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第二部
序
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――――もしも……
もしも、もしも、人生に『もしも』はつきものだ。
だが、人生にもしもはない。少なくとも、もしもなどと言って叶うことなどない。
人生は常に進んでいくもので、過去に戻りやり直すことなど出来はしないのだ。
一方通行の人生だからこそ、人はもしもと願う。
後悔の残る過去に、もしもという言葉でアクセスを試みる。
本当は、今を後悔のないようにすることが最適解であるはずなのに……。
そんなこと、出来はしないから……。
沢崎直もそんな人間の一人だ。
だから、いつももしもを願ってしまう。
無理なことは分かっていながら、それでも願うことは止められない。
もしも、あの時、亜佐美と帰っていたら……。
もしも、あの時、すぐにタクシーを呼んでいたら……。
もしも、あの時、伯爵令嬢に出会っていなかったら……。
もしも、あの時、あの首飾りを出していなければ……。
本来なら捨てられて意味がなくなった方の人生の選択肢を、いつまでも捨てきれずにしがみつき眺め続ける。見えるはずもない、もしもの先にあったはずの別の未来を夢想してしまう。
人生に光だけが満ち溢れた道はない。
幸せとは相対評価であり、自分にとって都合の良いことばかりが起こることなどあり得ない。
祝福されていたと思っていた場所が、ある日突然、別の側面を見せることだってある。
足りない場合は飢餓感が募り、有り余る場合は満腹感に満たされるわけではなく、結局倦怠感に包まれてしまう。幸せのバランスを取り続けられる人間はなかなかいない。それでなくても、人の幸せなどというものは、外的要因によってすぐに崩れ去る脆い物なのだ。
結局、与えられた場所でもがき足掻き続けるのが、人生なのかもしれない。
何を与えられたところで、何を与えられなかったところで、完全はない。
何を奪われ、何を満たされ、何を持たされ、何を背負われ、何をしたところで……。
生きるとはとどのつまり、死ぬまでの悪あがきなのだ。
二度目の人生という稀有な経験の真っ最中の沢崎直が唯一他人より先んじているところがあるとするならば、一度死んだことにより、人生の有限性を身を持って知っていることだろう。
だから、今日も元・モブ女は進む。
出来るだけ顔を上げて……。
いつか、終わってしまうことを知っているから、前へ進む。
まだ、転生して間もない異世界を、七転八倒しながら進んでいく。
これが、自らの生きる道であると信じて……。
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