転生したらついてましたァァァァァ!!!

夢追子

文字の大きさ
上 下
77 / 187
第一部

第四章 嵐呼ぶブラコンと推しの危機㉑『懇願』

しおりを挟む
      二十一

「ど、ど、ど、ど、」
(どういうことぉぉぉぉぉぉぉぉ!!)
 言葉より先に心の声で絶叫する沢崎直。
 あわあわと慌てふためくだけで、何も言葉が口から出て来ない。
 状況の理解も整理も出来ず、きょろきょろと周りを見回す。
 そんなことをしている間に、ヴィルは深々と下げていた頭を上げて、全てを諦めたようで儚さすら感じる微笑みを浮かべた。
「せめて、アルバート様の記憶喪失を治せるお医者様を探しに参りたいと思います。失礼いたします。」
 何が、せめてなのか。何故、そう結論が出たのか。沢崎直には全く文脈が理解できない。
 とりあえず本能の赴くまま、衝動的にヴィルの腕を掴んでいた。
 ヴィルが沢崎直の行動に驚いて腕を見つめるが、離しはしないと必死に追い縋る。
「ま、待ってください、ヴィル。」
 何とか形になった言葉で呼び止める。
 ヴィルは、沢崎直の手に自分の反対側の手をそっと重ねると首を振った。
「アルバート様。」
「だ、ダメです。行ったら、泣きます。泣き止まないです。そしたら、具合が悪くなります。ご飯も美味しく食べられないし、眠れなくなります。」
 一度、言葉が出たら今度は取り留めなく流れていく。
 そんな意味が通じるかもわからないほど脈絡のない言葉で、必死に押し留めるべく懇願する。そうでもしないと、一生後悔すると沢崎直には確信があった。
「アルバート様。」
 説得するような声音で呼びかけられる。
 今度は、沢崎直が首を振る番だった。
「嫌です。ダメです。行かないでください。傍にいてください。ヴィルがいないと、私はダメなんです。」
 こんなこと沢崎直は、今までフラれた過去の男にだって言ったことはない。追い縋ることも、みっともなくその場で泣くこともなかった。今まではじっと耐えて、冷静でいるよう努めていた。
 しかし、今は違う。
 全ての細胞が訴えている。ここで手を離してはいけない。この人を行かせてはいけない。
 泣いてでも喚いてでも、追い縋らなければいけないのだ。
 腕を掴むだけでは飽き足らず、そのままヴィルの身体にしがみつく。
 体幹がしっかりしたヴィルの身体は、成人男性であるアルバートの身体でしがみついてもびくともしなかった。
 普段の沢崎直なら、そんなこと勇気がなくて出来ないが、今なら何でもできた。
 それだけ何かに突き動かされるように必死だった。
「嫌です。離れません。どこかに行くなら、私も一緒に連れてってください。記憶なんて戻らなくてもいいんです。ヴィルがいなくなったら、記憶があっても意味がないんです。」
 子供のようにしがみつき、必死に哀願する沢崎直。
 ヴィルは困ったように微笑んで、幼い子供に言い聞かせるような優しい声音を響かせた。
「アルバート様、聞いてください。」
「嫌です、聞きません。聞いたら、ヴィルが行かないなら聞きます。」
「アルバート様。」
 さすがにヴィルも主人であるアルバートを力づくで引き剥がすことはできない。
 そう見越して、沢崎直は更に力いっぱいヴィルの身体に引っ付いた。
 そんな二人の押し問答は長く続くかと思われたが、別の人物の登場により、事態は別の方向へと展開していく。
「そこで何をしている?」
 遠くから響いたのは、筋力量と肺活量に裏打ちされた豊かなロバートの声だった。
 助けを求めて沢崎直は大きい声で叫ぶ。
「ロバート兄さん!」
 ロバートならヴィルを一緒に説得してくれるのではないかと、沢崎直は期待したのだ。
 だが、沢崎直は大事なことを忘れていた。
 ロバートは空気を呼んでくれないということを……。
 その上、話も聞いてくれないのだ……。
 案の定、二人に近づいてきたロバートは口を開くと、ヴィルに言った。
「何をしている、ヴィルヘルム。どこへなりと去れと言ったことが理解できなかったのか?」
(違ぁうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!)
 やっぱり、沢崎直は心の中で絶叫していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
簡易説明 転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です 詳細説明 生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。 そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。 そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。 しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。 赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。 色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。 家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。 ※小説家になろう様でも投稿しております

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

異世界生活物語

花屋の息子
ファンタジー
 目が覚めると、そこはとんでもなく時代遅れな異世界だった。転生のお約束である魔力修行どころか何も出来ない赤ちゃん時代には、流石に凹んだりもしたが俺はめげない。なんて言っても、魔法と言う素敵なファンタジーの産物がある世界なのだから・・・知っている魔法に比べると低出力なきもするが。 そんな魔法だけでどうにかなるのか???  地球での生活をしていたはずの俺は異世界転生を果たしていた。転生したオジ兄ちゃんの異世界における心機一転頑張ります的ストーリー

形成級メイクで異世界転生してしまった〜まじか最高!〜

ななこ
ファンタジー
ぱっちり二重、艶やかな唇、薄く色付いた頬、乳白色の肌、細身すぎないプロポーション。 全部努力の賜物だけどほんとの姿じゃない。 神様は勘違いしていたらしい。 形成級ナチュラルメイクのこの顔面が、素の顔だと!! ……ラッキーサイコー!!!  すっぴんが地味系女子だった主人公OL(二十代後半)が、全身形成級の姿が素の姿となった美少女冒険者(16歳)になり異世界を謳歌する話。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

処理中です...