巡りに陥りそうになり、沢崎直は頭を振ると思考を中断した。どうにもならない問題で頭を悩ませても仕方がない。そういうものは、一旦棚上げしておくに限る。
堂々巡りになった問題の代わりに、今度は壁際に飾ってあるアルバートの剣を見つめてみる。
剣の鍛練については開き直ることにしたが、それでも斬れる方の剣はまだおっかなくて触っていない。腰に佩こうとして、ズボンがずり落ちて精神的に落ち込んだ日から、飾ったままになっている。その日だって、鞘から剣を抜くことはしなかった。
「どうしようかなぁ~。」
何をどうするつもりもない呟きが漏れる。
どう足掻いてもあの剣を自由自在に操る未来など見えはしない。それどころか帯剣して生活する自分も想像できない。あれは、アルバートの物であって沢崎直の物ではない。そう強く剣が主張している気がしてならないのだ。
(魔剣とか妖刀とか、そういうのの類じゃないんだろうけど……。私が無理して持っても、いいこと起きなさそうなんだよな……。)
言い方は良くないが、縁起が悪そうな気がしていまいち剣を触る気になれない沢崎直であった。
コンコン
そんな室内にノックの音が響く。
「はい。」
剣に向けていた意識を扉に向けて返事をする。
扉の向こうからは、従者のヴィルの麗しきイケボが響いた。
「アルバート様、よろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
夕食が終わり、自室に戻った沢崎直。
無心になって剣を振り続けたおかげで、両腕が軽く筋肉痛になっていた。
生活に困るほどの痛みではないので、かえって清々しいくらいのものだ。
ソファに座り、軽く揉みほぐす。
このくらいの痛みならば、若いアルバートの肉体の回復力をもってすれば、一晩寝るくらいで大丈夫だろう。明日に持ち越すことはなさそうだ。
(……異世界って、アイシング用のスプレーとか湿布とかあるのかな?)
スポーツ選手が日々のケアをしているグッズのような物が異世界にも存在するのか?そんなことが筋肉痛のついでで気になった沢崎直。異世界に転生して一月くらいの初心者にはまだまだ知らないことが多すぎる。
シュテインベルク家の別邸にある書物や使用人の人たちとの会話で勉強してはいるが、生きた知識のようなものが沢崎直には絶対的に不足していた。それは、長年この世界で息をして生活することで自然と身に着けるようなものだからだ。
それでなくても、いくら記憶喪失を装っていても別世界の常識で生きてきた沢崎直にとっては、何か非常識な質問をしてしまうのではないかと気が気じゃないこともあり、使用人の人たち相手でも、どこまでのことを質問していいかの匙加減が未だ分からずじまいで、会話をしても受け身にならざるを得ないのが現状であった。そのため、質問する時も気を遣い過ぎて、聞きたいことの半分も聞くことが出来ず、理解は遅々として進まない。
(……この辺が手詰まりなんだよな……。何か、もっとはっきり質問できたらいいんだけど……。でも、言い訳が記憶喪失だけじゃ厳しそうだよな……。どんなに残念イケメンでも、心配かけるくらい素っ頓狂で頓珍漢なことは聞けないし……。)
軽くため息を吐いて頭を掻く。
(でも、結局、どういう質問したらいいかも分かんないんだよなぁ~。自分が何を知ってて、何が分かってないかも分かんないし……。異世界と前の世界の違いも詳しいところはよく分かんないし……。)
いっそ全部の事情を理解してくれて、何でも答えてくれるような不可思議アイテムとかチート能力とかはないものか……、在りそうもないけど……。
思考が堂々巡りに陥りそうになり、沢崎直は頭を振ると思考を中断した。どうにもならない問題で頭を悩ませても仕方がない。そういうものは、一旦棚上げしておくに限る。
堂々巡りになった問題の代わりに、今度は壁際に飾ってあるアルバートの剣を見つめてみる。
剣の鍛練については開き直ることにしたが、それでも斬れる方の剣はまだおっかなくて触っていない。腰に佩こうとして、ズボンがずり落ちて精神的に落ち込んだ日から、飾ったままになっている。その日だって、鞘から剣を抜くことはしなかった。
「どうしようかなぁ~。」
何をどうするつもりもない呟きが漏れる。
どう足掻いてもあの剣を自由自在に操る未来など見えはしない。それどころか帯剣して生活する自分も想像できない。あれは、アルバートの物であって沢崎直の物ではない。そう強く剣が主張している気がしてならないのだ。
(魔剣とか妖刀とか、そういうのの類じゃないんだろうけど……。私が無理して持っても、いいこと起きなさそうなんだよな……。)
言い方は良くないが、縁起が悪そうな気がしていまいち剣を触る気になれない沢崎直であった。
コンコン
そんな室内にノックの音が響く。
「はい。」
剣に向けていた意識を扉に向けて返事をする。
扉の向こうからは、従者のヴィルの麗しきイケボが響いた。
「アルバート様、よろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
41
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。


【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる