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第二部

第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!⑮『異世界の困りごと』

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      十五

 夕食が終わり、自室に戻った沢崎直。
 無心になって剣を振り続けたおかげで、両腕が軽く筋肉痛になっていた。
 生活に困るほどの痛みではないので、かえって清々しいくらいのものだ。
 ソファに座り、軽く揉みほぐす。
 このくらいの痛みならば、若いアルバートの肉体の回復力をもってすれば、一晩寝るくらいで大丈夫だろう。明日に持ち越すことはなさそうだ。
(……異世界って、アイシング用のスプレーとか湿布とかあるのかな?)
 スポーツ選手が日々のケアをしているグッズのような物が異世界にも存在するのか?そんなことが筋肉痛のついでで気になった沢崎直。異世界に転生して一月くらいの初心者にはまだまだ知らないことが多すぎる。
 シュテインベルク家の別邸にある書物や使用人の人たちとの会話で勉強してはいるが、生きた知識のようなものが沢崎直には絶対的に不足していた。それは、長年この世界で息をして生活することで自然と身に着けるようなものだからだ。
 それでなくても、いくら記憶喪失を装っていても別世界の常識で生きてきた沢崎直にとっては、何か非常識な質問をしてしまうのではないかと気が気じゃないこともあり、使用人の人たち相手でも、どこまでのことを質問していいかの匙加減が未だ分からずじまいで、会話をしても受け身にならざるを得ないのが現状であった。そのため、質問する時も気を遣い過ぎて、聞きたいことの半分も聞くことが出来ず、理解は遅々として進まない。
(……この辺が手詰まりなんだよな……。何か、もっとはっきり質問できたらいいんだけど……。でも、言い訳が記憶喪失だけじゃ厳しそうだよな……。どんなに残念イケメンでも、心配かけるくらい素っ頓狂で頓珍漢なことは聞けないし……。)
 軽くため息を吐いて頭を掻く。
(でも、結局、どういう質問したらいいかも分かんないんだよなぁ~。自分が何を知ってて、何が分かってないかも分かんないし……。異世界と前の世界の違いも詳しいところはよく分かんないし……。)
 いっそ全部の事情を理解してくれて、何でも答えてくれるような不可思議アイテムとかチート能力とかはないものか……、在りそうもないけど……。
 思考が堂々巡りに陥りそうになり、沢崎直は頭を振ると思考を中断した。どうにもならない問題で頭を悩ませても仕方がない。そういうものは、一旦棚上げしておくに限る。
 堂々巡りになった問題の代わりに、今度は壁際に飾ってあるアルバートの剣を見つめてみる。
 剣の鍛練については開き直ることにしたが、それでも斬れる方の剣はまだおっかなくて触っていない。腰に佩こうとして、ズボンがずり落ちて精神的に落ち込んだ日から、飾ったままになっている。その日だって、鞘から剣を抜くことはしなかった。
「どうしようかなぁ~。」
 何をどうするつもりもない呟きが漏れる。
 どう足掻いてもあの剣を自由自在に操る未来など見えはしない。それどころか帯剣して生活する自分も想像できない。あれは、アルバートの物であって沢崎直の物ではない。そう強く剣が主張している気がしてならないのだ。
(魔剣とか妖刀とか、そういうのの類じゃないんだろうけど……。私が無理して持っても、いいこと起きなさそうなんだよな……。)
 言い方は良くないが、縁起が悪そうな気がしていまいち剣を触る気になれない沢崎直であった。
 
 コンコン

 そんな室内にノックの音が響く。
「はい。」
 剣に向けていた意識を扉に向けて返事をする。
 扉の向こうからは、従者のヴィルの麗しきイケボが響いた。
「アルバート様、よろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
 

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