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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!⑫『自分会議、白熱』
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十二
沢崎直による脳内自分会議は続く。
議論が脱線していた中、一人口を挟まずに考え込んでいた沢崎直が、おずおずと手を上げた。
「あのー。」
「はい、直さん。どうしました?」
「実は、気になっていたことがあるんですか……。」
首を傾げながら、自信なさそうに口を開く沢崎直。
議長の沢崎直は先を促した。
「何ですか?」
「はい。あのですね。……剣は、使えなくてはいけませんか?」
「は?」
突然議場に投げかけられた疑問に、場が固まる。
沢崎直たちは一斉に口を閉じて、発言する沢崎直を見詰めた。
「だって、そうじゃないですか?元々、アルバート氏は剣がそこそこ使えたと聞いてはいますが、今は記憶喪失なわけですし……。何より、そもそも論として一年もブランクがあったら、使えていたとしても多少腕が落ちることもあるでしょう?空手だって、練習を怠れば技に出ます。それと同じことが起きたのだと言い訳はできませんか?」
「……。」
現状に新しい視点が示され、各々が考察を始める。
「それに、剣が出来なくて困ることは何ですか?」
「というと?」
「領内のモンスター討伐とかなら、剣が多少使えたところで、多分アルバート氏ではない沢崎直なら足手まとい確実でしょう?ビビらずに、倒せます?モンスター。」
「無理だ。」
「無理ですね。」
無理だという方向で議場が一体となる。
それに勇気づけられるように、発言者の沢崎直は続ける。
「でしょ?だったら、記憶喪失で剣が使えなくなっちゃったぁという設定を更にプラスしてもらった方が、怖いことは少なくて済むのではないですか?」
「そうだな。」
「怖いのは嫌です!」
うんうんと皆が頷く。
解決策と言えるかは分からないが、発言者の沢崎直によって纏まりきらなかった議論に一定の方向性という光が射し込み始めた。
「なら、最初から頭数として数えられない方がいいと思います。そうすれば、剣を使わなくてはいけない場面は極端に減ります。応えられそうもない期待に無理矢理応えなくてはならないと思うから、無理が生じるんです!」
初めはおずおずと自信なさげだった発言者の沢崎直だが、皆の賛同を得始めた今は声もはっきりとして自信が漲り始めていた。俄然、説得力は増していく。
「もちろん、周りの皆さんにがっかりされてしまうというのはあると思います。でも、だからこそ、無様でもいいから剣を稽古している姿は見せておく必要はあると思います。」
「ダサイのはしょうがない!」
「剣に向いてないんだから!」
「上手くなくても頑張ってればいいんじゃないんでしょうか!剣は使えなくても、頑張ってるよーというアピールこそが、今のアルバート(in沢崎直)に必要なことだと、私は思います!」
「しかし、それでは、残念イケメンということになってしまいますよ?それでいいんですか?」
そのまま収束しそうだった議論に、敢えて議長が疑義を挟んだ。
だが、水を差されたような状況であるというのに、発言者の沢崎直は少しも怯まなかった。一歩も引くことなく、漲る自信のまま、議長の疑義に対する答えも用意しているように堂々としていた。
「いいんです!だって、所詮、中身はモブ女なんですから!」
高らかな声で宣言される。
議場の面々は、その宣言にはっと息を呑みこんだ。
「どういうことです?」
「外見がイケメンだからといって、無理に恰好つける必要はないということです。もちろん、アルバート氏には多少申し訳ないですが……。それでも、人間には出来ることと出来ないことがあるんです!私たちに、四六時中イケメンとしての振る舞いが出来ますか?」
「!」
「!!」
会場の全員が雷に打たれたような衝撃を受ける。
その反応を満足そうに確認すると、発言者の沢崎直は追い討ちをかけるようにゆっくりと続けた。
「それを365日、続けられますか?」
「……」
会場の全員がぐうの音も出ずに黙り込む。
発言者の沢崎直はさもありなんという顔で何度も頷いた。
「そうです。そうなんです。無理なんです。だったら、もう最初から諦めて残念イケメンとして今後を送っていくことを考えた方がいいんです、私たちは。もちろん、初めはがっかりされるでしょう。落胆されるでしょう。でも、それでも、過剰な期待に応えることは出来ません。我々は所詮、モブ女なんですから。」
「そうだ。」
「モブなんだ。」
議場に集まった全ての沢崎直が自らの存在を改めて確認する。
たくさんのモブ女たちが、その意見に一斉に納得していた。
沢崎直による脳内自分会議は続く。
議論が脱線していた中、一人口を挟まずに考え込んでいた沢崎直が、おずおずと手を上げた。
「あのー。」
「はい、直さん。どうしました?」
「実は、気になっていたことがあるんですか……。」
首を傾げながら、自信なさそうに口を開く沢崎直。
議長の沢崎直は先を促した。
「何ですか?」
「はい。あのですね。……剣は、使えなくてはいけませんか?」
「は?」
突然議場に投げかけられた疑問に、場が固まる。
沢崎直たちは一斉に口を閉じて、発言する沢崎直を見詰めた。
「だって、そうじゃないですか?元々、アルバート氏は剣がそこそこ使えたと聞いてはいますが、今は記憶喪失なわけですし……。何より、そもそも論として一年もブランクがあったら、使えていたとしても多少腕が落ちることもあるでしょう?空手だって、練習を怠れば技に出ます。それと同じことが起きたのだと言い訳はできませんか?」
「……。」
現状に新しい視点が示され、各々が考察を始める。
「それに、剣が出来なくて困ることは何ですか?」
「というと?」
「領内のモンスター討伐とかなら、剣が多少使えたところで、多分アルバート氏ではない沢崎直なら足手まとい確実でしょう?ビビらずに、倒せます?モンスター。」
「無理だ。」
「無理ですね。」
無理だという方向で議場が一体となる。
それに勇気づけられるように、発言者の沢崎直は続ける。
「でしょ?だったら、記憶喪失で剣が使えなくなっちゃったぁという設定を更にプラスしてもらった方が、怖いことは少なくて済むのではないですか?」
「そうだな。」
「怖いのは嫌です!」
うんうんと皆が頷く。
解決策と言えるかは分からないが、発言者の沢崎直によって纏まりきらなかった議論に一定の方向性という光が射し込み始めた。
「なら、最初から頭数として数えられない方がいいと思います。そうすれば、剣を使わなくてはいけない場面は極端に減ります。応えられそうもない期待に無理矢理応えなくてはならないと思うから、無理が生じるんです!」
初めはおずおずと自信なさげだった発言者の沢崎直だが、皆の賛同を得始めた今は声もはっきりとして自信が漲り始めていた。俄然、説得力は増していく。
「もちろん、周りの皆さんにがっかりされてしまうというのはあると思います。でも、だからこそ、無様でもいいから剣を稽古している姿は見せておく必要はあると思います。」
「ダサイのはしょうがない!」
「剣に向いてないんだから!」
「上手くなくても頑張ってればいいんじゃないんでしょうか!剣は使えなくても、頑張ってるよーというアピールこそが、今のアルバート(in沢崎直)に必要なことだと、私は思います!」
「しかし、それでは、残念イケメンということになってしまいますよ?それでいいんですか?」
そのまま収束しそうだった議論に、敢えて議長が疑義を挟んだ。
だが、水を差されたような状況であるというのに、発言者の沢崎直は少しも怯まなかった。一歩も引くことなく、漲る自信のまま、議長の疑義に対する答えも用意しているように堂々としていた。
「いいんです!だって、所詮、中身はモブ女なんですから!」
高らかな声で宣言される。
議場の面々は、その宣言にはっと息を呑みこんだ。
「どういうことです?」
「外見がイケメンだからといって、無理に恰好つける必要はないということです。もちろん、アルバート氏には多少申し訳ないですが……。それでも、人間には出来ることと出来ないことがあるんです!私たちに、四六時中イケメンとしての振る舞いが出来ますか?」
「!」
「!!」
会場の全員が雷に打たれたような衝撃を受ける。
その反応を満足そうに確認すると、発言者の沢崎直は追い討ちをかけるようにゆっくりと続けた。
「それを365日、続けられますか?」
「……」
会場の全員がぐうの音も出ずに黙り込む。
発言者の沢崎直はさもありなんという顔で何度も頷いた。
「そうです。そうなんです。無理なんです。だったら、もう最初から諦めて残念イケメンとして今後を送っていくことを考えた方がいいんです、私たちは。もちろん、初めはがっかりされるでしょう。落胆されるでしょう。でも、それでも、過剰な期待に応えることは出来ません。我々は所詮、モブ女なんですから。」
「そうだ。」
「モブなんだ。」
議場に集まった全ての沢崎直が自らの存在を改めて確認する。
たくさんのモブ女たちが、その意見に一斉に納得していた。
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